Chat(チャット)GPTの登場で、俄然注目を集めているのが生成AIの領域だ。日本語で質問すると同じく日本語で詳細な答えが返ってくる経験をした人も多いだろう。すでにビジネスにおいても生成AIの活用事例は生まれている。サイバーエージェントの子会社であるAI Shift社は、生成AIがより活用しやすくなる新サービスを開発中だ。AI Shiftの米山結人代表と生成AIビジネス事業部全体責任者の磯野伶央氏に生成AIの可能性について聞いた。

生成AIの登場で活用の幅が一気に広がった

 ――生成AIというキーワードを昨年からよく耳にするようになりました。

 米山 生成AIは、OpenAI社のChatGPTが特に有名ですが、大量のデータを学習することで、幅広いタスクに対し、文章、画像、音声などのさまざまな形式を生成して解決するAIのことを指します。

 ――従来のAIとはどう違うのでしょうか。

 米山 従来のAIは主に特定のタスクを解決するための特化型でした。特定のタスクを解決するために特定のデータを学習させるため、それ以外のタスクにおける活用が難しい状況でした。その一方で、生成AIは大規模言語モデル(LLM)と呼ばれる、大量のデータをもとにしていますので、汎用性が高いです。

 ――AIの可能性が一気に広がることになるのですか。

 米山 おっしゃるとおりです。目下、多くの企業が生成AIの活用について議論を深めています。ただ、生成AIも完全なものかといえば、注意は必要です。ハルシネーションというのですが、生成AIが誤った答えを出してしまうことがあるんです。もちろんこの問題の解決方法も研究されていますが、現段階では前提として生成AIの利便性とリスクの両方を踏まえて活用する必要があると考えています。

 ――サイバーエージェントでは早くからAIの領域に力を入れていますね。

 米山 弊社AI Shiftは子会社として19年に創設されました。主にコールセンター向けのAIソリューションを提供していまして、チャットボットやボイスボットと呼ばれる対話型のAIを自社で開発し、お客様との会話の一部をAIに代替させることで、コールセンターの省人化に貢献しています。弊社としては親会社と連携しながら、この生成AI領域においても社会実装を進めるべく、今まさにいろんな企業様の業務改善をご支援したいと、動き始めているところです。

社内ナレッジ検索で資料作成の重複を防ぐ

 ――具体的にはどのようなサービスを考えているのですか。

 磯野 「AI Worker(ワーカー)」という業務改善プラットフォームを、3月を目処に提供したいと考えています。どの企業様も共通でご利用いただける「汎用ワーク」と、各社様の課題に合わせて弊社が個別開発をする「個別ワーク」の二つの形態でご提供する予定です。

 ――どのような業務改善が可能になるのですか。

 磯野 汎用ワークで代表的な業務に社内ナレッジ検索が挙げられます。AIワーカーで知りたい内容を質問すると、お客様の組織内に保存されている複数のドキュメントから、答えの〝もととなるデータ〟を引っ張ってきて回答を生成します。また、ドキュメントがどこに保存されているのかも示しつつ、そのドキュメントを簡単に参照することができる仕組みも考えています。

 ――必要な情報を簡単に探せるようになるのは便利です。

 磯野 特に組織が大きくなればなるほど、ニーズは高いと感じています。縦割り組織で組織を横断した連携が十分ではない企業様ですと、さまざまな部署が同じような資料を作成しているケースがあると実際にお聞きしました。

AI Workerのタスクポータル画面

 ――小売業でもありそうな話ですね。

 磯野 今後、もちろんデータを整理整頓していただくことが大前提にはなりますが、社内ナレッジ検索により、まずは自分が知りたい情報が既に社内にあるのか引き出すことができるようになります。

 ――他にはどんな機能がありますか。

 磯野 例えばメールやレポート作成のお手伝い、翻訳作業、文書の要約も可能です。要約は箇条書きなどの形式を選べたり、文字数も調整できたりします。こういったタスクを、セールス、マーケティング、人事、総務など、業務や役職に応じてご用意することを考えています。

