デジタルサイネージの導入店舗が増えている。売り場の柱や商品のそばに設置して、新商品の特徴や使い方、生鮮3品なら産地情報、惣菜なら調理工程、さらにメニュー提案などの動画や画像を配信。作り込まれた動画には思わず立ち止まるお客が少なくない。さらに直近では自社の販促宣伝にとどまらず、マスメディアに代わる広告収入の受け皿となることで、新たな収益の柱に育てたいと考える企業も出てきている。アメリカのウォルマートは昨年度、グローバルの広告事業で27億ドル(約3500億円)を稼ぎ出した。

 一方でリテールメディアの取り組みには相応のノウハウが欠かせない。こと中小企業にとっては、専門人材の配置など難しい課題もある。これをどう解決すればよいのか。デジタルサイネージの活用に詳しいサイバーエージェント協業リテールメディア部門の藤田和司氏と赤木伸之氏の両氏に話を聞いた。

広告収入の獲得に関心を示す小売業が多い

 ――小売業のデジタルサイネージへの問い合わせは増えているのですか。

 藤田 増えています。スタンスは二つに分かれまして、最初から広告収入の獲得を目的の本丸に掲げている小売企業様もいれば、基本的には自社販促の高度化を目指しており、広告収入は副次的と考える企業様もあります。実際、消費者行動が多様化する中で、「新商品を店頭で初めて知る」といったケースは増えていまして、売り場での情報発信を強化する上でサイネージを活用したいといった声は増えています。ただご相談が多いのはどちらかと言えば前者の印象です。

 ――業態別ではどうでしょうか。

 藤田 直近ではコンビニやドラッグストアの皆様からのご相談が多いです。GMSやSMの皆様はもう少し導入が進んでいる。ただ業態にかかわらず共通しているのは、大手の小売企業様はメーカーの持ち込みサイネージも含めて売り場での活用が進んでいる一方、中小の小売企業様からは、非常に興味はあるけれどもどこから手を付けて良いかわからない、取り組みの具体的なイメージがわかない、といった声をお聞きします。

導入コストのハードルは確実に下がっている

 ――そもそもサイネージはこの1、2年で急速に変わった印象があります。

 赤木 おっしゃるとおりで、テクノロジーの進化に伴い、サイネージの分野も大きく進化しています。実はサイネージ自体は10年以上前からあるものなんですね。ただ当時は機材のバリエーションが少なく、コンテンツもきめ細かな運用ができませんでした。それでいて値段が高い、保守メンテナンスも十分でない、さらに効果的な宣伝手法といえばテレビCMという風潮も相まって、「導入してみたものの効果の実感が得られない」というケースが多かったんです。

 ――それが技術革新で変わったと。

 赤木 まず機材のバリエーションが豊富になりました。以前ですとサイネージと言えば棚前の小型モニターが主でしたが、今では店頭入り口の縦型から始まって、アルコール消毒との一体型、エンド棚上段取り付け型、横断幕型、壁掛け型、棚の仕切りPOP型、レジ上に3枚のパネルが連なる大型サイネージといったものもあります。

サイネージの種類が豊富になった

 ――これだけあると、店舗のニーズに合ったサイネージを選ぶことができそうですね。

 赤木 これによって店舗の動線計画やレイアウトに合わせて、サイネージを使ったお客様とのコミュニケーションがスムーズ、かつ適切に行えるようになりました。ちなみに機材のコストも従来のものと同等かより安価になっています。サイズや発注数によって変動はありますが、ディスプレイ本体ですと最大2分の1まで価格が下がっているものもあります。その点で導入コストのハードルは確実に下がっていると言えます。

 ――肝心のコンテンツはどうでしょうか。

 赤木 ここは非常に重要なポイントで、個店レベルのきめ細かな対応が可能になっています。従来ですと全店統一で同じコンテンツが配信されることが多かったのですが、本来は商品ごとに狙いたい客層があり、当然その層に向けた動画制作が必要です。さらにもっと効果を高めるには、その層がどの店のどの時間帯によく来店するかを知った上で、そこにきちんとアプローチする必要があるわけですね。

 ――そこまでできるようになったと。

 赤木 特に弊社はインターネット広告で培った知見がありますので、これを生かした動画制作とオペレーションの一気通貫の体制を構築しています。これによってサイネージの効果を最大化しているんです。例えばあるチェーンでエナジードリンクを訴求するとします。POSデータを見ると意外に女性の購入が多い。であれば動画も女性視点で制作する。さらに郊外立地とオフィス立地とでは購入層が違いますし、売れる時間帯も当然違ってきます。であれば、そこに合わせて重点的に取り組む店舗と逆にそうでない店舗があっていい。そうしたメリハリのある取り組みも実行が可能です。

藤田 和司/Kazushi Fujita
サイバーエージェント 協業リテールメディア部門 統括
2002年サイバーエージェントに入社し広告事業の営業マネージャーとして従事した後、2011年に株式会社AMoAdの立ち上げメンバーとして参画。2012年に同社取締役に就任。広告事業・メディア事業にて幅広く事業立ち上げを経験し、現在は協業リテールメディア部門の統括を務める。

赤木 伸之/Nobuyuki Akagi
サイバーエージェント協業リテールメディア部門サイネージ事業責任者
2014年にサイバーエージェントへ入社し、広告事業のコンサルタントに従事。2018年に子会社CA Retail Marketing の取締役として立ち上げに関わり、複数の新規事業立ち上げやオフライン店舗でのオペレーション体制を構築。2022年ミライネージ事業責任者に就任。