店舗のデジタルサイネージ導入に当たり、これまで業界内で議論になってきたのが効果の捉え方だ。この数年は販売実績の押し上げ効果が中心だったが、いまもう一つ注目されているのが認知効果。テレビCMやSNS同様、商品を知ってもらうことそのものが重要な効果と言えるからだ。これをどう数値化して価値を見える化しているのか。サイバーエージェント協業リテールメディア部門 サイネージ事業責任者である赤木伸之氏に話を聞いた。

認知効果を可視化し広告の価値を高める

 ――店頭でサイネージを見かける機会が増えています。実際、導入は進んでいるのですか。

 赤木 この1、2年は特にコンビニやドラッグストアの大手チェーンさんが積極的に動かれています。先日ファミリーマートさんはサイネージを1万店に設置したと発表されました。この数になると、広告主の方々にとって無視できない存在になったと言えるのではないでしょうか。

 ――リテールメディアの広告市場も拡大傾向にあるわけですね。

 赤木 そうですね。ただ、まだまだ立ち上がったばかりのメディア市場ですので、弊社事業の柱であるインターネット広告事業の中で〝次の広告市場〟と位置づけるリテールメディアの価値をしっかり創造していきたいと思っています。

 ――新たな市場を育てる上で、どんなことがポイントだとお考えですか。

 赤木 重要なのは効果をどう捉えるかだと考えています。ここで改めてリテールメディアの特徴を整理しますと、オンラインとオフライン、そして発信する情報の中身は自社販促と広告とに分けられます。オンラインメディアは自社サイトやSNSなど、皆さんがすでに取り組まれているケースも多い。ただ我々は店頭でサイネージを通じて情報発信するオフラインも合わせてしっかり取り組むことをご提案しています。店頭はお客様が購買行動をされる場所であり、日々多くのお客様が来店されるからです。

 ――小売業にとってはこの強みを生かさない手はないということですね。

 赤木 そうです。その上で、これまで議論になってきたのがサイネージを導入した際の効果の捉え方です。現状ですと、広告配信によってどれだけ商品が売れたか、販売実績に対する評価のみで効果を捉えるケースがほとんどでした。そうすると家電量販店のように、扱う商品単価が高い場合は費用対効果が見合いやすくメーカーさんも広告を出しやすいのですが、コンビニやドラッグストアで扱う商品のように単価や利幅が低いメーカーさんにとっては、いくら数が売れると言っても販売効果だけでは費用対効果でみると広告出稿が難しいという論調がありました。しかし、リテールメディアとは販売効果だけでなく、認知効果も合わせて獲得できる新しいメディアであると考えています。

 ――販売効果に加えて認知効果にも着目すべきということですね。

 赤木 認知を獲得するメディアの代表例はテレビCMであり、多額の広告予算が投下されています。それに加えて今ではユーチューブやインスタグラムなどのデジタル広告にも予算がシフトし始めているわけですが、大勢のユーザーに見ていただくという点では店頭メディアでも同じ効果が得られると考えています。今後、認知拡大のための広告予算がリテールメディアにも流れてくるのではないかと見ています。そのため、店舗でお客様が広告を見て、商品の購買に直結する関心度がどれだけ高まったかを可視化することは、リテールメディアの価値創造を図る上で重要であると考えています。

認知効果の最大化にはクリエイティブの工夫が不可欠

 ――どのように可視化するのですか。

 赤木 お客様へのアンケートなどから導き出しています。例えば、ある小売チェーンで一定期間、サイネージに商品広告を配信したとします。アンケートでは、期間中に店舗に来店したお客様がその商品を「知っている」と回答した割合から、店舗に来店しなかったお客様がその商品を「知っている」と回答した割合を引くことで認知効果を導き出せます(図1)。同様の方法で「購入意向がある」と回答したお客様を比較することで、広告による購入意向の高まりを示すこともできます。

