セブン&アイ・ホールディングス(HD)の食品製造・加工を担うPeace Deli(ピースデリ)の和瀬田純子社長と、ピースデリの製造現場の衛生管理を支えるサラヤの戸室淳治取締役サニテーション事業本部長の2人が、これからの衛生管理と環境対応における課題や取り組みについて活発な意見交換を行った。

新設の専用工場の生鮮から惣菜まで衛生管理を徹底

 ――昨年から専用工場を相次いで立ち上げています。セブン&アイHDにとっての位置づけはどのようなものですか。

 和瀬田 「食」の強化は、首都圏のイトーヨーカ堂などのSST(スーパーストア)事業改革の成長戦略の核となります。その戦略に沿って、セブン&アイグループ初の共通インフラ「流山キッチン」(千葉県)を2023年3月に、同じく「杉戸キッチン」(埼玉県)を同年11月にイトーヨーカ堂より事業承継、そして「千葉キッチン」(千葉県)を今年2月から稼働を開始。ピースデリが三つの工場での食品製造・現場を担っています。流山は精肉、鮮魚のプロセスセンター(PC)になりますが、杉戸はイトーヨーカ堂が運営していたPCの事業を継承。最新鋭の千葉は、惣菜も加えました。特に惣菜では、黄色ブドウ球菌など気をつけないといけない菌が非常に多いことから、一段とレベルの高い衛生管理で工場を運営しています。

 ――衛生管理体制で必要な教育のソフト面はいかがでしょうか。

 和瀬田 ピースデリの製造現場で働いている方々はベトナムからの特定技能がほとんどで、非常に真面目で仕事熱心なのですが、言語の壁で苦労することがあります。そこで通訳の方を入れ定期的に衛生教育の場を設けています。まずはサラヤさんの手洗い石鹸液やアルコール消毒剤を使った基本の徹底を図ります。

 戸室 サラヤはセブン&アイHDさんも含めた小売業に石鹸液・アルコール消毒剤、各種洗浄剤、洗浄設備などのハード面に加え、教育やマニュアル、帳票類、温度記録などの衛生管理に係るソフト面をトータルで提供しています。その中で課題は、食品製造・加工の現場で人手不足や労働人口の高齢化の進展、そして外国籍の方への衛生教育が共通テーマとして挙がっています。そこでサラヤでは、持続可能な衛生管理の運用実現に向け、IT技術を活用した衛生情報を一元管理できる「GRASP」(グラスプ)の機能拡充に力を入れています。特にベトナム語を含めた6カ国語に対応している動画の配信サービス「おしえて!さらちゃん」は効果があり、感染症、食品衛生に加え、洗剤の使い方をはじめとした「労働安全」カテゴリーのコンテンツが学べます。

 和瀬田 ピースデリでも定期的なコミュニケーションは取っているのですが、網羅的になってしまうことが多々あり、すべての衛生事項をマニュアル書にまとめると紙が厚くなりすぎることもあります。その点では、動画配信サービスは、忘れた工程だけを再生して復習することもできますね。さらにコミュニケーションツールに搭載することができれば、従業員も空き時間にチェックすることもできます。

 戸室 もちろん、他社さんが提供しているコミュニケーションツールに導入することもできますので、従業員の衛生教育レベルに合わせて上手く活用していただければと考えています。

 ――教育面の支援システムとはどのようなものですか。

 戸室 サラヤ独自のシステムとしては、お客様の現場にフィットする形で、持続可能な衛生管理と労働環境改善などを提案するインストラクターが全国に約100名常駐していることです。このインストラクターが年間で約1万の施設を回っています。洗剤メーカーならではの豊富な衛生知識や行政機関から出た最新情報の提供、そして長年培ったノウハウに基づくソリューションを提案しています。実際のふき取り検査や食材検査、モニタリング、マニュアル作成なども行います。HACCPの指導・研修に加え、ISO22000やJFS規格の導入コンサルティングができる部隊であることも強みです

 和瀬田 それは素晴らしいですね。是非一度、千葉の製造現場を見学していただき、衛生調査と改善案について当社の品質管理部門と一緒に話し合いの場を設けていただきたい。流山キッチンでは、JFS-B規格(食品安全マネジメント規格)を取得し、千葉キッチンでも取得を進めていく予定で、衛生管理レベルを高めていくことに努めています。

