坂本龍馬が愛した軍鶏鍋をイメージして開発

 ヤマキが新たな切り口で鍋市場に切り込む。8月20日に投入する新商品の鍋調味料はいずれも、他社商品にはないユニークな特徴や、従来あった不満を解決するアイデアが盛り込まれている。差別化を深め、市場の活性化と新規ユーザーの獲得を狙う。

 今秋冬の目玉商品は、歴史上の偉人とだしを掛け合わせた異色の鍋つゆシリーズだ。その名も「龍馬鍋つゆ 地鶏だし塩」「西郷鍋つゆ 黒豚だし醤油」「高杉晋作鍋つゆ 真鯛だし塩」の3品(各700g、冒頭写真)。既存のストレート鍋つゆ「旨さ、別格。だし屋の鍋」シリーズに新たなラインアップとして追加。こだわり抜いただしの旨みはそのままに、偉人という新たなフックで注目度を高めている。

 開発の背景には、「売り場での同質化」から抜け出す狙いがある。物価高の昨今、安価な食材を組み合わせて手軽に作れる鍋メニューの需要は増加傾向にあるが、それに合わせて売り場に並ぶ鍋つゆの種類も増えている。ヤマキの調査によると、生活者が鍋つゆを選ぶ際、約7割は店頭で棚を見てその場で購入する商品を決めている。逆に言えば、棚で埋もれてしまえば選ばれない。商品の品質に加え、埋没しないインパクトやパッケージの楽しさなども手に取ってもらうために重要な要素と言えるのだ。

 これを踏まえ新商品は、他に類を見ない「偉人とだし」をテーマに据えた。パッケージの中央に歴史上の偉人の名前を大きく記載することで訴求力をアップ。また中身の味も、偉人が好んだ料理や食材からヒントを得て開発した。

 例えば「龍馬鍋つゆ 地鶏だし塩」は、“近江屋事件”の襲撃前に坂本龍馬が購入を命じたのが軍鶏肉だったことから、軍鶏鍋をイメージして開発。軍鶏系地鶏のだしのうま味に高知県産生姜を効かせ、コクがありつつもすっきりした塩味に仕上げた。「西郷鍋つゆ 黒豚だし醤油」は、西郷隆盛の好物だった黒豚料理にヒントを得た。鹿児島県黒豚のガラや同県のかつお節を使った豊かなコクとうま味が楽しめる。幕末の長州藩士、高杉晋作が好んだ鯛の塩煮をイメージした「高杉晋作鍋つゆ 真鯛だし塩」は、宇和海産真鯛からとった上品なだしに柚子のさわやかな香りを効かせた一品だ。これらのエピソードや開発のこだわりはパッケージにも記載。商品をきっかけに食卓で会話が弾む楽しさも提供する。

 和田勉執行役員・家庭用事業部長は「流通の方からも『切り口が新鮮』と好評を得ている。今までにない取っ掛かりを作ることでトライアルユーザーを増やしていきたい。また、『龍馬の鍋つゆ』などと覚えてもらうことでリピート利用にもつなげたい」と意欲を示す。

 拡販施策としては、全国の小学校に向け、商品と商品にちなんだ偉人を題材にしたオリジナル漫画冊子のサンプリングを10~11月に予定する。今後に向けては、鍋好き・歴史好きの両者をつかむ新たなフレーバーの開発も検討。まずは新商品を市場に浸透させるべく、丁寧に育成していく構えだ。

顆粒タイプの鍋つゆの素に初チャレンジ

 ヤマキが昨秋に新提案した、レンジだけで調理ができる「楽チン鍋」シリーズからは、新味として「鶏すき焼き鍋つゆ」「鰹荒節のだし寄せ鍋つゆ」(各50g)を投入する。同シリーズは、パッケージ内に野菜と肉、水を入れて電子レンジで8分加熱することで、簡単に一人前の鍋料理が完成する商品。購入者からは「疲れた日でも簡単にできておいしい」といった声が寄せられており、当初ターゲットと見込んでいた若年層に加え、一人暮らしの高齢者などの需要も取り込んでいる。

 新たに追加する「鶏すき焼き鍋つゆ」は、本醸造醤油や本みりんなどをベースにした甘辛くコクのある濃厚な味わいに仕上げた。一方の「鰹荒節のだし寄せ鍋つゆ」は、焼津製造かつお節を筆頭に、いわしや昆布などのだしを効かせた風味豊かな味わいが特徴だ。

「楽チン鍋寄せ鍋つゆ」、「同鶏すき焼き鍋つゆ」(各50g)

 レンジ専用商品は、簡便・即食ニーズから今後の市場拡大が見込まれるカテゴリーだ。「楽チン鍋」で培った技術を応用し、今年1月には「楽チン屋 レンジで作るだし巻き卵の素」も発売。好調に推移していることから、今後も動向を見ながら商品の拡充を目指す。

 ヤマキのチャレンジはこれだけではない。この秋には同社初の顆粒タイプの鍋つゆの素「サッと鍋」も発売する。パウチや個食の鍋つゆでは難しかった「つゆの量や濃さの調整」を可能にした、自分好みの鍋が楽しめる商品。「寄せ鍋の素」「鶏しお鍋の素」の二品で展開する。野菜炒めやパスタなどの味付けにも使用できる汎用性の高さも魅力。様々なアレンジメニューの提案とともに打ち出しを図る方針だ。


「サッと鍋 寄せ鍋の素」、「同 鶏しお鍋の素」(各60g)

 このほか、「鰹節屋・だし屋」のヤマキが粋を凝らしただしパック「鰹節屋の割烹だしパック」も発売10周年を機に刷新する。四種のだし素材を約1.7倍増量。一方、食塩相当量は従来品比で約34%削減した。だしパック市場は近年、専門店での人気を契機に量販店でも売り場が広がり、大きく拡大。同品も過去5年間で販売出荷数量が3倍超となり、昨年度も3割増と市場成長を上回る伸長を果たした。さらなる拡販に向け、だしのうま味を一層際立たせるとともに、いろいろな料理の味付けに使えることもパッケージで訴求し、新客の取り込みを強める。

 ヤマキはだしへのこだわりを強みに、市場に切り込むユニークな商品開発にも注力。今秋冬もシェア拡大に取り組む構えだ。