北川村の地域活性化でタッグを組む

 池野 今日私もね、ウテナの田頭社長はよく知っている人なので、対談大変楽しみにしてきました。ウテナさんは大変長い歴史のある会社で、その歴史にも非常に関心を持っていますし、高知県北川村の地域創生でもご一緒させていただいているんです。

 田頭 池野会長がおっしゃる北川村の取り組みは、2014年頃のことになりますが、柚子の国産原料を探していたところ、当時高知県知事であった尾﨑(正直)さんが来社されて、北川村の柚子をご紹介いただいたことが始まりです。柚子は葉も皮も実もすべて使えるんですが、北川村では種からオイルを抽出する技術がなくて、柚子の絞り汁を抽出した後に出る大量の種を廃棄していたんです。ウテナが協力することで、この希少な種を生かした高品質なオイルの抽出が可能になり、当社で販売するようになりました。ここから過疎の村に協力する支援活動はできないかと、「素材の有効活用」「生産地支援」に乗り出したのです。新たに柚子農家を目指す人の就農支援や売り上げの一部を苗木の寄付に充てたり、収穫時の人手不足対応など。ウエルシアさんにご参加いただくようになったのは2020年からでしたね。

 池野 過疎の村を手助けするということには非常に関心があったので、じゃあ柚子取りに参加させていただこうよと、ボランティアを派遣したところ、参加した人は来年も行きますよ、次は誰々を連れて行っていいですかみたいな話が結構あって。社員の意識はこういう活動に直接参加することで変わるんだということを非常に強く感じたんです。そういう輪が広がっていけば、商品開発とか地域活性でウテナさんともっと連携できるのではないかということで、「柚子のサイダーを作るのはどうだ」って言ったら結構いいのができたんです。メーカーが関心を持っていることに小売りがつながっていくと、意外に大きな輪ができていく。過疎の村は北川村だけでなく日本の至る所にある。メーカーと小売りが一緒になって手助けできることは色々ありますよね。

 田頭 全くです。商品開発では、地元の中学生にも参加してもらい、アイデア出しやデザイン作りをやっている。ウエルシアグループのよどやさんの店舗を一緒に見学して、売り場作りのポイントやPOP作りと社会体験の機会も設けています。昨年の11月3日で2回目になりますが、東京・有楽町の交通会館で、柚子を使った商品の即売会を地元中学生と一緒にやりました。こうした活動を通じて自分の村の柚子に誇りや愛着を持ってもらって、やがて村に帰ってきてもらう。これも過疎地対策の一つですよね。こうしたつながりから一昨年(22年)5月、北川村、ウエルシアグループ、ウテナ3者による「包括連携協定」が結ばれています。

 池野 北川村に出店してくれないかという話がありまして、その気持ちはあったんです。でも実際現地に行ってみると、そこに住んでいる「お猿さん」もお客になって来てくれないと商売にならない。出店は無理だよねとなって。でもそれで終わりじゃなくて、移動販売でもいいんじゃないかと。ただ移動販売もパンやお米を届けるだけじゃなくて、そこで暮らす人たちがゆとりある気持ちになれるものを運ぶのが大事なんだろうなと。北川村の柚子の油で作ったヘアオイル、ハンドクリームを届けるとか。もう一点はヘルスケアですね。過疎であっても疾病に対して最低限のフォローができるようにと。でも実際に車を走らせたら結構山が深くて、現地では電波が届かない場所もあるほどで。

 田頭 モノの販売だけでない地域の活性化への取り組みを進めているんですね。

 池野  大きなモニターを用意して、薬剤師はもちろん、管理栄養士にもつながる。こういう業務は行政も一緒にやるべきと考えていますから、道路に大きな穴が開いていたらそれを知らせるために、行政の総務課にもつながるようにしています。今は無理ですが、いずれはお医者さんにもつながるように必ずやっていこうよと。そこに住んでいる人に住みよい商品や情報を届けることは商人の仕事だろうと思っています。もう一つ、高齢社会、過疎化で大事なことは、コミュニケーションの場の提供。コミュニケーションが取れないと一気に老ける。移動販売も各戸を回るのでなく近場に止めて出てきてもらう。外に出るから口紅着けようか、パジャマを脱いで外出着を着て外に出て、色々おしゃべりする。これがいいんです。