 ――今年4月からは労働安全衛生法が改正され、「労働者の安全確保」の観点から個人防護やリスク低減措置が求められています。従業員の働きやすさへの対応策はいかがでしょうか。

 和瀬田 労働環境への新たな取り組みでは、千葉キッチンから換気天井システムを導入しています。加熱室や窯が置いてある現場は冷気と暖気が混じりあって空気清浄化の環境が悪化することから、換気天井システムを導入することによって調理排気の再循環を防ぎ、厨房に快適な温湿度環境と高水準の衛生管理を実現しています。さらに従業員の満足度を高める取り組みでは、当社グループのレストラン事業を担うセブン&アイ・フードシステムズが運営するおしゃれなカフェテリア風の食堂で食事を提供。従業員から好評を得ています。

 戸室 サラヤは、業務用食器洗浄機用洗浄剤の重量を従来製品の3分の1まで減らした「ひまわり洗剤 エコタブレット」の提案を強化しています。現場では、女性や高齢者が増えていることから、薬剤を軽量化し労働安全面にも配慮することで、現場の労災対策にも役立てていただいております。また、床や製造設備類の洗浄には、リスク低減措置の叶う多用途中性洗剤「サラリア」と、サイエンス社のシャワーヘッド「ミラブル」を業務用に開発した「ミラブルプロダイナー」とのセット提案をしています。節水効果が一般的な給水設備と比べて5割以上と高く、洗浄効果も非常に高いことから、中性洗剤と一緒に使うことでアルカリ洗浄剤並みの効果を発揮できます。

 和瀬田 ピースデリの食品製造の現場も女性がメインなので参考になるお話です。

セブン&アイ・ホールディングス 和瀬田純子Peace Deli社長

衛生管理と同時に環境の取り組みも加速

 ――セブン&アイHDの環境への取り組みはいかがでしょうか。

 和瀬田 セブン&アイHDでは、2019年に環境宣言『GREEN CHALLENGE 2050』を発表しました。30年、50年に向けての明確な数値目標を打ち出し、環境への取り組みも加速しています。 

 戸室 こうした環境意識の高いセブン&アイHDさんと一緒に、PB開発やSDGsの取り組みを推進できることに感謝しています。サラヤもセブン&アイHDさんの『GREEN CHALLENGE 2050』の取り組みテーマの一つである「プラスチック対策」に注力しており、使用済みプラスチック容器を回収し、それを破砕洗浄してペレット化、その一部商品をボトルに転化する活動を進めています。

 和瀬田 とても良い取り組みで、ご一緒できるところは協力して進めていきたいですね。セブン&アイHDでもペットボトルを回収した「完全循環型ペットボトル」(ボトルtoボトル)を実現し、その取り組みを加速しています。また個人防護具では、サラヤさんのニトリル手袋をピースデリの工場で使用していますが、従業員の方からも使いやすいと非常に評判が良い。さらにグループ全体では、スーパー事業のバックヤードや、セブンイレブンの店舗で使う個人防護具類やアルコール消毒剤、手洗い石鹸液など様々な面でサポートをしていただいています。

 戸室 おかげ様でセブン&アイHDさん全体でご活用いただいております。ニトリル手袋は、コロナ禍で輸入品の安定供給ができなくなったことから、現在では自社工場での製造に切り替え、より安定供給ができる体制を整えました。お客様のニーズに合わせたバリエーションをさらに広げていきます。ほかの商品でも持続可能な生産現場で作られた商品をご提供しています。例えば、セブン&アイHDさんで使っていただいている石鹸液は、環境と人権に配慮して生産された認証植物油の普及を目指すRSPO認証マーク取得品で、環境にも優しい石鹸液となっています。

 和瀬田 セブン&アイHDもこれら環境への取り組みは外部にもっと発信していかなければなりません。今のお子様や若い世代は、学校教育でSDGsや環境問題を学んでいますから、SDGsの知識も豊富で環境に配慮した商品が購入の大きな動機になっています。個人的にも勉強のために更家(悠介)社長の著者「地球市民宣言」を拝読しましたが、そのスピード感ある環境への取り組みに感銘を受けました。サラヤさんを参考に環境・衛生への取り組みを加速していきます。

 戸室 有り難いお話でサラヤもセブン&アイHDさんと一緒に環境や衛生への取り組みを推進し、さらに飛躍していきたいと思います。(本誌・北村健史)

サラヤ 戸室淳治取締役サニテーション事業本部長