全米ではクシュタールの倍の店舗数を誇る

 セブン&アイ・ホールディングス(HD)の株価がなかなか浮上しない。同社に買収案を提示していたカナダのコンビニ大手、アリマンタシォン・クシュタールが撤回を決めた7月17日以降、1株2000円前後の低空飛行のままだ。

 その理由の一つとしてセブン&アイが主張しているのが、米国セブンイレブン・インクについて「本来の価値が市場に理解されていない」というものだ。セブン&アイはこれまで再三にわたり、SEIについて同様の主張を繰り返してきた。

 ここでSEIについておさらいしておこう。全米コンビニエンスストア協会(NACS)の2025年3月の発表資料によれば、全米にコンビニは15万2255店ある。その中でSEIの店舗数は1万2414店で、全米コンビニチェーンの中では最も多く、全体に占める割合は8.2%。ちなみに2位はアリマンタシォン・クシュタールだが、店舗数は5833店とSEIのほぼ半分に留まる。

 SEIが業界1位の座を盤石なものとしたのは、21年に当時業界3位だったスピードウェイ(約3900店舗)の買収に成功したためだが、それでもまだ店舗数に占めるシェアが8.2%で分かる通りアメリカのコンビニ業界は寡占化されているとはいい難く、実際、3桁の店舗数の企業が40社以上ある。逆に言えば、それだけまだM&Aの余地が残されているとも言える。

 セブン&アイにとって、SEIはセブンイレブン・ジャパン(SEJ)と並び、利益を稼ぎ出す屋台骨だ。25年2月期業績は、円ベースで営業総収入が8兆6194億円(前期比102.5%)、営業利益は3296億円(同83.2%)だった。SEJの同期の営業利益が2337億円だったことを踏まえれば、その存在感の大きさがわかる。

 懸念はガソリンへの依存度だ。ドルベースで見れば、営業総収入の568億ドルに占める直営店商品売り上げは116億ドルに対してガソリン売り上げは420億ドル、粗利率は商品粗利率が33.3%に対し、ガソリンの小売粗利率は41.14%だ。すぐにガソリン需要がゼロになることはないが、長期戦略として脱ガソリン依存のビジネスモデル構築は必要不可欠となる。

 もちろんSEIも手をこまねいてはいない。これまでもフレッシュフードを中心に来店動機となる食の強化に努めてきた。今年新たに掲げた2030年までの六つの成長戦略にもそれらは含まれる。

レストラン併設店の数を5年で倍に拡大へ

 六つの成長戦略のうちの二つが店舗や設備への投資だ。中でもレストラン併設店舗を強化する。他の出店形態よりも売り上げ、利益ともに好調であることから、現在約1100店舗のこのモデルを今後5年間で約2倍に増やす計画だ。

店内に設けたレストラン。今後5年で併設店を倍にする計画

 さらに新規出店も年間250店舗以上に加速させることで、今後5年間で1300店舗を追加出店する構え。

 三つ目がデリバリーサービス7NOWの拡大だ。25年には売上高で10億ドルの目標を達成する見込み。アメリカではユーザーにピザや飲料などを30分以内に届けており、まもなくアメリカの人口の半数をカバーできるようになるという。

 さらに、無料配達などの特典を受けられるサブスクリプションサービス「7ゴールドパス」などが好評だが、それに加えて目下マーケットプレイス機能もテストしている。

 四つ目はインフレが進行する中で重要となるコストコントロール。これを徹底することで、SEIはすでに25年2月期第1四半期の業績が増益に転じている。

 そして五つ目がPB、オリジナル商品の拡大だ。今後数年間でPB売り上げの伸びを商品売り上げ全体の伸びの3倍に持って行く予定。最後の六つ目がガソリン事業における垂直統合だ。サプライチェーン全体を見直すなどして利益の改善を図る。これらの取り組みを進めることで、ガソリンを除く商品平均日販の2.4%成長を目指す。

 六つの戦略とともに、SEIの企業価値向上に資するための戦略として、セブン&アイHDが計画しているのが、26年後半までのIPO(新規上場)実施だ。

 目的は二つある。一つは米国でSEIを上場することによる価値の顕在化。もう一つが上場で得られる資金を店舗への投資やM&A、株主還元に振り向けるためだ。

 ただアナリストを中心に、SEIの上場は逆に利益流出が大きくなるのではないかとの懸念も持たれている。これについてセブン&アイHDの丸山好道取締役常務執行役員は「どの程度まで(株式の売り出しを)実施するか慎重に検討する。流出する利益を最小限に抑えつつ、SEIおよびHD全体の価値向上を目指していく」と語ったが、IPO実施の姿勢は崩していない。成長戦略とIPOを経て、SEIの本来の価値が浮かび上がることになるかどうか、まずは戦略の着実な実行が問われることになる。(本誌・加藤大樹)

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