玉露を生み出した山本山だからこその、現代人に寄り添うウェルネス提案
336年目の新たな挑戦――。「上から読んでも、下から読んでも」のCMで知られる山本山が3月、新ブランドを立ち上げた。最高級のお茶「玉露」を通じて、ウェルビーイングな価値を伝えるブランド、その名も「YMY(ワイエムワイ)」だ。海苔で広く知られる同社は、創業の原点であるお茶のブランディングを今ひとたび強化。連綿と受け継がれてきた理念を現代風にアップデートしながら、より幅広い層へのアプローチを目指す。
山本山は日本最古の煎茶商として1690年に創業した。元号で言えば元禄3年。徳川綱吉が5代将軍として江戸を治め、松尾芭蕉が奥の細道の旅に出かけた時代だ。こうした歴史を思えば、「老舗」という言葉すら控えめに感じられるほど、同社が積み重ねてきた年月の長さが際立つ。
しかし、驚くべきはそれだけではない。今の時代も親しまれ、飲み継がれる玉露。その発明者は、実は山本山の6代目、山本嘉兵衛徳翁だ。甘露のごとく玉のような茶葉に由来する玉露が初めて淹れられたのは1835年。以来、同社は2世紀近くにわたり、その香りと豊かな甘みを今に伝承し続けている。
一方で、山本山が現代の生活者に改めて玉露を提案するにあたっては、いくつかのハードルが存在していた。玉露は一般的に「高級品」のイメージが強く、「気軽に手を出せない」「飲み方が難しそう」といった先入観が少なからずつきまとう。また、同社が既存ブランドで展開するお茶や海苔はいずれも進物需要がメインであり、マーケットの固定化や顧客層の高齢化が課題となっていた。
Z世代やミレニアル世代も含めたより広い層に、もっと自分らしく、自由に玉露を楽しんでもらいたい――。そこで山本山が着目したキーワードが、人が身体的・精神的、かつ社会的にも良好な状態を示す「ウェルビーイング」という言葉だった。「お茶は、江戸時代から今に至るまで、人と社会の力になってきました」とブランドマネージャーを務める由井卓治常務執行役員事業開発統括本部長は指摘する。「例えば、忙しい時に熱いお茶を飲んでほっとしたり、もう一度頑張るぞと元気を出したり。出会ったばかりの人と人の間をやさしくつなぎ、コミュニケーションを円滑にしたり。心身の健康と幸福に寄り添う、変わらないお茶の価値。これを現代の言葉で翻訳すると『ウェルビーイング』になると思ったのです」
この思想を軸に、山本山の新ブランドであるYMYは立ち上がった。YMYは「玉露ウェルネスブランド」として、心と体を整える存在としての玉露を再定義する。玉露には、カフェインによる集中力向上とテアニンによるリラックス効果があり、心身のバランスを整える飲料としてのポテンシャルが高い。歴史は古いが、まだ十分に知られていない玉露の魅力を掘り起こし、忙しい日々の合間に自分を思いやるひとときを届けることがYMYの使命となる。
「喉が渇いたらペットボトルで気軽にお茶が飲める時代。だからこそ我々は、それとは違う日常のふとした瞬間に玉露を提案することで、お茶の新しい文化を創造していきたい」(由井常務)。YMYが見据えるのは、単なる飲料提案ではなく、生活そのものへの提案だ。ウェルネスやセルフケアの市場、こだわりのライフスタイルを求める市場までを視野に入れ、既存ブランドでは捉えきれなかった顧客の開拓を加速する狙いがある。
始まる、整う、向き合う…気持ちに合わせて選ぶお茶
今回、YMYのシグネチャーアイテムとして投入するのが「五種類の玉露ハーブティー」だ。玉露にハーブやスパイス、フルーツを掛け合わせたティーバッグで、日本茶を新しいスタイルで手軽に楽しめることを提案する。

特に印象的なのが、それぞれのフレーバー名だ。味や素材を前面に出すのではなく、「HAJIMARU(始まる)」、「TOTONOU(整う)」、「MUKIAU(向き合う)」、「YASURAGU(安らぐ)」、「SUSUMU(進む)」と、飲む人の気持ちやシーンに寄り添うネーミングを採用した。商品企画を担当する今井章季世商品部商品企画グループ長マーケティング部ブランドアシスタントマネージャーは、「生活の中で、仕事の前にハンドクリームを塗ったり、家でひと息つくときにキャンドルを灯したりするように、このお茶も日常の様々な場面に自然に取り入れてほしい」と語る。
