北東北3県に展開するスーパーのユニバースはPreferred Networks(以下、PFN)の品出し効率化ソリューション「MiseMise品出し」を導入し、店舗運営の生産性向上を図っている。その効果について、ユニバース店舗運営本部店舗支援部門の小泉徳彦部門長(冒頭写真左)と、PFNデータサイエンティストの山川要一氏(同右)に話を聞いた。
無駄な探索時間をなくし、部門間の縦割りも解消
ユニバースが省力化に取り組む中で導入したのが、PFNが開発した「MiseMise品出し」だ。バックルームの商品位置を瞬時に把握し、誰でも簡単に在庫を探せるシステムである。
仕組みはシンプルだ。納入された商品台車に住所を登録し、売り場の欠品商品や棚札のバーコードをハンディターミナルでスキャンする。すると、在庫位置と最適なピックアップ順を提案してくれる。操作が直感的なため、経験や商品知識がなくても迅速なピッキングが可能だ。
ユニバースでは2023年11月に下長店(青森県八戸市)で導入を開始。24年5月からは中野店(岩手県盛岡市)にも拡大している。

小泉部門長は効果を実感している。「補充は店舗で最も時間のかかる業務。営業中の補充は不慣れな従業員には困難だが、『MiseMise品出し』により作業時間が短縮され、無駄な探索時間が完全になくなった」
MiseMiseのコンセプトは「入社1日で誰もがベテランになれる」。品出し初体験の記者も、その利便性を実感した。品切れしている3品の商品名やサイズ、フレーバーなどをメモするだけで2分半、そのメモを見ながらバックルームで1品を探すのに6分半の計9分かかったが、「MiseMise品出し」を利用すると同様の作業が合計5分に縮まった。
品出しのスピードアップに加え、小泉部門長は部門間の縦割り解消効果も強調する。
「これまでは担当領域の商品のみ補充していたが、誰でも簡単に補充できるようになったことで部門の垣根を越えた連帯感が生まれた。担当外の商品でも在庫の有無がその場でわかるため、お客様からの質問にも自信を持って対応できる」

PFNの山川氏は「縦割りでは飲料が2本売れたのを見て2本だけ補充しに行くといったことも起こりがちだが、その時間、別の売り場で生産性を上げた方がトータルではプラスになる。属人化しがちな品出し作業を標準化することで、店舗全体の生産性向上を目指した」と開発の意図を語る。
データ化でバックルームの在庫を削減
MiseMiseの効果はこれだけではない。真骨頂は、品出し作業から収集するデータを活用した広範な店舗業務の改善だ。
MiseMiseのシステムは「誰が」「いつ」「何を」「何個」補充したかの情報を蓄積し、バックルーム在庫の動きもデータ化する。これにより「1日に2~3回も追加補充している定番商品が意外に多い」などの改善点が、感覚ではなく数字で裏付けされる。売り場のフェースを拡大して補充回数を減らし、棚割や改装店舗のゴンドラ設計にも活かしている。
バックルームの改善も顕著だ。よく動く在庫とそうでない在庫を数値で把握できるようになったことで、レイアウトを最適化した。売れ数の多い飲料在庫の台車は売り場との出入り口近くに、動きの少ない加工食品の台車は端に配置するなど全体配置を見直している。スペースに余裕ができたことで補充頻度の高い商品台車は見えやすく横向きにするなどの工夫もでき、約300kgの台車を1台ずつ引き出して確認する必要もなくなった。


小泉部門長は作業効率の変化を語る。「以前はバックルームに在庫を載せた台車がギュウギュウに詰まっていたが、今は整然としていて床が見えるようになった。また、以前は少しでも商品を探しやすくするために例えばお茶はお茶で同じ台車に積み直していたが、この片付け作業も必要なくなった」
また、導入を機に1週間動いていない在庫を「滞留在庫」としてリスト化。小泉部門長は「定番売り場がなかったため滞留在庫化しているケースもあった。データをチェックしながら、次回チラシ向け発注数量の調整や、より目立つ場所への陳列変更などで、滞留する要素を潰していった」と語る。
結果は劇的だった。最初に導入した下長店では2カ月で30%の在庫削減を実現。ノウハウを得た2店舗目の中野店では同期間で50%削減を達成した。現在は週1回、滞留在庫レポートが店舗へ自動送信され、特売実績と連携することで売れ残り理由も1目でわかる仕組みを構築している。
これらの積み重ねで、補充業務に関して1日平均5時間の削減を実現した。
小泉部門長は「今まで一口に『補充』と言っていたが、リスト作成、歩く、探す、といった周辺業務が効率化された。その分、従業員がやりがいを持って生き生き働ける環境づくりにも力を入れる」と強調する。

店舗横断でのデータ分析により重点サポートを実現
ユニバースが導入を決めた理由は、このデータ活用の可能性にあった。
小泉部門長は振り返る。「最初の提案時、品出し業務の改善も興味深かったが、定量化できていないデータを今後の店舗運営に活かせると直感した」
以前はソーシャルゲームの開発者だった山川氏がそれに応えた。「MiseMiseでは作業ログが残るため、作業割当との乖離を検証できる。ソシャゲの世界ではユーザーがどこで離脱したかなどのデータにプロダクト改善の示唆が隠れている。データ分析の部分に最初から注目していただいたことは印象的だった」
小泉部門長は開発姿勢を評価する。「見たいデータも機能も数多くリクエストを出しているが、対応は常に非常にスピーディー。多箇所陳列の登録もすぐに実装していただいた」
山川氏も手応えを得ている。「実際に現場で作業を教えてもらい、やってみると、そもそも出したい在庫が見つからない。一緒になって課題を見つけ、どうすればユニバースさんの中でデータ活用が進むのかを追求してPDCAを繰り返した」
これまで経験や勘による感覚的な作業になりがちだった品出しに理論的な裏付けを与えてサポートしている。
すでに満足のいく効果を得ているユニバースだが、課題も明確だ。「捻出できた人時をいかにお客様貢献に振り向けるか。データをいかに有効活用し、さらなる改善につなげるかが今後の課題」と小泉部門長は考えている。また、今後は導入店舗の拡大も視野に入れており、PFNも全面サポートの構えだ。
山川氏は将来性を語る。「導入店舗が増えれば、本部が現場に行かなくても遠隔で複数店舗のデータを横断分析できる。手厚いサポートが必要な店舗を洗い出し、重点的に支援することで効率的な店舗運営を実現する」
人手不足が小売業全般の課題となる中、PFNの「MiseMise品出し」へのニーズは今後さらに高まりそうだ。