2020年は新型コロナウイルス一色で終わった。3月の全国の小中高一斉休校に始まり、4月の緊急事態宣言発令などで事実上外出が制限された状態となった。オフィス街はテレワークで閑散とし、都心部に出かける人が激減。駅前立地のコンビニは客数減に見舞われ、百貨店は休業を余儀なくされた。一方で、食品スーパー(SM)は巣ごもり需要による特需で活況を呈するなど業種によって明暗が大きく分かれた。12月以降再び感染が拡大し、21年も収束の目処は立っていない。今後消費マインドが減退し、節約志向が高まるという見通しもある。各社のトップはこの現状をどう分析し、乗り切るのか。20社(日本生協連含む)にアンケートで聞いた。

(アンケート表はクリックして拡大できます)

【問1】21年の見通しについて、「横ばい」は7社、「下向き」は9社が回答した。「横ばい」を選択した企業でも「消費マインドは引き続き低調に推移する」(フジ・山口普社長)と厳しい見方を示す。「下向き」を選んだトップからは新型コロナの収束の見通しが立たないことや消費が後退する懸念を示す声が多い。「先行きを見通すことは困難だが、景気が上向くことはない」(ライフコーポレーション・岩崎高治社長)、「節約志向が高まって個人消費はやや下向きになる」(アークス・横山清社長)、「景気低迷の長期化、雇用環境の悪化、所得低下の広がりなどにより基調としては下向き」(日本生協連・本田英一会長)と悲観的だ。

 一方、「上向き」と回答した企業は、昨年よりも3社多い4社。イトーヨーカ堂の三枝富博社長は、「ワクチン接種などの効果で新型コロナウイルスの感染拡大収束とともに経済活動が活発になる」、セブンイレブン・ジャパンの永松文彦社長も「収束に期待」とワクチン開発に期待を寄せている。

【問2】は商品戦略について聞いた。NBの価格を、20社中15社が「従来通り」にすると回答。昨年「さらに安くする」と回答したのは1社だけだったが、今年はカスミ、いなげや、アクシアルリテイリングの3社が選択している。小売り側からメーカーに期待することとして、「安全・安心な商品品質と安定的な供給」、「ヒット商品の開発」のほか、「環境保全やフェアトレードなどを意識した、持続可能な社会づくりに貢献できるようなもの」など、消費者の間でも関心が高まっているSDGsを意識した要望も寄せられている。

 PBの価格については、「さらに安くする」がフジ1社で、ほかはすべて「従来通り」と回答。品目数については昨年と同じ11社が「さらに増やす」を選択し、PB開発に積極的な姿勢を示している。強化カテゴリーはPBがないサミットを除く全社が食品を挙げた。「衣料品」は昨年より2社減の6社となったほか、「日用品・住居関連」は昨年並みの11社となった。強化ラインは、15社が高品質を重視している。PBの売上構成比については、「高める」と回答した企業が半数を上回った。同業に加え、異業態との競争が激化し、人件費などの高騰も続く。そうした中、独自商品の開発で競合と差別化を図りつつ、利益もきちんと稼ぎたいとの思惑がありそうだ。

 さらにウィズコロナで変わった戦略についても聞いた。新型コロナで品薄となったマスクや消毒液など衛生用品の強化や、巣ごもりによる内食需要の急増、特にさらに運動不足による健康意識の高まりに対応した品揃え強化の回答が目立った。イオンの吉田昭夫社長は、「非対面非接触ニーズにお応えする『ネットスーパー』や『セルフスキャン』による新しい買い物スタイルの提案などを実施」と回答し、感染防止を目的に、安心安全な販売手段に取り組む考えを示している。サミットの服部哲也社長は、「自社PBはないが、PBと位置づけるAJSグループの『くらし良好』商品の強化に主体的に取り組む」と回答している。

 一方、既存店売上高の前年割れが続いているコンビニ各社は、セブンイレブンの永松社長が、「1店舗でまとめ買いをするお客様が増えるなど、お店の使われ方が大きく変化した。変化にあわせて商品・品揃えも見直している」と回答。ファミリーマートの澤田貴司社長は、「惣菜や冷食、日配品、菓子・加工食品など『日常使い商品』の拡充を図り、お客様の消費動向の変化に柔軟に対応していく」、ローソンの竹増貞信社長も「緊急購買から日常使いの需要に応えるため、生鮮、日配、冷食、酒類などの品揃えを強化した」とコロナの影響による変化対応を掲げている。

【問3】は19年から急速に普及が拡大したキャッシュレス決済について聞いた。19年10月の消費増税に合わせて、消費下支えを目的に導入されたキャッシュレスポイント還元事業が期間限定だったこともあり、当初は昨年6月の事業終了以降利用率の激減を懸念する声もあった。が、コロナ禍の非接触ニーズを受けて、むしろ上昇傾向にある。この結果、キャッシュレス決済比率はヨークベニマルの70%を筆頭に、イオン64%(グループGMS)、ライフ52%と5割を超えた企業もある。

