今後の経済活動の主役となる「Z世代」。既にさまざまな分析がなされているが、具体的にどうアプローチすべきか悩んでいる企業も多いだろう。その中でクレジットカード基盤システムの受託で5割以上の圧倒的な実績を持つTISは、Z世代が手軽に使えるスマホファーストなクレジットカードを実現する「ライト版クレジットカードプロセッシングサービス」をこの4月から開始した。このサービスを利用し、Z世代との距離を縮める新しいクレジットカードの可能性があるという。これについて津守諭ペイメントサービス事業部長と、ユーザー体験(UX)デザインに特化した領域を創造する神﨑美央クリエイティブデザイン部チーフに話を伺った。

 神﨑 小売業界にとっては、Z世代を中心としたLTV(ライフタイムバリュー)の高い若年層に商品やサービスを継続的に購入・利用してもらうことは重要な課題です。Z世代は単なるモノ消費にはあまり積極的ではありませんが、好きなものや共感を得たものにはとことんこだわる特徴があります。その象徴的な消費行動が「推し活」消費。好きなアイドルやキャラクターなどの推し活には消費を惜しまないという特徴があります。酒類や菓子、調味料などのメーカーでは、Z世代をターゲットにした商品の開発や専用ECサイトの立ち上げ、かわいいキャラクターのイメージでファンを増やす取り組みを行っています。そしてZ世代には拡散力があり、この世代が好むものはその上の世代への波及効果も大きいです。それはビール類やグミなど多くの商品でもすでに実証されています。

 こうしてZ世代が大事にする〝共感〟を生み、消費行動を後押しするサービスが次々に生まれていますが、クレジットカードもその一つになり得るのではないかと考えています。

クレジットカードの利用状況と課題

 津守 2023年のキャッシュレス決済比率は39.3%で、政府が掲げる「2025年までに40%」という目標の前倒しでの達成が見込まれ、将来的には世界最高水準の80%を目指すと言われています。

 中でも伸びているのがクレジットカードで、全体の約8割はクレジットカードです。生活者視点でも、ここ2、3年で現金を見る機会は格段に減り、フルキャッシュレスで生活できる環境が急速に整ってきたと感じる人も多いでしょう。しかし、それでもまだ約4割であり、残り6割はいまだに現金が利用されています。

 もともとクレジットカードは1970年代以降に百貨店や電鉄系企業、大手スーパーなどが自社カード発行を開始し、現在では社会インフラとして広く利用されています。しかし、Z世代では相対的に保有率が低いです。

 逆に言えば、Z世代向けのクレジットカードには大きなビジネスチャンスがあるともいえます。Z世代の獲得が重要な課題である小売や流通、エンターテインメントなどの既存企業は、今後も続くキャッシュレス化の波をとらえ、既存ビジネスの拡大や新たなビジネスを創出できるのではないでしょうか。

 ――ライト版クレジットカードとは。

 津守 ビジネスチャンスがあるとはいえ、自社でのクレジットカード発行は敷居が高いと感じられる方も多いでしょう。金融サービスにつきものの、法令を順守するために組織体制を整えることはもちろん、セキュリティを担保するためのシステム構築は複雑で初期投資もかかります。そもそも数百万人規模の会員を確保できないと収益を上げるのは困難だったため、自社で発行できるのは大手企業に限られていました。

 しかし、こうした課題を解決するため、TISは「ライト版クレジットカードプロセッシングサービス」を開始しました。このサービスでは、10万人から数十万人規模の会員獲得を目指し、利用頻度と利便性が高いサービスや機能に特化し、安価かつ早期にクレジットカードを始められる仕組みです。スマホに特化し、数百万人規模の会員を目指すためには、どうしても必要な紙やWEBによる申込みの仕組みなどは省くことで、低価格化を実現しています。例えば、10店舗ぐらいの地域で愛されているスーパーや消費財などの自社のブランドにファンを持つ企業であれば、十分に事業として成り立つと考えています。

 また、好きなものを買ったり、ライブに行ったり、楽しいことをするためにもお金を払う、それはちょっと気分を損ねることでもあります。購買体験において最後の重要な決済をする場面でも、好きなものや推しへの共感を持ったままストレスなく消費が出来る。そのようなクレジットカードを発行することで、ブランドの一貫した体験を提供し、消費者との結びつきを強化することができるでしょう。利用金額が伸びれば小売店やメーカーなど収益が上がることにつながります。

 そして既に実践している企業がフィンテックのスタートアップのナッジで、同社はスマホアプリのみでの申込み・利用管理が可能な次世代クレジットカード「Nudge(ナッジ)」を開発・運営しています。

 スポーツチームやアーティストとの提携により、ナッジのユーザーは決済利用額に応じて自分が選択した(推している)クラブから特典が得られ、クラブ側は決済手数料の一部を収益として得られる。このユニークな仕組みにより急成長しています。前述したように、アーティストやスポーツ選手、店舗・施設など、100を超えるクラブが開設され、それぞれが独自のクレジットカードを発行して、それをユーザーが〝推し〟として選択している。クレジットカードを中心にファン・顧客のコミュニティが形成され、クラブ側にも収益が上がる仕組みです。

 ライト版クレジットカードプロセッシングサービスはこのナッジで実績のある仕組みを広く提供していくものです。

 TISはクレジットカードのデザインと機能を進化させ、Z世代の消費行動を促進させます。ライト版クレジットカードプロセッシングサービスとUXデザインチームによって、新しい消費体験を提供するクレジットカードを皆様と創造し、企業と消費者の双方に利益をもたらすことを目指します。少しでもご興味がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

 新しい体験を共に創り上げるパートナーとして、お力になれることを楽しみにしています。

津守諭(冒頭写真右)
デジタルイノベーション事業本部 ペイメントサービス事業部長
2002年に大学卒業後、TIS株式会社に入社。システムエンジニアとして、数多くのクレジットカードシステムの構築・保守運用に従事。10年より同経営企画部門やコンサルティング部門を歴任。中期経営計画策定やM&Aによるバリューチェーン強化を推進。17年よりキャッシュレス関連サービスの責任者、22年より若年層向けにFintechサービスを提供する株式会社ULTRAにジョインし、キャッシュレス促進に取り組む

神﨑美央(冒頭写真左)
ソーシャルイノベーション事業部クリエイティブデザイン部チーフ
商社にて商品企画・仕入れ業務に従事後、マーケティング&コンサルティング会社に入社。リサーチャーとして業界・企業への直接ヒアリングによるフィールドリサーチを軸とした市場調査、コンサルティングを経験。2024年からTISへ入社し、業界動向調査・企業分析を中心にリサーチ業務を行っている