新聞購読数の減少に合わせ、チラシを受け取る消費者が減少していく中、代わって情報を届けるリテールメディアの存在感は高まる一方だ。企業がLINE上で消費者との接点を作り出せるサービス「LINE公式アカウント」もその一つ。LINE経由でお買い得情報などをダイレクトに届けることができる。
だが多くの小売業は、LINE公式アカウントを利用しているものの、「その強みを十分に生かせているとは言い難い」とサイバーエージェントリテールメディア事業本部の齋藤学副統括は指摘する。どのようにすればメディアとしての価値を高められるのか。齋藤副統括に理想の活用方法について聞いた。
LINEの活用を見直す動きが出てきた
――LINE公式アカウントを利用している小売業は多いのですか。
齋藤 コンビニ、スーパー、ドラッグストア、家電量販店、専門店など、大手小売業では多くの企業様がLINE公式アカウントを持たれています。運営の主体は様々で、本部が自社アプリと共に運営しているケースもあれば、本部は自社アプリ、店舗はLINEといった棲み分けをされているケースもあります。
――新たに利用したいという企業の問い合わせも増えているのですか。
齋藤 はい。それと、すでにアカウントを持たれている企業様から「もっとうまく活用するにはどうしたらいいか」といったお問い合わせも多くいただいています。
――改めてLINEの活用を見直す企業が増えていると。
齋藤 デジタルの普及により、紙媒体への接点が減少する中で、相対的にリテールメディアを重要視される企業様は増えています。中でもLINEはSNSの中でも人口のカバー率で最も秀でています。多くのユーザー数を抱え、若年層からシニア層まで幅広い世代に利用されています。そしてもう1つの強みは、プッシュ通知でお客様が受動的に情報を入手できる点です。お客様が企業の公式アカウントをフォローすると、トークルームに情報が届きます。自分から情報を取りに行く必要がなく、入ってくる情報を取捨選択すればいいわけです。自宅の郵便ポストにチラシが何枚も入っていて必要なものだけとっておくようなイメージです。
――お客からすると、アプリよりも導入の敷居が低そうです。
齋藤 新聞のついでにチラシが入ってくるのに近しい感覚で、LINEを利用するついでにほしい企業の情報も入ってくる。お客様側からすると、アプリをダウンロードするよりも、日常使いのLINEのほうが敷居は低いように思います。
――そうすると、アプリとLINEそれぞれの良さをどのように戦略的に生かしていくかが重要と言えそうですね。
齋藤 おっしゃるとおりです。そもそもアプリとLINEではお客様の閲覧のタイミングが違うと考えています。現状、小売企業の多くのアプリでは、会員証やクーポン機能がメインの利用が多いので、店頭のレジ前で立ち上げることが多い。逆にLINEは普段の生活の中での利用が多いですので、むしろ来店への動機づけになる情報発信に向いているといった特徴があります。先ほど申し上げたように、LINEはリーチできるお客様の数が多い。LINEから自社アプリにつなげるといったやり方もあります。企業様の運営方針や投資余力によってはアプリかLINEかの二者択一になってしまうこともありますが、理想は両方の良さを生かし、顧客接点のシナジーを創出させていくことだと考えています
メディア育成のポイントは〝環境〟と〝規模〟
――その中で、LINE公式アカウントの理想的な活用方法とは。
齋藤 最終的な目標は、LINEを通じて情報を得たお客様の行動が変わり、購買につなげることです。すなわちLINE公式アカウントが事業にインパクトを与えられるメディアに育てられるかどうか。そこでポイントになるのが〝環境〟と〝規模〟です。
――どういうことでしょうか。
齋藤 まず環境ですが、お客様にこのアカウントにいたいと思っていただくには、送り側主体で伝えたい情報を送るのではなく、受け手側目線で〝お客様ごと〟に必要とされる、価値のある情報やコンテンツを提供できる場所であることが求められます。そのため、お客様は受動的に受け取る情報として、どのようなコンテンツを求めているのか?どのようなコンテンツの反応が良かったのか?を把握できる環境を作り、提供する情報の精度を上げていくことが重要だと考えます。
