ドイツの大手食品卸売企業メトロAGは4月16日、フランクフルト証券取引所から上場廃止となった。
メトロの普通株式および優先株式は、フランクフルト取引所の「プライム・スタンダード」区分を含むすべての市場で取引対象から除外された。今後ベルリン証券取引所など他の取引所でのオープン・マーケットでの取り扱いも順次終了していく見通し。
筆頭株主が公開買い付け
この上場廃止は、メトロ株の約半数(49.99%)を保有する筆頭株主EPグローバル・コマース(EPGC)による公開買い付けと、それに伴う上場廃止申請の流れに沿って行われた。EPGCはチェコの実業家ダニエル・クレティンスキー氏が率いる投資会社であり、今年2月5日にメトロと「上場廃止合意書」を締結した。
これにより、EPGCはすべての株主に対して1株あたり5.33ユーロの価格で公開買い付けを実施。同価格は、過去3カ月から半年の出来高加重平均株価や市場価格と比べ大幅なプレミアムがついていた。
メトロの取締役会および監査役会は、EPGCの提示価格について「sCore戦略」と呼ばれる自社の中長期戦略に鑑みて、その成長ポテンシャルを完全には織り込んでいないとする見解を示したものの、市場価格や将来の市場環境の変動リスクも勘案して、買い付けに対しては「中立的立場をとる」とする声明を発表した。
取締役会および監査役会は、EPGCの買収意図、今後の経営体制維持、本社機能の存続、労働協約の尊重といった要素を検討したうえで、上場廃止そのものはメトロの長期的利益に資する可能性が高いと結論づけた。そのうえで、価格そのものが長期企業価値を十分に表現しているとは認め難いため、賛否いずれかに明確に傾くことは避けた。こうした中立的見解は、特に短期志向またはリスク回避型の株主にとって、今回の価格が市場からの「計画的撤退」の機会になり得る一方で、将来的な企業価値成長に賭ける株主にとっては慎重な判断を促すものであった。
非上場化でリストラを加速
2月5日にメトロとEPGCの間で締結された上場廃止合意書では、メトロ経営陣の継続、従業員関連の権利保護、本社のデュッセルドルフ維持などが規定されている。さらにEPGCは18カ月間にわたり「支配契約(Domination Agreement)」を締結しないと明記しており、買収後の急激な経営支配やガバナンス変更を行わない方針を明確にしている。経営の独立性を一定程度保証することで、従業員や既存株主に対する一定の安心材料となったとみられる。
メトロの他の主要株主3社―BCエクイティーズ、バイザイム・ホールディング、パラティン・フェアヴァルトゥングス―は、EPGCの上場廃止提案に理解を示しつつも、いずれも「ノンテンダー契約」を締結し、買い付けには応じない方針を採った。3社の保有比率は計約24.99%に達しており、今後の経営に対して一定の影響力を保持し続けることになる。
上場廃止でメトロは財務開示義務、資本市場向け情報開示義務の一部から解放された。短期的な株価変動や四半期ごとの報告義務から自由となり、中長期視点から「sCore戦略」の遂行に注力できるようになった。財務面・法務面・運営面の間接コストも削減され、より柔軟な経営判断が可能になる。
メトロは現在、30カ国以上で事業を展開し、世界中に約8万5000人の従業員を抱える。2023年度の売上高は310億ユーロに達し、ホテル・レストラン・ケータリング事業者(HoReCa)や独立系小売業者を対象とする食品卸売分野で世界的な存在感を有している。