こうした考えを反映し、パッケージもシズルではなく、海外アーティストにコンセプトを伝えて描き下ろしてもらったアートを採用した。ちなみにフレーバー名を含め、パッケージには海外顧客向けの英語も併記している。例えば「始まる」は、英語では「AWAKE(目覚める)」と表現。玉露に陳皮、柚子、スペアミントを組み合わせたブレンドで、朝の目覚めや気持ちをリセットしたい時、リフレッシュしたい場面にぴったりの一杯となっている。
玉露ハーブティーには、焙煎して香ばしさを増した「玉露雁が音ほうじハーブティー」というバリエーションも用意している。ただし、どちらもティーバッグ仕様で、淹れ方は変わらない。90度のお湯で2分抽出するだけで楽しめる。「玉露には、50~60度でじっくり入れる伝統的な飲み方もありますが、『淹れ方が難しそう』『茶器がない』という方にとってはそれ自体がハードルになる。まずはその壁を取り払うことを大切にしました」と今井グループ長は力を込める。
そのほか、YMYの第一弾商品としては、5種類のフレーバーを全種楽しめるギフトアソートと季節限定アソート、玉露のシングルティーもラインアップする。また、玉露を使ったチョコ・あめを展開するほか、オリジナルグッズとしてYMYのロゴ入りウォーターボトルも販売する予定だ。
今後も商品ラインアップは順次拡大していく。YMYが掲げる玉露ウェルネスというコンセプトは幅が広く、玉露そのものに限らず、玉露と一緒に楽しめるアイテムや、玉露から抽出した成分を活用した商品など、さまざまな可能性がある。カテゴリーにとらわれず、日常のふとした瞬間に寄り添う多様なプロダクトを模索していく考えだ。
YMYのECサイト立ち上げ、さらに二子玉川に旗艦店をオープン
YMYの立ち上げに合わせて、山本山は販売チャネルも大きく刷新する。まず、3月27日にウェブサイトを全面リニューアルする。これまでは消費者向けECサイトに機能を集約していたが、今後はコーポレートサイト、山本山のブランドサイト、そしてYMYのブランドサイトへと役割を分け、ECもブランドごとに展開する。YMYの商品はリニューアル当日から販売を開始。新しいサイトでは、ブランドのストーリーや価値観を丁寧に発信しながら、認知の拡大とファンづくりを進めていく。
また、4月8日には旗艦店「YMY GYOKURO TEAROOM」を二子玉川高島屋SCの1階にオープンする。物販とカフェを併設した空間で、YMYが掲げる玉露ウェルネスの世界観を気軽に体験できる場として展開する。

山本山の実店舗といえば、2018年に創業の地である東京・日本橋にオープンした「ふじヱ茶房」があるが、「こちらが山本山の継承や伝統の部分をじっくりお伝えする拠点だとしたら、今回の店舗は山本山の全く新しい展開を見せる場」と中嶋辰宏執行役員事業開発本部リテールマネジメント部長は説明する。「より今の時代に合う軽やかなイメージで、使い方や楽しみ方も一つに決めず、お客様自身に色をつけてもらえるような場所にしたい」と意気込みを語る。
YMYは自社チャネル以外での販路開拓にも積極的に取り組む。すでに京阪グループのビオスタイルが展開するこだわり品ショップ「GOOD NATURE STATION」およびその系列ホテルで導入が決まっているほか、今後は商品の説明やカウンセリングを行いながら販売できる場所を中心に、さらなる展開を検討していく方針だ。
300余年の間、お茶とともに人々の生活を潤し続けてきた山本山。現代の暮らしに寄り添うウェルビーイングのキーワードとともに新ブランドYMYを打ち出し、同社はお茶の新しい歴史をここからまた築き始める。















