タバコやガソリンに代わる新たな売り上げが求められている
オーストラリア第二の都市、メルボルン。その中心部に建つユーレカタワーは観光客に人気のスポットだ。地上280mの展望台からは市内が一望できる。
その1階でセブンイレブンユーレカ店を営むレオンオーナーは、最近の売り上げの変化を強く感じている。13年前に店を始めたときは売り上げが厳しかったが、今はその当時の2倍の売り上げになったという。理由は周囲にホテルなどが立ち始めるなど環境の変化を受け、シャンプーや歯ブラシなどの取り扱いを強化したこと。さらに昨年からフレッシュフードが充実し、新たなオープンケースの導入に至ったこと。ケースには定番のサンドイッチのほか、表面に鳥居がデザインされたおにぎりやのり巻きなどが並ぶ。さらに焼成パンも始めており、毎朝バックヤードのオーブンで冷凍生地から焼き上げる。他にもドリンク類が充実しており、海外のセブンでは定番の「スラーピー」、ソイミルクやオーツミルクにも対応したカフェマシン、抹茶シェイクなどが作れるシェイクマシンもある。「食品強化で店はとてもうまくいっている」とレオンオーナーは破顔する。











セブンイレブン・オーストラリア(SEA)は、ガソリンスタンド併設コンビニと単独店を計約750店展開する、P&C(石油&コンビニ)市場で36%のシェアを持つ業界トップチェーンだ。歴史も古く、1977年に一号店が開業。以来約50年にわたり、オーストラリアの国民に親しまれている。
このSEAを昨年4月、セブンイレブン・インターナショナル(7IN)が完全子会社化した。理由は将来的なポテンシャルの高さからだ。オーストラリアは国土こそ世界で6番目の広さを誇るが、国民のほとんどは海岸線から50km以内に住んでおり、人口も約2700万人と日米に比べて決して多くはない。だが目下移民を積極的に受け入れており、今後アメリカ以上の伸び率で人口が増える見通しとなっている。
ただ逆風もある。ガソリンはSEAにとって大事な収益源だが、長期的に見れば当然ダウントレンドが避けられない。さらにオーストラリアでは政府の規制によりタバコが日本円で1箱4500円程度することから、急速に売り上げが失速している。タバコやガソリンに代わる新たな売り上げが必要となっており、それが一日3回食べる食品というわけだ。
リテーラー・イニシアチブを愚直に浸透させる
その食品市場を取りに行く新生SEAの舵取り役を担っているのが、フィオナ・ヘイズCEO兼マネージングディレクター(冒頭写真)と阿部真治取締役執行役会長(7IN会長)の二人。戦略策定にあたっては、店舗のコンセプトを「マイコンビニエントネイバーフッドストア(近くて便利な店)」と設定。成長の柱としては、MD、店舗開発、オペレーション、デジタル、燃料の五つを据えた。
中でも急ピッチで取り組みが進んでいるのがMDだ。かつてオーストラリアのセブンイレブンの食品といえば、売れ筋のコーヒーにドーナツ、ケーキ、伝統食のミートパイくらいのものだった。が、今やおにぎりは他のコンビニで取り扱いがないこともあり、ヒーロー商品(差別化商品)へと成長。弁当もカツチキン弁当にテリヤキチキン弁当など日本を意識したメニューが並ぶ。さらに一部店舗でテストしているのが、野菜などフレッシュな素材を多く盛り込んだ新たな弁当や、クランスキーロール、店内調理のピザ、ラップロールなど。ドーナツは従来クリスピードーナツを扱ってきたが、最近ではローカルブランドのダニエルドーナツも扱い、若い客層に人気だ。
ただしこれらの商品を闇雲に開発しているのではない。オーストラリアにおける商品開発の難しさは多様な人種がいる点だ。移民の増加によりマーケットニーズが読みづらくなっていることから、先にアイデアを出して消費者にアンケートを取り、ハイスコアの商品を開発するといったステップを踏んでいる。
これらの商品開発と合わせて同時並行で強化しているのが品揃えだ。従来の扱いSKUは平均1400だったが、これを目下2500~3000までの拡大を目指している。ここで重要となるのがリテーラー・イニシアチブ、日本語で言う単品管理だ。実はオーストラリアはライセンス契約時代、単品管理のフォローが契約内容に入っておらず、売り場は長らく本部・メーカー主導だった。
そこで7INの100%子会社化を機に、マインドセットを実施。品揃えの最終決定権はあくまで店側にあり、本部側はサポート役という考え方を浸透させるため「愚直に会議などで言い続けている」とフィオナCEOは力を込める。
実際成功事例も生まれており、メルボルン郊外のガソリン併設型直営店、ターネイト・ノース店では、現場で売れると思った商品を仮説検証することで売り上げアップに繋げている。例えば周辺の商圏内にはインド系住民が多いことから、インドで人気の菓子を車で10分ほどの近隣のインド系スーパーよりも安い価格で販売したところお客から好評を得た。またインド系住民は毎食ヨーグルトを食べることから、個食ではなく大容量サイズを新規で扱ったところやはり売り上げが増加したといった好事例が次々と生まれているのだ。










