マーケティング泣かせのこだわりを徹底的に追求
サラヤのロングセラーブランド「ヤシノミ洗剤」(冒頭写真左)が、20年間右肩上がりで売り上げを伸ばしている。過去からのリピーターに加え、新規ユーザーの継続的な獲得の理由は、発売から変わらぬコンセプトと、2004年から始めた社会貢献活動だ。今やメーカーのマーケティング戦略において、「エコ」や「社会貢献」といったキーワードは不可欠な要素。サラヤのヤシノミ洗剤はまさにそれを体現し、消費者の支持を広げている。
ヤシノミ洗剤の発売は1971年。当時は石油系合成洗剤の排水が環境問題となっていた。そこでサラヤが開発したのが、「手肌と地球に優しい」をコンセプトにヤシの油を原料にしたヤシノミ洗剤だ。
サラヤはこのコンセプトをもとに商品のこだわりを徹底的に追求。結果、ヤシノミ洗剤はマーケティング泣かせの商品に仕上がった。例えば時代のトレンドを反映しない無香料・無着色。「香りも色も洗浄力には関係ない。むしろ余計なものは手肌を荒れさせ、環境負荷にもなる」と当時のトップが決断した。しかも価格は高単価。無香料・無着色だと逆に原料の質が如実に表れることから精製度の高い原料を使用したためだ。当然、発売当初は全く売れず、「大阪の中小メーカーが生意気だと言われ、なかなか問屋さんに扱ってもらえなかった」と廣岡竜也広報宣伝統括部長は明かす。
マーケティング泣かせの逸話はこれにとどまらない。1980年代には、プラごみ削減を念頭に台所用洗剤では初の詰め替えパックを投入(冒頭写真右)。そこまではいいが、さらにそれに合わせてパッケージを変更。一般的にパッケージは商品名を目立たせるものだが、「長い間ボトルが使われるのだから、家庭になじむデザインでなければ」と商品名がぐっと小さくなり、ヤシのモチーフを中央にどかんと表示するパッケージに切り替わった。
極めつけは洗浄力だ。90年代になると、台所用洗剤は洗浄力を訴求する高濃度タイプの商品が席巻。サラヤはといえば「手荒れや環境負荷の要因になる」と一線を画した。「むしろ私達は洗い方そのものをお客様に捉え直していただきたいと発信しました。フライパンの油汚れはそのまま流すのではなく、一度拭き取りましょうと。そのほうが環境負荷も手荒れも減る。ただ『環境に優しい』のコンセプトは、当時のお客様にはなかなか受け入れられなかった」と廣岡部長は当時の苦難を語る。
逆風下で始まった環境保全活動が追い風に
それが消費者に認められるようになったのは、04年の一大転機がきっかけだ。原料の一つであるパーム油を生産するマレーシアのボルネオ島で、プランテーションの拡大による自然破壊が問題視されるようになったのだ。
これを受け、テレビ局の取材依頼にサラヤが応対。サラヤは「原料調達先の環境問題については知らなかったこと」「知った以上はちゃんと対応すること」の2点を語ったが、テレビでは「知らなかった」の部分だけが切り取られ、「無責任だ」と大炎上に。そこでこの誤解を解きつつ、使用量の多寡にかかわらずメーカーとしての責任を果たしていこうと始まったのが、ボルネオ環境保全活動だ。
トップ自ら現地入りし、実情を確認。1社で解決できる規模の問題ではないとして、他社との協業を推進するべく、政府公認の環境保全団体を立ち上げ、07年にはヤシノミ洗剤の売り上げの1%を保全活動に充てることを決断した。
その後、10年の生物多様性条約締約国会議(COP10)などを通じて日本でもエコの意識が高まり、ボルネオでの活動が紹介される機会も増加。消費者にもこの活動に参加してもらおうと、動物の写真と一緒に「ボルネオはあなたが守る」と書いたPOPも反響を呼んだ。
活動は、農園開発によって失われた熱帯雨林だった土地を回復させる「緑の回廊プロジェクト」、伐採で分断された森に隔離されたオランウータンを救う「命の吊り橋プロジェクト」など多岐にわたる。
これらの活動を広く知ってもらおうと、メディアやインフルエンサーらと一緒に現地を視察して情報発信してもらう取り組みなども継続的に行っている。
消費者への活動の浸透度を示すのが、雑誌社の協力を得た消費者調査の結果だ。ヤシノミ洗剤を買う理由について、ボルネオでの環境保全を挙げた消費者が全体の半数近くを占めた。まさに逆風下で始まった取り組みが追い風になった格好だ。
企業イメージにも大きく寄与。今年2月に発表された第36回日経企業イメージ調査では、サラヤが一般個人の「地球環境に気を配っている」企業ランキングの25位にランクイン。同順位には国内大手食品メーカーが肩を並べた。
廣岡部長は「何より難しいのは活動を継続すること。我々の場合は、時代とともに消費者の意識が変わり、支援してくれる方が増えたことが大きかった」と振り返る。
今年の新たな活動は、畑に入って荒らしてしまう象のための通り道の整備。時代に流されない発売当初の信念を貫き、環境保全活動と消費者の支持の好循環を継続させていく構えだ。