メーカー向けAI自動発注モデルを開発

 伊藤忠商事がサプライチェーンの最適化に向けた一歩を踏み出した。日本アクセスと連携し、メーカーへの常温品の発注業務をAIで自動化。かつ需要予測による発注量の最適化で、過剰在庫の削減と発注業務の効率化の両方を実現したのだ。

 音頭を取ったのは、伊藤忠商事の次世代ビジネス推進室。2018年度、19年度の中期経営計画に掲げた「商いの次世代化」を踏まえて結成されたタスクチームが前身で、伊藤忠グループ全体のDX支援を担っている。

 そのチーム発足時からのテーマが、サプライチェーンの最適化に向けたグループデータの活用推進だ。「伊藤忠グループは川上から川下まで様々な事業体がある。これをデータを整備してつないでいけば、受発注や物流の業務改善、在庫削減が図れるのではないかと考えた」と関川潔・次世代ビジネス推進室長は語る。

 中で注目したのが、子会社の日本アクセスだ。取引数が多く、全国に物流網を持つ同社であれば改善効果も出しやすいと考えたのだ。アクセス側もこれを快諾。同社には数百人規模の受発注担当者がいるが、小売りのニーズを汲み取り、必要量を発注する業務を担当者の知識や経験に委ねており、この作業の効率化が課題となっていた。加えて従来の発注業務では小売り側の需要増に応じて追加発注をかけるため、実際の需要とずれが発生し、過剰在庫が生じていた。親会社の提案は渡りに船だったというわけだ。

 アクセスの協力を得て、伊藤忠商事がまず取り掛かったのがAI発注モデルの開発。18年に前述のタスクチームが結成され、データ分析では国内で老舗と呼ばれるブレインパッド社、システム開発ではグループ企業の伊藤忠テクノソリューションズも加わった。

 AIに学習させたデータは、大きく三つだ。まずアクセスの持つ過去の受発注などの業務データ。次に天気や体感気温、キャンペーンなどの外部データ。そして肝となるのが、アクセスの川下に位置する小売り側の受発注データで、今回はグループの小売り企業の協力を得た。

 その上でまず机上検証を実施。AIによる需要予測の精度を確認するべく、過去の出荷実績をさらに過去のデータを学習させたAIで需要予測を行ったところ、結果が見事一致。この結果を踏まえ、実証実験に乗り出した。

サプライチェーンのみんながウィンウィンを目指す

 実証実験は昨年から直近までの約1年、一つの物流センターを拠点とし、そこから発注する常温品の飲料やカップ麺、菓子など1000品目を対象にした。

 この間のAI発注モデルの調整は大きく二つ。まず商品サイクルに合った数量への対応で、定番の「定常品」から、「新商品」の発注予測、「終売品」と決まってからのスムーズな在庫調整までの流れをこなすことができるようになった。

 そしてもう一つが実際の業務への落とし込みだ。通常、受発注担当者はメーカーの取引条件に合わせた最適な発注を行っている。例えば小売りから10個発注があっても、メーカーは12個からしか受け付けない場合、アクセスは12個発注する。また別のメーカーでは1回の注文で20の扱い商品の中から自由に選び最小ロット数を超えること、といった条件のところもある。小売りが必要な商品がその中の一部だけだった場合、アクセスは残りを売れ筋などを勘案して発注しているのだ。これらメーカーの取引条件を学習させ、「メーカーにとって心地いい発注単位にすることにかなり時間をかけた」と海老名裕・次世代ビジネス推進室室長代行は明かす。

 そこまで徹底的に突き詰めた理由は、人を介在させないAIによる完全な自動化を目指したからだ。現在、センターの発注業務はほぼ完全に自動化に切り替わっており、受発注担当者の業務は約半分に効率化され、生み出された時間でメーカーへの新たな提案などの付加価値のある業務に従事できる体制を構築できた。在庫も当初の想定通り1~3割を削減できたという。

出典:伊藤忠商事ニュースリリース

 この成果を踏まえ、今年はゴールデンウィーク明けからAI発注モデルをさらに複数のセンターに広げる計画だ。また将来的には常温品のみならず、冷凍、冷蔵といった他の温度帯での対応も検討していく。

 これと並行して、次のステップとして考えているのが、アクセスの食品スーパーとの取引における業務効率化だ。具体的な中身はまだこれからだが、実証実験同様、メーカーへの発注業務にAIの需要予測モデルを生かすことも検討課題の一つ。その場合は、アクセスの汎用センターに適した「また違ったアプローチのモデルづくりが必要になる」と関川室長は見ている。

 伊藤忠商事として目指す理想はサプライチェーン全体の最適化だ。それに向け同社は「まずできるところから取り組んでいく」(関川室長)考え。もしアクセスのセンターから小売りのセンター、小売店舗という流れの1カ所でも効率化できれば、その仕組みをもって新たな提案につなげられる。また対メーカーでは、需要予測の先読み期間をもっと長くできれば、メーカーの生産計画の効率化にも寄与することができると見ている。「最終的な理想は、サプライチェーン間でみんながウィンウィンになるところまでもっていくこと。段階を踏んで、丁寧にサプライチェーンをつなげていきたい」と関川室長は期待を込める。

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