40年以上にわたり肌のコラーゲン研究を続け、常に新たな知見を発信してきた資生堂がこのほど、コラーゲン線維を太く丈夫にする免疫細胞の働きを解明した。

 化粧品業界で世界トップの研究実績*を誇る資生堂の研究開発部門。2020年から新たに研究対象としてきたのが、コラーゲンを産生する線維芽細胞の働きをサポートする免疫細胞「マクロファージ」である。真皮層の約70%を占めるコラーゲンは、線維芽細胞によって産生され、「産生」「分解」「消化」という代謝サイクルが安定して繰り返されることで、肌のハリや弾力を保つ。このサイクルに深く関わるのが、M1マクロファージ(以下M1M)とM2マクロファージ(以下M2M)という2種類の免疫細胞だ。

 資生堂はこれまでの研究で、紫外線などによる光老化がM1MとM2Mのバランスを崩し、線維芽細胞の老化を進行させ、コラーゲン代謝に悪影響を与えることを解明してきた。今回は、M2Mが変性してしまったコラーゲンを消化・除去することで、よりコラーゲンが産生されやすい環境を作り出している可能性があるというこれまでの研究結果を元に、コラーゲンの代謝サイクルに、新たに「育成」という視点を加え研究を推進。その結果、M2Mが線維芽細胞に働きかけ、種々の酵素群を誘導し、コラーゲン線維を太く丈夫にする機能を持つことを解明した。

 実験では、M2Mの培養上清を添加した線維芽細胞はM1Mの培養上清を添加した場合に比べ、コラーゲン線維の形成に関連する「プロセシング酵素」※1や「架橋形成酵素」※2などの酵素の発現が高いことを確認。また、3次元真皮モデルを使った実験では、M2Mの培養上清を添加した線維芽細胞とコラーゲン溶液を用いた真皮モデルは、M1Mの培養上清添加群に比べて、より太く密で成熟したコラーゲン線維が形成され、分子が整然と並んだ横紋構造も確認され、質の高い成熟した線維が育っていることが示された(図1冒頭写真)。

 これまでのコラーゲン研究の多くは、産生促進に焦点が当てられてきたが、コラーゲンは産生されても、細く弱いままではすぐに分解・消失してしまう。ゆえに、より良質なコラーゲンを育む新たな代謝サイクルとして、「育成」に光を当てた研究は画期的といえる。

 さらに今回、資生堂の研究チームは、M2Mの分化を促進する物質として「セイヨウバラ抽出液」が有効であることも見出した(図2)。紫外線などによる肌の老化でM2Mの働きは低下することが明らかになっているなか、セイヨウバラ抽出液がその働きを助けることで、良質なコラーゲンを育て、肌の弾力性を高め、ハリをもたらすことが期待される。今後、新規化粧品成分候補として、こちらも注目を集めそうだ。

※1プロコラーゲン〈コラーゲン前駆体〉の両端を切り揃え、コラーゲン分子に変換する作用
※2コラーゲン分子を規則正しく集合させ、線維形成を促す作用
*資生堂は化粧品技術を競う世界最大の研究発表会「国際化粧品技術者連盟(IFSCC)」において、最優秀賞受賞28回と、世界の化粧品メーカーの中で突出した受賞回数を誇る