 ――小売業からの要望は現時点でどんなものが挙がっているのでしょう。

 磯野 ある企業様は、毎月本部から店舗に送るマニュアルの要約を希望しておられました。1カ月分の業務内容などが書かれている厚いマニュアルなのですが、現場の従業員がすべてに目を通すことは難しい。その中から必要なタスクを抽出して要約してほしいということでした。またECの企業様からは、返品率が増加した際にお客様からの問い合わせを要約した上で、原因を分析してレポートにまとめてほしいといった要望を頂戴しました。また、レポート業務では他にも、前年の同じ時期にどんな商品が売れていたかをまとめてほしいといったお声もあります。

 ――これらは実現可能なのですか。

 磯野 可能です。例えば最後の売れ筋商品のレポートにつきましては、お客様の販売データや仕入れデータがまとまっていることが前提にはなりますが、それらをもとにデータをグラフなどで可視化し、データに基づいた販売傾向の分析なども含めて、抽出してレポートにすることができます。

社内ナレッジ検索画面

外部に情報が流出する心配もない

 ――他にもできることはあるのですか。

 磯野 小売業様以外に、メーカーや卸の皆様にも活用いただけるシーンは多いと考えています。取引先である食品スーパー企業の情報を集め、それを生成AIが分析し、提案内容に生かすこともできます。

 ――なるほど。

 磯野 実はこうしたことはChatGPTでも可能ではあります。ただChatGPTの場合、質問(プロンプト)を書くことが難しく、プロンプトの記載に時間がかかってしまいます。そのような懸念を払拭するため、AIワーカーは、プロンプトを使わず、画面上にあるボタンやバーを調整いただくだけで生成AIを気軽にご利用いただけます。

 ――生成AI活用の敷居を下げて利便性を享受してもらおうと。

 米山 実際、ハードルは他にもいくつかあります。まず生成AIを使うと外部に情報が漏れるのではないかという不安の声もあります。これについて、AIワーカーでは、マイクロソフトを通じて、ChatGPTを利用していますので、外部流出の心配はありません。また組織内の資料の閲覧権限についても、企業様ごとにセキュリティシステムの中で部署や役職に応じた権限が設けられているはずですので、それと連動できるような仕様を考えています。

 磯野 加えてそもそも組織内のリテラシーが低いという課題に対しては、生成AIについて理解を深めていただく、リスキリングプログラムを用意しています。また導入しても使われないのではという懸念に対しては、多くの企業様で導入されているTeamsのアプリとウェブブラウザの両方で利用いただけるようにしています。これにより、通常業務から逸脱せず活用することができるため、多くの社員様にご活用いただけます。

 ――生成AIの活用を促すためのあの手この手の施策が満載ということですね。

 米山 はい。サービスの立ち上げに先立ち、現在は希望する企業様にサービスの先行案内をさせていただいております。サービス内容のご説明はもちろん、お困りごとをお聞かせいただき、それを解決できる個別ワークの開発にも繋げていきたいと考えています。ぜひお気軽にお声がけください。

米山 結人 /Yuto Yoneyama
株式会社AI Shift 代表取締役社長
2016年新卒でサイバーエージェントに入社。同年、11月にAI関連グループ会社の取締役に就任。チャットボット事業の立ち上げ、セールス、カスタマーサクセスなど、主にビジネスサイドを担当。19年8月に株式会社AI Shiftを設立し、代表取締役社長に就任。ボイスボット事業を立ち上げ、様々な業界に提供。現在は、コールセンターのDXだけでなく、あらゆる企業の「AIの民主化」を目指し、生成AIを活用した業務改善を推進。

磯野 伶央 /Leo Isono
株式会社AI Shift 生成AIビジネス事業部 全体責任者
2017年に新卒でサイバーエージェントに入社。インターネット広告事業本部でプランナーとして従事。19年、マネージャーに昇格し、部門や子会社の立ち上げを経験。23年4月より株式会社AI Shiftへ異動し、セールスを経て、生成AIビジネス事業部の全体責任者に就任。現在は、これまでのプランニング経験を強みに、各企業における、生成AIの活用戦略から運用までを支援している。