ファンケルを完全子会社化したキリンHDは2月14日、2025年12月期の事業計画を発表した。ヘルスサイエンス事業の売上収益は2600億円が目標で、そのうち約45%に当たる1160億円をファンケルが稼ぐ内容。文字通り、ファンケルはキリンHDにとって最重要のグループ企業になっている。「目標達成の鍵は、差別性のある商品を生み続けることだ」と断言する若山和正ファンケル上席執行役員(総合研究所 所長)に、今期のR&D(研究開発)戦略について話を聞いた。
五つの重点項目を掲げアジアパシフィックを攻める
――キリン傘下に入ることで、ファンケルのR&D戦略はどのように変わりましたか。
若山 キリングループは、ヘルスサイエンス事業領域において、アジアパシフィック最大級の企業になることを目指しており、その中でファンケルが果たすべき役割は非常に大きいと考えています。ファンケルの「正義感を持って世の中の『不』を解消する」という創業の理念を軸に、化粧品・健康食品の二つの事業を持つ強みを生かしながら、グループの経営資源を最大限に活用し、これまで以上にスピーディーに国内外での成長を実現していくことが必要だと考えています。ファンケルの強みは、生活者視点に立ち、潜在ニーズを掘り起こし、スピーディーに商品やサービスを提供できる点です。今後も社会環境の変化に伴い、美と健康の分野でもさまざまな課題が生じることが想定されます。これら「未来の不」を見据え、対応していくために、今年度、総合研究所では新たに五つの重点項目を掲げました。
――どのような内容でしょうか。
若山 一つ目は、中長期的な社会課題の解決に向けた研究・技術開発の推進です。社会や環境の変化、テクノロジーの進化により、今後も新たな社会課題が発生・拡大していくことが予想されます。これらの「未来の不」を解消するには、イノベーションが不可欠です。そのため、総合研究所では今期から「社会課題の解消に繋がる13の研究領域」を設定し、美と健康の分野での中長期的な研究・技術開発を進めていきます。二つ目は、グローバル市場への対応力強化です。特にアジアパシフィック地域に注力し、現地のニーズや法規制を深く理解することで、製品開発と市場展開のスピードを加速させていきます。
――具体的な取り組みはありますか。
若山 重点国の一つである中国では、昨年度、化粧品分野で、北京・上海・広州の3都市における大規模な市場調査を実施しました。現在、それらのデータをもとに、現地ニーズに適した専用品の開発や情報発信に向けた準備を進めています。また、健康食品分野では、既存の越境EC展開に加え、一般貿易による新たな市場開拓にも取り組んでいきます。
――三つ目の重点項目は何でしょうか。
若山 三つ目は、顧客満足と市場競争力の高い製品・サービスの計画的な開発推進です。事業部門と連携し、常に3年先を見据えた研究・開発を進めていくことを重視しています。具体的には、各事業部門と中長期の戦略(重点カテゴリーや育成方針)を共有し、それに基づいた36カ月の製品開発プランの策定に取り組んでいます。成果(アウトプット)を明確に設定することで、お客様満足度の向上と市場競争力の高い製品の継続的な提供を目指します。これら三つの重点項目を推進するための基盤として、さらに二つの重点項目を設定しています。
――どのようなものでしょうか。
若山 一つは、研究開発マネジメントとリスクマネジメントシステムの再構築です。より良い製品・サービスを持続的に提供するには、研究活動を適切に推進し、成果を最大化しながらリスクを最小限に抑える仕組みが不可欠です。1907年(明治40年)創業のキリンは、様々な経験を通して培った研究開発をマネジメントするための多くの仕組みやノウハウを保有しています。そこには多くの学びとヒントがあり、それらを活用しながらファンケル独自の研究マネジメント基盤を構築し、プロセスの見直しと改善を進めていくことで、研究活動の効率化と安定化を図りたいと考えています。もう一つは、人財育成の強化です。企業の持続的成長の鍵は「人の育成」に尽きると考えています。研究所で働くメンバーが日々の業務を通じて、自己の「成長実感」と組織への「貢献実感」を得られる環境づくりを目指し、六つのアクションを軸にした人財育成プログラムを開始しました。これらの活動を通して、将来の各研究部門の中核人材の育成も加速させたいと考えています。
――キリンとのシナジー発揮の準備は整っているようですね。
若山 この2年半、メンバーと共に社会の変化を理解し、未来のあるべき姿を定め、それを実現するための研究戦略の策定や仕組みづくりに取り組んできました。その結果、メンバー1人ひとりの思考も深まり、3年後、5年後の社会課題を意識した研究・開発が進められる基盤が整ったと感じています。キリングループの独自技術や仕組みを活用し、グローバル市場での競争力を強化しながら、グループのヘルスサイエンス事業の発展と社会への貢献を実現していきたいと考えています。現在のファンケルの研究チームなら、新たな市場を創造し、価値ある製品・サービスを生みだしていけると確信しています。