物流2024年問題により、ドライバーの長時間労働や荷物の手降ろしなどの課題が広く知られるようになってきた。だが、物流センターの事務負担は大きいままとなっている。紙の納品伝票にまつわる業務が要因の一つだ。紙の伝票形式は、メーカーごとに異なり、受領印の押印、仕分け、照合、保管などに時間と手間が多く割かれている。物流センターでも早急なDX化が求められている。

仕分けや照合の事務作業だけで1日3時間以上を費やす

 現状の紙の納品伝票は、一般的に複写式で、各社ごとに仕様がバラバラ。そのため出荷側(伝票発行側)の物流事業者では、仕様が異なる伝票を印刷。得意先・納品車両ごとに伝票を仕分ける作業が発生し大きな負荷となっている。また、入荷側(受理処理側)の卸や小売りなどは、受け取った伝票と自社データを検品時に目視して照合する作業に多くの時間を費やしている。

 日本パレットレンタル(JPR)の撿﨑朴郎執行役員デジタルロジスティクス事業開発部部長(冒頭写真)は「小売業の大規模なセンターだと照合作業が1人当たり3時間以上かかることも珍しくない」と指摘する。

 また受領印押印後の納品書の収受や回収、荷主への返送や保管も必要。後日確認が必要になった際に、大量の伝票の山から探す作業も大きな負担だ。荷物の受け渡しが済んでも、伝票に受領印をもらうためにドライバーの待機時間が発生することもあり、「納品伝票の電子化はイノベーションを起こす一丁目一番地」と撿﨑執行役員は強調する。

 こうした問題を解決すると期待されているのがJPRの納品伝票電子化・共有化システム「DD Plus」(ディーディープラス)だ。JPRが22年9月にサービスを開始したDD Plusは、出荷側、入荷側の両者が納品書のペーパーレス化を目指し、紙伝票の取り扱いにかかる作業時間を削減。デジタル化したデータを活用することで、検品の効率化にもつながる。後日確認が必要となった場合もデータを検索するだけで済むようになる。照合などの一連の作業を削減し、従来の物流センターの事務負担を劇的に軽減するものだ。

 DD Plusの特徴の一つが互換性の高い標準データフォーマットに準拠していること。JPRは「デジタルロジスティクス推進協議会」に19年に参画。多くの加工食品・日雑メーカー・加工食品卸・物流事業者などと、納品伝票電子化に関する標準データフォーマットと標準運用手順としてDD Plusを同協議会で策定。日本加工食品卸協会が承認した「DLフォーマット」と、政府が推進する「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)スマート物流サービス」が制定する「物流情報標準メッセージ」に準拠している。SIP基盤上で納品データを連携させる「納品伝票エコシステム」に接続し、他社システムとも連携する互換性を確保している。撿﨑執行役員は「既存のサービスと連携することで、納品伝票電子化のハードルを下げられる」と自信を示す。

 導入した企業ではすでに成果が表れている。食品卸の加藤産業とメーカーのヤマサ醤油の両社はDD Plusを活用した検品省力化の取り組みが評価され、日本ロジスティクスシステム協会が主催する「2023年度ロジスティクス大賞」の「社会性特別賞」を23年8月に受賞した。両社の事例では、パレットデータと連携し、伝票発行枚数の削減のほか、検品、データの照合、トラックの待機の各時間を大幅に削減するなどの成果を上げた。

 また、レンタルパレットサービスの事業基盤と連携している点も特徴だ。JPRレンタルパレットの利用企業は、「X-DD」というシステムでパレットの受け払いを行っており、その利用拠点数は1万4000以上。パレット伝票電子化は納品伝票に先行して18年から開始しており、DD Plusは、このX-DDのネットワークと連携。レンタルパレットの利用者は、普段使用している同一のIDコードをそのまま利用でき、納品伝票データの送受信と、レンタルパレットの受け払いがワンストップで完結できるようになる。このほか、納品伝票の出力機能も装備。得意先の条件に合わせて電子伝票と紙伝票の一元運用が可能だ。

紙の納品伝票は、一般的に複写式で、各社ごとに仕様がバラバラで、照合作業に手間と時間がかかる

選ばれる荷主になるために納品伝票の電子化は不可欠

 DD Plusで積荷や輸送情報を管理することで輸送実態の可視化が可能となることから、JPRでは今後、DD Plusを活用し、さらなる物流効率化の実現を目指す。蓄積したデータを基に物流課題を整理・把握し、低積載や空車回送の輸送ルートを抽出することで、JPRの共同輸送マッチングサービス「TranOpt」(トランオプト)を活用した共同配送にもつなげる予定だ。このためにも、納品伝票の電子化について検討中の企業に対し、電子化への切り替えを訴求していく考えだ。

 撿﨑執行役員は「納品伝票の電子化の普及はまだこれからというところ。ただ、物流センターの人手不足は深刻で、すでに対策を講じようとしている企業も多い。物流事業者が荷主を選ぶ時代になってきた。まずは自社内の在庫移動からでも伝票の電子化を検討いただきたい」と呼びかける。JPRはパレットレンタルの回収システムとDD Plus、TranOptを連携し、飛躍的な物流効率化の実現に向けて挑戦を続けていく。