――なるほど。
齋藤 それと同時に求められるのが規模です。本来メッセージを受け取ってほしいお客様は、当然お店を利用してくれる可能性の高い方です。むやみにアカウントの友だち登録者数を増やすのではなく、店舗を利用するであろう、小売りにとって〝真のお客様〟にアカウントを利用していただくことを念頭にアカウントの規模を拡大することが重要です。そのため、無作為にネットでプロモーションをかけるよりも、店頭などの身近なところで声がけをすることが近道だと考えています。
――そうすると、まず必要なのは環境整備ということですね。
齋藤 はい。どんな情報をお客様に発信するか、それをどう出し分けするか。コンテンツの中身と整理が欠かせません。実はLINE公式アカウントを活用されている企業様の中には、とりあえず毎週お買い得商品やチラシなど紙媒体の表現をそのまま、送付している状態が散見されます。経営層からデジタル対応の指示を受けて、とりあえずLINEの公式アカウントを作成したものの、機能がよくわからないのでとりあえずお買い得商品やチラシの情報を流すといった感じです。
――それではただチラシを紙からLINEに置き換えただけでは。
齋藤 そうです。そもそもLINE公式アカウントには、お客様によって情報の出し分けを可能にする機能がありますが、うまく利用されていないケースが多いと感じます。チラシの1斉配信自体は否定するものではありませんが、重要なのはそこに企業様の意思があるかどうかです。
――なるほど。
齋藤 逆に各部署がアピールしたい情報をどんどん発信する企業様もあるのですが、これはこれで評価が難しい。お客様の側が情報を取捨選択するとはいえ、ともすると鬱陶しがられてアカウントをブロックされてしまうといったことになりかねません。
CXを意識したユニクロの好事例
――小売業の好事例では、ユニクロ(ファーストリテイリング)がよく知られています。
齋藤 そうですね。ユニクロさんは、お客様に習慣化されるように、店頭の価格変更などのタイミングに合わせて、規則性をもってお客様に情報を伝えています。また、アプリと共存させるためにアカウント内で会員証を表示できる機能を盛り込むことで、チラシで伝える情報をお客様ごとに合わせて提供しています。LINEの利用特性を生かした、間口を広げた会員獲得を実現しているように感じます。
――販促にとどまらない利便性を提供しているのですね。
齋藤 ユニクロさんはCX(カスタマーエクスペリエンス)を意識して設計されています。そこはとても重要なポイントだと思います。
――LINE公式アカウントを活用する企業は、御社のような代理店を挟むケースが多いのでしょうか。
齋藤 はい。ただこれまでの代理店の業務は、企業様の作業代行の側面が強かった。「こういった情報を流したい」と指示を受けて、そのコンテンツを作成して流してきたんです。ですが、私達はその現状を変えて、より良い提案をさせていただきたいと思っています。当社の強みは長年インターネット広告事業で培ってきた、効果に向き合うための運用体制です。配信実績を元に分析、改善を繰り返すこと、インターネット広告ならではの、ターゲットに合わせたクリエイティブを深掘りすることで、お客様の行動を促し、効果を最大化することを目指し、結果につなげていきます。LINE公式アカウントのより良い活用に、ぜひご一緒させていただきたいです。
齋藤 学 /Manabu Saito
サイバーエージェント インターネット広告事業本部 リテールメディア事業本部副統括
2013年4月サイバーエージェント新卒入社、スマホ向けサービスの営業担当後、アドテク事業の営業に従事。18年にABEMA事業メディア営業責任者として出向し、広告枠販売や商品設計に従事。 その後、リテールメディア事業本部に異動し、副統括に就任。広告商品開発におけるコンサルティングを担当。