人流が回復し、経済活動が活発化したのに伴い、人手不足が再び懸念されている。そうした中、スキマバイトのマッチングサービス、タイミーを活用して現場の人手を確保する流通業が増えている。その成果を具体的な事例を交え、6回にわたり紹介する。

スキマバイトを活用し人手確保のニーズに対応

 近年、人手不足対策にスキマバイトを活用する流通業が増えている。スキマバイトとは、数時間から1日単位で働くアルバイトのこと。必要な時だけ人手が欲しい事業者と、好きな時に働きたい働き手(ワーカー)とのニーズが合致したことに加え、アプリで双方をマッチングするサービスが登場したことで利用が拡大している。

 このスキマバイトのマッチングアプリで業界ナンバーワンの実績を誇るのが、タイミー(東京都港区)だ。2018年8月のサービス開始から5年ほどで、ワーカー数500万人、導入事業者数4万6000社、13万拠点を誇るまでになっている。

500万人のワーカーが登録するタイミー

 タイミーの利用が増えている最大の理由は、手続きの簡便さだ。一般的なアルバイト採用とは異なり、タイミーのスキマバイト採用は、煩雑な手続きが必要なくワーカーと雇用側のマッチングまでのリードタイムが短い。ワーカーは、アプリをダウンロードして免許証などの本人確認書類を登録すれば、仕事に応募できる。アプリ上に表示される仕事から日時や場所を絞り込み、事業者側の条件と自身の希望が合致したところを選んで申し込みボタンを押せば、申し込みが完了。あとは当日、直接働く場所に出向くだけ。仕事の開始と終了時に店舗の2次元コードを読み取ることで働いた時間が確定し、すぐに報酬がマイページのウォレットに入金される。

 一方、雇用する事業者は、ブラウザの専用ページに必要事項を入力して人材を募集する。入力作業は1分程度で済むため、夕方のバイトを当日朝に募集することも可能だ。事前の採用面接がない分、ミスマッチが起きないための工夫も施されている。雇用する事業者側は、募集時に五つまで条件を設定でき、応募者の情報も閲覧が可能。氏名や電話番号などの基本的な情報に加え、過去にタイミーで働いた総時間数や働いた企業の評価、キャンセルした際につくペナルティポイントなども確認できるため、安心できる。 

 二つ目の理由は、マッチング率の高さだ。募集から24時間以内にマッチングする確率は70%以上で、最終的なマッチング率は90%を超え、募集すれば人材がほぼ確保できる状況だ。これができるのも、1日数時間、1回からと、働く上での敷居が低いため。通常のパート・アルバイトは、1日何時間・週何回という縛りがあるため、その条件に合わない人は就労を諦めている。そうした〝働きたいのに働けない〟という潜在的な労働力の活用につなげることで、人材を確保しやすくしているのだ。

 三つ目は、お試し利用ができる点だ。コストや時間をかけてパート・アルバイトを雇っても、期待通りの働きができない、すぐに辞めてしまうなどのミスマッチは少なくない。その点、タイミーは、1日単位で募集できるうえ、気に入ったワーカーがいれば長期雇用のパート・アルバイトへの転換も自由に交渉でき、タイミーに紹介手数料などを払う必要はない。同社事業推進1部の佐藤和也リーダーによれば、「実際、タイミーをきっかけに、長期雇用のアルバイトになった人はもちろん、中には店長にまでなった人もいる」という。


事業者は、応募のあったワーカーの情報をウェブ上で事前に確認できるため、ミスマッチが起きにくい

 ワーカー側も働きやすい職場を探す手段にタイミーを利用しており、同じ職場で繰り返し働くリピーターの割合も高く、中には年間のリピート率が9割を超える企業もある。リピーターが増えれば、毎回、一から仕事を教える手間も省けるなど、教育コストが抑制できるメリットもある。

小売業でも導入が拡大売り上げ増や負荷軽減効果も

 では、実際の小売業の利用状況はどうか。タイミーの今田悠希事業本部リテールGマネージャーによれば、「全国チェーンの総合スーパーからローカルスーパー、ディスカウントストア、ドラッグストア、コンビニエンスストアまで、多様な業態で導入が広がっている」という。

 活用方法で多いのは、店舗の品出しだ。品出しは、未経験者でも取り組みやすい業務なので、タイミーを活用しやすい。また、品出しを行う時間帯も店舗ごとに決まっているため、短時間だけスポットで人員を投入するタイミーの強みを生かせるという面もある。

 コロナ下で急成長したネットスーパーでもタイミーの活用が増えている。ネットスーパーは、天候などにより需要の波が大きく、ピークに合わせて人を手当てすれば、コスト増になり、逆に人数を抑えれば増えた需要に対応できず、機会ロスになってしまう。そこで、需要が多い時にタイミーを活用すれば、必要な時だけ人員を確保できるため、投資効率が高まるのだ。

 タイミーを導入した企業からは、「機会ロスが減り、売り上げの拡大につながった」「従業員の負荷が軽減し、職場環境が改善した」「スポットで人材を確保できるため、人件費削減につながった」など、評価の声が多数寄せられているという。

 こうしたメリットから、導入企業も増えており、スポット人材確保の手段として活用する事業者も出てきた。従来、パート・アルバイトの穴埋めなどスポット人材は、人材派遣会社を活用するのが一般的だったが、人材派遣は費用が高いことから、これをタイミーに切り替えることで、コスト削減を図ることができる。

 このほか、長期的なパート・アルバイト採用の入り口としてタイミーを活用するところもあるという。リピート率の高いワーカーをアルバイトに転換できれば、自力で募集する手間や広告費用の削減にもつながる。佐藤リーダーは、「タイミーは、事業者様の目的に合わせて使い分けができる。事業者様のニーズに応じた導入方法を提案していきたい」と強調する。

 加えて、事業者の利便性を高めるサービスも提供している。その一つが「検便の代行サービス」だ。生鮮などを扱う場合、就労には検便が義務付けられているため、1日だけのスポットワーカーでも必要な手続きを行わなければならず、事業者にとって負担になっている。そこで登録ワーカーに対し、タイミーが検便の手続きを代行し、検査済みのワーカーを紹介することで、事業者の負担を軽減しようというのだ。現在、関東の一都三県と愛知・静岡・福岡の各県で開始しており、今後対応エリアを拡大していく構え。

 経済の回復とともに、人手不足は深刻化している。帝国データバンクが今年7月に行った調査によれば、正社員が「不足」と感じている企業は51.4%で、7月としてはこれまで最も高かった18年(50.9%)を上回り、過去最高を記録した。また、非正規社員も30.5%で、こちらは7月としては5年ぶりに3割超の水準に上昇している。人手不足が恒常的な課題となる中、人材確保も旧来の方法にとらわれない発想が求められている。短時間のスキマバイトも複数人数が集まれば、長時間の労働力になる。今田マネージャー、佐藤リーダーはともに「新しい人材確保の方法としてぜひタイミーの活用を検討いただきたい」と力を込めた。

左からタイミー今田悠希事業本部リテールGマネージャー、佐藤和也事業推進1部リーダー