 田頭 順天堂大学医学部の堀江(重郎)先生が、だべることが寿命を延ばすという話をされていて、余命3カ月と言われた方が3年以上寿命が延びたとか。だべることは人間にとって大事なことだとお話されたことがすごく印象に残っています。

 池野 移動販売で難しいのは人の用意。薬剤師の人件費が高いからそれに見合う売り上げを上げなければいけない。でも今ではなくこれからここに大きな価値が生まれてくることを考えようと言っています。うえたん号と呼んでいる移動販売車は、昨年末10カ所で動いている。期待はされているんで、今年は30台ぐらい動かす予定です。

池野隆光会長

企業の使命は売り上げ利益だけではない

 田頭 今はどこの会社も社会貢献を口にします。ウテナは27年に100周年を迎えますが、創業当時から社会貢献の考え方をしっかり持っていた会社で、起業時の「真心をもって、社会に貢献し、人々の満足を喜びとする」という企業理念にもそれは表れています。社名の「ウテナ」は、花のガクの意味で、漢字で「台」の字を当てますが、ガクは花びらの陰に隠れた目立たない存在。ですが、美しい花を咲かせるためになくてはならないもの。美しいものを支える土台になりたい、すべての人の美しさの支えになりたい、社名にも創業時の思いが込められています。

 池野 戦時中も大丈夫だったんですか。よくカタカナ文字を使うのは止めるようにみたいなことは。

 田頭 ずうっとウテナでしたね。戦時中は満州にも進出しておりまして、創業者が製薬業もやりたいと満州ウテナ製薬株式会社を作りました。ただ最後はソビエト軍に機械からなにから全部持っていかれて。でもその時も現地で働いている人たち、一人ひとりに生活が成り立つようにと退職金を手厚く支払ったという記録が残っています。

 池野 素晴らしいことですよね。

 田頭 実は私の前任の社長は銀行から来られた方で、ウテナの元来の考え方とはちょっと違った。コロナの時はいろんなことに手を出して、社内が混乱したこともあったんです。21年4月に社長になって思ったのは、やはり会社の歴史をよく知ること、我々のDNAは何なのか、ドメイン、使命は何なのか。本業をしっかりやる。本業を真面目にやれば、そんなに負ける戦はないのかなと思っております。ヒューマンケア商品にこだわってやっているのはそういうことなんですね。私どもは不特定多数の人を相手にするんじゃなくて、社内でも言っているんですが、10人の方がいらしたら1人、2人の熱狂的なファンを作りたい。そのお客様に喜んでいただけるものを作りたい。それで何とか100年近くやっている会社です。

 池野 今の田頭社長の話は非常に重くて、うちはM&Aで大きくなった会社ですから、傘下入りした会社の考え方が違うことが結構多いんですね。考え方を変えたくない人も入ってくる。そういう人たちにうちはドラッグストアとして何をやりたいかをきちんと伝えていかなければいけない。お客様の健康のため、きれいになっていただくため、それがしっかりしていないと会社がおかしくなってしまう。

 田頭 調剤併設や24時間営業店は、ウエルシアのドラッグストアとしての在り方を示すものですね。

 池野 ウエルシアグループで調剤併設は75%。ウエルシア薬局で85%。ウエルシアのマークが付いた店は大体調剤やっていると思われるようになりました。24時間営業はちょっと思いが違って、とにかく救急車の出動を減らしたい。最近はゴキブリ出たって救急車呼ぶ人がいるから(笑い)。なるべく救急車のそばにある店を24時間にして、救急車が減るかどうかやってみろと。夜中に子どもが熱を出して困る親御さんもいるわけですし。大体10店に1店くらい24時間店にして、今24時間店は300店くらいです。

