ローソンの店舗で活躍する「アバター店員」は多様な働き方を実現するほか、単なる人手不足解消にとどまらない効果を生んでいる。ローソンの月生田和樹執行役員事業サポート本部長と、AVITAの西口昇吾取締役副社長COOが、コンビニにおけるアバター接客のメリットや今後の可能性について語り合った。

セルフレジのサポートや商品訴求に活躍

 ――ローソンではアバター接客をどのように活用していますか。

 月生田 まず、22年11月にオープンした未来型店舗「グリーンローソン」の目玉プロジェクトとして、入口でお客様の送り迎え、来店中のお客様へのサービス提供、セルフレジのサポート、陳列ケースの上での商品訴求と、用途に応じて計4台を設置しました(現在は3台)。現在、アバター接客を行っているのは東京、大阪、福岡の合計13店舗。また、都心部の店舗を中心に、時間帯やエリア別での最も効果的な運用方法の実証実験を行っています。本格展開する場合には、展開規模にあわせてアバター店員を増やして接客をする予定です。

 西口 アバター接客は在宅でも可能ですよね。

 月生田 たとえば障がいがある方は通勤するのが大変なケースもあるので、在宅勤務を可能にすることで働きやすさを追求しています。また、子育て中の方が隙間時間を活用して働くこともできるので、通常のコンビニ業務で苦労するシフトの調整や働き手の確保の面でもメリットは大きいですね。これから労働人口が減少していく中でも、このアバター店員で培ったスキームがあれば、人手不足も乗り切れると考えています。

ローソンの月生田和樹執行役員事業サポート本部長

 西口 物理的な制約をなくすことで、店舗にとっても働き手の方々にとってもありがたい仕組みになっているのはうれしいですね。

 月生田 この「LAO」(ローソンアバターオペレーター)の最初の募集では、411名もの応募がありました。選考を経て、いわゆる1期生は30名程度。年齢層は18~60歳ぐらいまでと幅広く、女性が圧倒的に多いですね。中には「大学を卒業して就職しましたが、空き時間に働きます」という方もいらっしゃって、アバターならではの楽しさを見いだしているのだと思います。それでいて、お客様から感謝されるなど、接客の喜びはリアルと変わらないわけですから。

 西口 アバター店員の方々の間でつながりが生まれ、コミュニティができていることも重要です。障がいのあるLAOの方が周りの仲間に自分の成功体験を伝えてくれていたり、LAOのみなさんで「この新商品おいしかったよ、食べてみて」と情報交換していたり。そういう光景を見ると、すごくうれしくなりますね。アバターで働くという概念が、これから広がっていくという確信を持っています。

AVITAの西口昇吾取締役副社長COO

 月生田 かなりクリエイティブな仕事ですよね。誰もやったことがないわけですから。今年の春に2期生を採用したのですが、1期生の方々が良いロールモデルとして、これまでの経験を伝えて指導してくれています。LAOの採用時には事前に本部で接客マナーや商品知識の研修をしっかり行いますが、やはり実践の部分はOJTで学んでいただくのが効果的。今後は人材育成の面でも良いサイクルを回していきたいですね。

一人で複数のアバター運用も目指すは「温かいDX」

 ――万引き対策などは、どのようにされているのでしょうか。

 月生田 基本的にはアバターとリアルの店員が1名ずついたり、何かあったらリアルの店員が駆けつけたりできる体制にしています。アバターを「単なるAIだ」と思われないように、深夜でも「こんばんは、いらっしゃいませ」などと適切なお声がけをして、「人に見られている」と意識させることが抑止力になるのでないかと、実証実験を進めています。

 西口 そういう心理的に働きかける防犯の方がいいですよね。天井に防犯カメラがたくさん設置されているような無人店舗では、気分良く買い物できるとは思いません。それよりも、アバター店員の方が元気に挨拶をして万引きしづらい雰囲気づくりをする方が、未来の防犯の形だと思います。

 月生田 また、実証実験開始当初は1人で1台のアバターを担当する体制でしたが、現在では1人で複数のアバターを担当できるオペレーションの構築に向けた実証実験を進めています。その分コストメリットにつながりますし、人手不足にもより柔軟に対応できますから。

 西口 それにはAIの自動応答との組み合わせなども必要ですが、同時にAIでできることとやっていいことの見極めも重要だと思っています。たとえば、トイレの場所を聞かれた時にAIで自動的に対応もできますが、リアルの店員さんとの「トイレはあちらですよ」という会話の後に、たくさん買い物していただけるかもしれません。ローソンさんとの取り組みで大事なキーワードは「温かいDX」です。人手不足が加速する中で効率化や省人化の対策はもちろん必要ですが、物を売り買いするお店というのは、人と人とのつながりが生まれる場所であるはず。中国やアメリカの無人コンビニの多くがうまくいかなかったように、ただ効率化だけを追い求めるのは違うと思っています。「マチのほっとステーション」はローソンさんのキャッチフレーズですが、私たちの思いも一緒なんです。

 月生田 アバター接客がおもしろいのは、システムが随時アップデートされ、サービスが常に進化していることです。今コンビニ業界は変革が必要な局面ですし、当社も「Global Real×Tech Convenience Lawson Group」を目指す上で、お客様に新たな体験や楽しさを感じていただけたらうれしいですね。今後、新店ではアバターを活用したワクワク感の演出も企画しています。

 西口 中国もアメリカも失敗したことが日本で成功すれば、この取り組みを海外に広げていくことも可能です。いち早く取り組んだローソンさんは今、アバター接客でナンバーワン企業。さらに高みを目指して、これからも一緒に盛り上げていきたいですね。(本誌・小島知之)