 ――認知獲得にかかった費用も算出できるのですか。

 赤木 共通の考え方があるわけではないですが、私たちが考えている算出方法をご紹介します(図2)。まず1日の来店者数×配信日数×配信店舗数でその期間に広告を見たであろうお客様の延べ人数を弾きます。次にこれだと延べ人数のままなので、配信期間におけるお客様の平均来店回数で割ることで、ユニーク人数を算出します。そこに先程の認知効果を掛け算すると、今回の施策で何人のお客様の認知を獲得できたかを理論上計算することができます。費用については、その広告主様が1人の認知を得るためにおおよそどれぐらいのコストをかけているかを把握していれば、その金額をかけ合わせることで認知獲得にかかったコスト感がわかりますし、逆に出稿予算をその人数で割り算すれば、1認知獲得あたりにかかったコストを弾くことができますので、それを今後のマーケティング施策に生かすことができると考えています。

 ――認知効果や販売効果を向上させるためには、何が重要でしょうか。

 赤木 結果を左右する一つの大きな要素は広告のクリエイティブだと考えています。特に、我々がこれまでサイネージ広告の取り組みを進める中で気づいたことがあります。よくメーカーさんから店舗内のサイネージでテレビCM動画を流したいとお話をいただくのですが、これは、あまり高い販売効果が得られないことが分かってきています。

 ――それは衝撃です。

 赤木 お客様の視聴態度が全く異なるためだと思われます。テレビCM動画は自宅でソファに座って見るテレビ用のコンテンツであり、店頭で購入に至る前の最後の一押しのタイミングには必ずしも適していません。

 ――するとどんな動画が最も刺さるのでしょうか。

 赤木 店頭POPを参考にした動画クリエイティブで高い効果が得られることが確認できています。我々自身も当初はインターネット広告のような動画を作りがちだったのですが、試行錯誤を続ける中で、そういった制作手法に至りました。勿論これらは時と場合、商品によっても異なりますので、「必勝法」というわけではありませんが、サイネージ動画を制作する際には、その商品にとって最も参考になるPOPを弊社の制作担当チームが実際の店舗や過去のデータベースなどから探し、文字や色味、全体のトーンなどを考えながらクリエイティブ制作を行うことが増えています。

 ――サイネージ広告の効果を最大限に高めるにはクリエイティブの工夫が不可欠ということですね。

広告事業だけではないサイネージの活用方法

 赤木 ここまでの話はサイネージの〝広告〟に焦点を当てた内容でした。ただ冒頭ご説明したように、サイネージは広告だけでなく〝自社販促〟にも活用できます。実はこの自社販促も、サイネージを導入するに当たり重要だと考えていまして。

 ――といいますと。

 赤木 サイネージは機材ですので、導入するのにコストがかかります。小売業さんはリースなどで「月額いくら」とお支払いされているわけですが、せっかくであればそのコスト分を自社販促を打つことで回収してはどうかとご提案しています。例えばPBや惣菜の動画をサイネージで配信して売り上げを伸ばす。自社アプリのダウンロードを促進しロイヤルユーザーを獲得する。そこで得られた成果・収益をサイネージのコストと相殺できれば、広告収入はそのまま真水の収益になるわけです。

 ――自社販促で得た収益をサイネージ広告の基盤にするということですね。

 赤木 そうです。そしてこの考え方は中小の小売業さんこそ大事だと考えています。どうしても広告を出稿されるメーカーさんは規模を重視されます。そうしたこともあって、中小の小売業さんは自分たちにチャンスがないのではないかと思われがちです。ただ自社販促で活用することでコストを回収し、さらにバイヤーさんが取引先に対して販促ツールとしてサイネージをご提案するといったやり方もあると考えています。

 ――広告事業だけがサイネージの活用ではないということですね。

 赤木 はい。我々はサイネージの機材導入から広告のクリエイティブまで、リテールメディアの立ち上げに必要なアセットはすべて揃えていますし、様々なご提案も可能です。関心をお持ちの小売業様はぜひお声がけいただきたいと思います。

赤木 伸之/ Nobuyuki Akagi
サイバーエージェント 協業リテールメディア部門 サイネージ事業責任者
2014年にサイバーエージェントへ入社し、広告事業のコンサルタントに従事。2018年に子会社CA Retail Marketing の取締役として立ち上げに関わり、複数の新規事業立ち上げやオフライン店舗でのオペレーション体制を構築。2022年ミライネージ事業責任者に就任。