 田頭 24時間営業となるとやはり非常に人件費のコストがかかる。AEDも全店設置されていますが、こちらも維持費がかかりますよね。

 池野 バッテリーを5年ごとに交換しなければいけないから、これが20万円くらいかかります。2000店超を順繰りに変えるから結構大変。でもうちは講習会をやっていますから従業員はAEDが誰でも使える。大体年間20件くらい使ってますね。何かあって倒れても8分の間に手当てすれば大丈夫。だから倒れる時はウエルシアのそばで倒れてください。社員がAEDを持ってすっ飛んでいきますから(笑い)。

 田頭 それは頼もしい(笑い)。

 池野 AEDもそうだし、トイレのオストメイトもそうなんだけど、それを設置する前の会社の雰囲気は、売り上げもよく、出店もしているのに何か今一つピリッとしない。どこか弱さのようなものが感じられたことがあったんです。それを変えるのはマニュアルとか言葉ではなく、自分たちが外部とつながりがあるんだという強い気持ち。それがないと社員は良くなっていかない。で、最初に取り組んだのが認知症サポーター。釣銭を間違えたり、目薬ばかり買って冷蔵庫が目薬だらけという方もいらっしゃる。それを未然に防いであげようと。AEDもオストメイトもこの流れの中にあります。

 田頭 私どもの会社は、大手さんのように社員数が多いわけではないので、1人が何役もこなさなければいけない。ですからうちでは、少数精鋭でなく「少数こそ精鋭」と言っているんです。イギリスの政治学者パーキンソンの第一法則では、「仕事の量は完成のために与えられた時間すべてを満たすまで膨張する」と言っている。要はいたずらに人を増やしても効率化しないということです。我々は少数だから知恵やスキルが磨かれて、効率的で多能化されていく。でもそういった意味では、身の丈を知った上でやるべきことをやっている。僕が老子の言葉で好きなのは「足るを知る者は富む」。無理をせずに少しずつ成長して、北川村のような社会還元もしっかりやって、社員が働くことに誇りを持てるような会社にしていきたいですね。

 池野 そういうものがないと、社員は、ある期間だけ働けばいい、目先の仕事だけやればいいになってしまう。おっしゃるように企業の使命は、売り上げ、利益だけではないと思いますよ。

 田頭 SDGsでは、経済、社会、環境の三つの価値の観点から取り組みを進めています。経済的価値を優先すると残る二つの価値の実現が難しくなってしまうのですが、社会的にも経済的にも価値あることをやろうとして行き着いたのが返品問題。企業は結構ゴミを出すんですが、実はその中でも返品は、環境にも大きな負荷を与えている。容器のプラスチックや瓶、中身もそう。お客様の手に触れずに返ってきた商品は全部廃棄しなければならない。つまり返品の削減は、経済、社会、環境三つの価値を実現する。それで10年前から取り組んでいるのが売れないものは売らない。お客様が良いと思って買ってくださるものを開発、製造して、いつでもどこでも買えるようにしていく。結果、直近で返品率は0.7%にまで減りました。一番多い時は10%ぐらいありましたから。

 池野 それはすごいね。ドラッグストアは季節品を扱うから返品OKの風潮があって、それじゃいけないと、業界としても、ウエルシアとしても、コロナ前から返品削減に取り組み随分減らしましたが、中々そこまでは。

 田頭 経営的にも非常に有効で、返品は原価に戻すから、原価が上がってしまうのですが、うちは上がらない。だからよそのメーカーさんは値上げをしても、うちはまだ1品も値上げしていないんです。売れる商品を値上げせずに売っているから既存品がどんどん売れていく。お得意先にも喜ばれるのは、売り上げのアップダウンがなく、しかもじわじわ伸びていくこと。我々の規模で身の丈に合った無理のないSDGsです。

 池野 今ペットボトルの回収をお店でやっているんですね。相当回収しているんですけれど、CO2削減効果は木に換算すると2000本くらいだそうで。一山何万本の効果を期待するからがっくりくるわけです。このペットボトルを汚れたまま持ってくる人もいて、お店はこれをきれいに洗わなきゃいけない。大変だからやらないではなく、こちらできれいにすれば、次は悪いなと思ってきれいにして持ってきてくれる。受け取る側がきちんとしていれば良いお客さんが集まってくれるという話をして、回収を止めることはしないよとやっているんです。きれいにするということではトイレのオストメイトもそうですね。オストメイトだからではなく、社員も使って、いつ誰が使ってもきれいな状態にしておくのが大事なんだと言っている。