一方で品揃えの拡充に伴い売り場を広げるかとの問いに対して、フィオナCEOは慎重姿勢を見せる。理由はオーストラリアが世界の中でも賃金が高いためだ。SEAの平均時給は約44豪ドルで、日本円で約4200円にもなる。「売り場を広げれば従業員の移動距離も長くなり、作業効率性が落ちかねない」(フィオナCEO)として、まずはゴンドラの高さを変えるなどの取り組みで対応を検討中だ。当然、店内調理も生産性とのバランスを重要視。生産性向上の取り組みでは、日本からオリコンを運ぶための台車を導入したほか、目下AI自動発注をテストしており、今後全店への導入を進めていく考え。
インクから学んだ「GPS」でアプリスキャン率が急上昇
食品強化や単品管理には日本のノウハウが生かされている一方、セブンイレブン・インク(SEI)から積極的に学んでいるのがデジタル施策だ。中でもアプリのロイヤルティプログラムは囲い込み施策として重要な位置付けとなっており、「アンロックセブンスビジットリワーズ」は、セブンイレブンで7回買い物するごとに特定の商品が無料で入手できるお得な企画だ。
これを普及させるべく、SEAではSEIに習い、「GPS」の手法を導入。Gはグリード(挨拶)、Pはプラスワンオファー(もう一品)、Sはスキャンアプリで、これをレジで徹底することでスキャン率は約25%まで急上昇。結果プログラム利用者は、「年間で来店頻度が5倍、客単価が4倍」という好結果が生まれている。


さらに今秋からはアプリで7NOWがスタート。これまでもウーバーやドアダッシュなどのデリバリーサービスを活用してきたが、ユーザー情報の取得ができなかった。今後はアプリで7NOWを利用してもらうことでユーザーの情報を蓄積、これを生かし来年以降は一斉送信の販促から、特定の層に向けた販促に切り替えていくことも考えている。

出店については、今期30店の純増を計画。出店地はオーストラリアの都市部、特にシドニー、ブリスベン、メルボルンを中心にドミナントを形成していく。合わせて改装も60店を予定。将来的には2030年に1000店舗体制を目指す。

7INの100%子会社化からまだ1年半だが、フィオナCEOは着実な変化を感じている。「オーナーさんとの意見交換会では、我々の成長戦略、支援の拡大にポジティブな反応をいただいている。自分の店舗も刷新したい、あるいは複数店を行いたいといった声も多い」。追い風と逆風が入り交じる中、SEAは課題を避けることなく、コンビニの利便性を再定義しつつ、新たな成長機会を追求していく構えだ。(本誌・加藤大樹)




















