電子、化学、建材企業、物流企業との共同輸送を増やす

「物流危機」がコロナ下でも止まらない。運送業に関わる年代別就業者構成比の7割以上は40~60代が占め高齢化は一段と深刻化しており、特にドライバーが敬遠する長距離輸送は人手不足が5年後に一段と加速する予測だ。また長距離輸送は空車回送が多く、トラックの積載効率は4割と非常に低いことから長距離を中心に物流費が高騰したまま推移している。

 こうした課題に対し、日本パレットレンタル(JPR)ではAI技術を使った荷主同士の異業種企業間で連携できる共同幹線輸送「共同輸送マッチングサービス」を推進している。このサービスはホワイト物流を実現するためJPRと群馬大学、明治大学の産学協同の取り組みで、経済産業省の外部機関である国立研究開発法人新エネルギー.産業技術総合開発機構(NEDO)に採択された。昨年11月からスタートし2022年2月末まで助成期間として進化させ、JPRでは22年3月以降に正式版の運用を開始する予定だ。事業企画部 輸送マッチング推進グループの渡邉安彦グループ長は、「従来の荷主とドライバーを結ぶ求貨求車とは異なり、業界を跨いだ荷主同士の輸配送のマッチングサービスは新たな取り組みとなります。当社が保有する膨大な物流データに、お客様のルートデータも加え、AIを使ったマッチングシステムも成長させ、サービス基盤を強固にして事業展開を広げたい」と意気込みを語る。

 今回、JPRでは従来の取引先間での最適化を図るだけでなく、既存取引の有無にかかわらず、空車区間の積荷を探している物流企業や電子、化学、建材などの企業とのマッチングを進めている。例えば、東北や九州など地方に工場が多い企業と東名阪近隣に工場の多い企業をマッチングするなど、全国で多種多様なルートでの共同輸送を飛躍的に広げる計画だ。営業一部の五十嵐誠部長は、「荷主様は、とにかく長期的に安定して運べることに関心が高いので、共同長距離幹線輸送のニーズがより高まっています」と指摘する。

日本パレットレンタル 事業企画部 輸送マッチング推進グループの渡邉安彦グループ長
同 営業一部の五十嵐誠部長

様々なルートパターンの計算機能などを随時追加

 JPRが取りまとめた共同幹線輸送は、実は18年から展開されてきた。フェリーとトラックを使った例としては、すでにキユーピーとライオン、キユーピーとサンスターなどに、それぞれJPRを加えた異業種3社による共同輸送を実施。一部は混載での輸送も行っている。共同輸送では、タイムスケジュールも決まっていることから、年末年始など繁忙期でも価格の高い求貨求車を探さなくても安定的に商品が届く物流網を構築。実車率は9割を超え、ドライバーの確保や物流コスト上昇の抑制につながっている。この取り組みが国土交通省に評価され、グリーン物流パートナーシップ優良事業者表彰で国土交通大臣表彰も受賞した。ただし、この共同輸送マッチングは人的に行っていたことから、今回さらに進化させAIによる幅広い荷主の共同輸送の機会を迅速に創出する共同輸送マッチングサービスを今年7月からトライアル運用している。

 荷主は簡単に同サービスからマッチング相手を探せる仕様だ(画面例参照)。画面の流れでは、①ルート情報登録、②「帰り便を探す」、「混載荷を探す」から選択、③発着地設定、④積荷設定(車両、温度帯、商品特性、混載不可カテゴリー)、⑤運行・輸送設定をそれぞれ登録。中でも④積荷設定では、荷物への「香り移り」の不可やライバル企業など、最初からマッチングされたくない相手や商品を外すこともできる。このデータをもとに数万あるマッチング先からAIが推奨する100のマッチング先を選定。現在の運賃と比較した想定費用(国土交通省発表の標準的な運賃タリフ参考に試算)や運行本数の年間季節波動グラフを一目で確認できる。その中からマッチング先を「いいね」で選定するとマッチング先に通知が送信され、お互いの承諾後に実際に企業名も分かり顔合わせとなる。そこでJPRと一緒に運行スケジュール調整、車両割当、テスト運行などを行う段階に移る仕組みだ。

 JPRでは来年以降も輸送課題を解決する様々なルートパターンを計算するAIモデルを追加予定だ。各種機能を随時追加するとともに、追加要件を調整してシステムに反映。22年3月以降に商用版として正式リリースする予定だ。すでにトライアル運用数カ月で約20社が参画しており、来年にはさらに数十社が加わるという。「利用者が増えるほどルートデータも増え、今後さらに最適なマッチングシステムに成長していきます」(渡邉グループ長)。

 JPRは、同サービスでは消費財メーカーにとどまらず取引先を広げていく。また、取引先グループ内での限定利用などのオプション機能も充実させ、5年後を目途に新たな事業としての確立を目指している。同社は、共同輸送マッチングサービスをステップに、さらに幅広い物流領域の効率化を手掛ける企業へと進化していく。