店長全員の資格取得を目指す成城石井

 S検(スーパーマーケット検定)を人材教育に活用する食品小売業が増えている。

 S検とは、全国スーパーマーケット協会が主催する、スーパーマーケットを含めた食品小売業従事者の知識と技術の向上を目的とした資格認定制度だ。階層別に能力の評価基準を設け、職務で必要とされる知識や技術を学習目標に定め、検定試験でその能力を客観的に評価するもの。資格の種類は、バイヤー、店長、部門チーフ、新入社員などの階層区分に合わせ、「バイヤー級」「マネジャー級」「ベーシック級」のほか、「食品表示管理士」、HACCPによる衛生管理に対応した「食品安全衛生技術管理士(食品安全リーダー)」などがある。(申し込み、詳細はS検のホームページ http://s-kentei.com/ から)

 教育の一環として受講を推奨する企業は数多いが、近年は人事制度に組み込み、昇進・昇格試験としても活用されるケースが増えている。企業側からすれば、自社の教育体制を補うことができ、客観的な能力の把握による自社の強み弱みの分析や、それに基づく人材戦略の立案につなげられる。従業員にとっても、社内とは異なる外部の知識や経験の習得が新たな刺激となり、社内でのキャリア形成、将来的には社外でも通用するキャリアパスにもなる。

 実際、S検はどのように活用されているのか。10年ほど前から人材教育にS検を組み込んでいるのが成城石井だ。「新入社員に対し、入社後に広く小売業のルールや考え方を習得する機会を提供したい」(田中弘樹・管理本部人事部長)として、新入社員の「ベーシック1級」の取得に取り組んでいる

 さらに昨年からは原昭彦社長の「S検の戦略的活用」の方針の下、2021年から3年をかけ、店長約200人全員が資格取得を目指すことを決定。合わせて資格取得を人事制度における昇格要件の一つと位置づけた。

成城石井 田中弘樹 管理本部人事部長

 狙いはマネジメント層の経営の引き出しを増やすことにある。田中部長は「小売業はドメスティックな産業で、人材育成も社内で完結しがちになる。ただ私どもは様々な店舗フォーマットを持っており、競合も様々。ゆえに管理職として、経営面での引き出しをもっと増やしていく必要があると考えた」と語る。

 昨年は大型店の店長とエリアマネジャーが「マネジャー2級」を、小型店の店長が「マネジャー3級」を受講。加えてバイヤーの管理職が「バイヤー級」を、新入社員は「ベーシック1級」を受講し、計約150名が資格取得に臨んだ。

 社員の反応について田中部長は「3級の受講者からは、これまで培ってきた知識や経験とS検で学んだ知識を比較することで、新たな発見や驚きがあったようです。そこで得た気づきこそ私どもの狙いでした」と手応えを語る。

食品表示の教育にフル活用のサンベルクス

 首都圏で「スーパーベルクス」を展開するサンベルクスも、S検を人材教育に積極的に取り入れている企業だ。「新たな学びを仕事に生かしてほしい」という鈴木秀夫社長の呼びかけで、08年から受講をスタート。店舗の各部門のマネジャーに、責任者に昇格するための目安として「マネジャー3級」の取得を推奨したのだ。

 石井博・組織開発部業務システム部長は、資格取得のメリットとして、他部門の知識を学べる点を指摘する。「各部門の担当は自身の部門に関する知識に秀でている一方、他部門についてはそこまで詳しくなかった。旬の食材や食べ方を広く学べたことで、店舗における部門の横連携が生まれやすくなりました」(石井部長)。

サンベルクス 石井博 組織開発部業務システム部長

 これを皮切りに、サンベルクスでは新入社員の「ベーシック1級」の全員合格も目標に掲げている。最初の成功体験になればと、個別の勉強会や毎月の模擬試験を開催するなど、力を入れている。

 さらに10年から始まった食品表示管理士検定については初年度から受講を開始。各店の店長と惣菜を含む生鮮4部門の商品部マネジャーは「初級」が必須資格、各部門に1名ずつ配置しているHACCP委員はその上の「中級」、さらに品質管理を担う生産管理部の担当者は「上級」の取得を必須とするなど、食品表示の教育にS検をフル活用している。これも「お客様の安全安心のために、アレルギー表示などをきちんと体系立てて学ぶことはとても重要」(石井部長)との経営判断からだ。

時間も場所も融通が利くオンライン受験に移行

 全国スーパーマーケット協会では、S検をより幅広く活用してもらうべく、検定の内容やサービス体系の見直しを行っている。

 中でも注目は、今年から検定試験をオンラインに全面的に切り替える点だ。これにより「いつでも」「どこでも」受験が可能になる。企業側にとっては、忙しい店舗の従業員を一堂に集める必要がなくなり、会場費や交通費も抑制できる。

 オンラインで不安視されるのがカンニングなどの不正だが、これについてはランダム出題などのシステム面でカバー。成城石井でも不正を危惧する意見が社内で挙がったが、「オンラインであればコロナ対策になる。そして何より資格取得のために学ぶということに力点を置いてS検を採用した」と田中部長は明かす。

 今年からは新たに、受験期間内であれば最大3回まで試験を受けられるよう、システムを変更した。1度不合格で終わりではなく、再度学習し、試験に挑戦できるようにしたのだ。もちろんこれまで通り、1回限りの試験も可能。自社の方針に合わせて自由に設定を変更できる。

 また昨年まで設けていた協会非会員企業向けの価格は撤廃。「バイヤー級」「マネジャー級」「ベーシック級」については、料金の値下げも行った。食品安全衛生技術管理士については、昨年は講座と検定を別々で提供していたが、今年からは講座と検定をセットにしたコースを設けるなど、より受講しやすいサービス体系に変更している。

 さらにパートやアルバイトをはじめ、学生や一般の消費者にも食への興味を持ってもらいたいとして、食品表示管理士の「ベーシック級」も新設。検定の合否判定も即時に行われる。村尾芳久・全国スーパーマーケット協会事務局次長は「人材育成はますます重要になっています。S検は中身を見直し、時間も場所も融通が利く仕組みに変わりました。より多くの方々にご活用いただきたい」と語る。

 申し込みはS検のホームページ(http://s-kentei.com/)から、問い合わせはS検事務局(sken@retail-hrd.com)まで。