 田頭 SDGsと大上段に構えるのでなく、できること、わかりやすいことからやろうよと、最初「ゴミ」をキーワードにしていたんです。例えば水も使い過ぎれば排水というゴミになる。コピーも使い過ぎれば紙のゴミ。うちは小さなユニットで採算性を取っているんですが、そこで毎月目標を立て、無駄をなくすことに取り組むようになった。結果的にSDGsにつながることになっているのかなと思っています。

 池野 ウテナさんの捨てていた柚子の種の活用はすごく感心して、そういうものはたくさんあるのではないかと思っていて。実は静岡県の島田市とも包括連携協定を結んでいるんです。中山間地区にうえたん号も走らせている。静岡県だからお茶の産地。その茶葉を大きな釜でガラガラ回すと摘んだところの樹液が釜にくっつく。それを剥ぎ取って牛の餌に混ぜると牛は餌を食べなくなるは、畑に撒くと作物の実りが悪くなるはで、全部捨てていたんですね。それで柚子の種の話を参考にして、樹液を入れたチョコレートやアイスクリームを作った。環境を汚しているものもうまく使えば新しい商品に生まれ変わる。大事な視点だと思いますね。

田頭基明社長

「地の利は人の和に如かず」は言い得て妙

 田頭 20年も前のことでしょうか、CMですごく当たった商品があって、売り上げが急速に伸びたんです。でもブームが去ると売り上げは下がりますよね。しかも下がり始めると中々止まらない。その時実感したのが売り上げの成長速度が人材の成長速度を超えた時に企業は必ず衰退するということです。それから人材の成長をキーワードにやってきました。今年度も中期計画の一つに「新しい失敗に挑戦する組織になる」を挙げているんです。失敗を恐れて挑戦しないと新しいものが生まれない。失敗してもいいからやりたいことをどんどんやっていこうよと。そうすると「何をやるか」で新しいつながりができて、お互いが刺激し合って、色んな意味での活性化も生まれてくる。人から言われて動くのでなく、自分で行動し学ぶ風潮も出てきました。

 池野 私たちはお店が仕事場です。本部はお店のサポート役。本来そうでなければいけないんだけど、本部から店に直接指示する。現場を知らない人が店へ指示するケースが多くなっているんです。元現場にいた人だって3年も経てば、店のことも商品のこともわかりません。そういう人が指示を出すと往々にして間違ったメッセージになってしまう。そうすると、「指示を徹底できない店が悪い」となって、本部と店だけでなく、お店の雰囲気も悪くなる。強いお店は「人の和」が良好であるところ。会社もそう。M&Aでいろんな会社が入ってきたって、人の和がしっかりしていれば必ず成長する。人材育成も人の和があってこそ。「地の利は人の和に如かず」は、言い得て妙の格言です。

 田頭 会長とお店を回ったことがありますが、パートさんに人気がありますよね。

 池野 パートさんと話をしないと現場のことはわからないからね。会社でもゴミ箱を掃除してくれるパートのおばさんがいるんです。社内のゴミの出し方はどうかよく聞くんですが、自分のうちじゃないからか分別をちゃんとやらない人もいるという。社員には、家庭でもこうなのかとよく叱るんです。だいぶ良くなりましたが、うちの従業員みんながそれを意識して、ゴミを出さない。出すんならきれいに出す。そうなったら世の中1ミリぐらい動くかなと。これが持続可能な取り組みかどうかはともかく、自分たちの目の前にあってできることを、もっと広げていく必要はありますね。

 田頭 サステナブルから一歩進んでリジェネラティブ、再生ということが言われ始めました。手前みそになりますが、私どもとウエルシアさんがやっている柚子の再生活動はまさにそういうことかなと。こうして池野会長とご一緒に取り組めていることは素晴らしい体験ですし、ごく自然なサステナブルな活動であったり、リジェネラティブにつながっていけばいいなと思っています。

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