 一方、サミットとアクシアルリテイリング(原信)30%、いなげや28%と3割程度にとどまる企業もあり、両者の差が開いている。今後については15社が「高める」と回答。目標を開示している企業ではフジ60%、マルエツ・カスミ・ファミリーマート50%、アークス40%など40%以上を掲げる企業が目立つ。QRコードやバーコードのスマホ決済がこれから対応する手段として多く挙げられており、普及がさらに進みそうだ。

【問4】はEC・デジタル戦略だ。キャッシュレス決済と同様に新型コロナでニーズが急速に高まっているEC・デジタルについて、「自社アプリの開発・機能強化」と「スマホによる1to1マーケティング」に取り組むと回答としたのはそれぞれ15社。USMHでデジタル本部長を務めるカスミの山本慎一郎社長は、この二つに「EC/ネットスーパー」を加えた3項目とも注力すると回答した上で、「デジタルサービス提供の拡充。3密や人との接触を避けた快適な購買体験を提供」、「EC、オンラインデリバリー、店頭ピックアップ機能の拡充。無人店舗&移動販売のサービス」なども掲げ、リアルとデジタルを組み合わせたサービス提供に積極的な姿勢を示している。セブンイレブンの永松社長も「ネットコンビニの拡大、セブンイレブンアプリを通じたCRM戦略(販売促進)実施」に言及。ファミリーマートの澤田社長も「金融・EC周辺事業、広告関連事業の整備・強化を引き続き推進する」と回答しており、周辺事業も組み合わせて取り組む方針だ。

【問5】は異業種との競争についてどう考えているのか、GMS・SM、コンビニ各社にそれぞれ聞いた。「脅威とみる異業種」については、GMS・SMでもっとも多く挙がったのは昨年に続き「ディスカウントストア」(12社)。続いて「ドラッグストア」(10社)、「コンビニ」(8社)が挙がった。対抗手段は、「接客」と「品揃え」が同数の12社。品揃えの具体的なカテゴリーは、4社が生鮮食品やデリカを挙げている。フジとサミットは簡便、即食にも触れており、お客のニーズにきめ細やかに対応することが異業種との差別化では引き続き有力な手段となりそうだ。

「コト提案による差別化」は9社が対応。「食べ方提案、料理教室など」(ヤオコー・川野澄人社長)、「健康・時短などに対応した価値型商品、メニュー提案」(フジ・山口社長)、「メニュー提案、商品に関わるストーリー提供」(日本生協連・本田会長)などが挙がった。その他では、カスミの山本社長が、「従業員の働き方の改革。デジタルを基盤とした抜本的作業システムの変革」など、総合力の向上を掲げる。イトーヨーカ堂の三枝社長は、「食品事業の強化、集客力の高いテナント誘致」として、昨年に続き食品事業を中心に、館の魅力を高める意向を示している。

 一方、コンビニ側は4社が「ドラッグストア」、3社が「SM」を脅威と挙げている。対抗策では、3社が「接客」、「品揃えの幅」と回答。その他、ローソンの竹増社長は、「ローソングループの多様なフォーマットを生かしていく」と総合力での対抗策を挙げた。ミニストップの藤本明裕社長は「グローバルMDを進めた当社にしかない価値のあるFF商品の提供」と他社にはない強みに磨きをかける考え。ポプラの目黒俊治会長兼社長は「出店を施設内に特化」と、出店先の絞り込みを明らかにしている。

【問6】の出店戦略は表に掲げた通り。前回のアンケートで20年度の出店計画を回答したGMS・SMは8社あった。このうち計画以上の出店数となったのはフジ1社、逆に計画を下回ったのはカスミといなげやの2社だった。21年度の計画は、ヤオコー、マルエツ、カスミが前年度を上回るほかは20年度並みだ。SMにとってコロナは追い風となったものの、多くの企業は出店戦略に対して従来の姿勢をくずしていない。

 最後に【問7】の流通業界の再編について各社トップの考えを聞いた。20年はイオン北海道とマックスバリュ(MV)北海道、イオンリテール東北カンパニーとMV東北、ダイエーと光洋、イオン九州とMV九州、イオンストア九州とイオングループのGMS・SMの統合が完了。11月にはアークスが栃木のSM、オータニとの経営統合を発表している。コロナ禍で優勝劣敗がより鮮明になり、再編の機運が一層高まっている。今後増えそうな再編では「異業種との連携」がもっとも多く挙げられている。業務提携で増えそうな分野で多く挙げられたのが「システム面での連携」(13社)で、非接触ニーズで高まるキャッシュレス決済への対応やEC・デジタルの推進がシステムの連携を後押ししそうだ。次いで「物流面での連携」(12社)も多く、高止まりしている物流費の抑制につなげたい思いも透けて見える。

 自社の提携戦略では、「良い話があれば考えたい」が14社。ヨークベニマル、セコマ、ポプラ以外は前向きな姿勢だ。日本生協連の本田会長は、「社会課題解決のためには、あらゆる垣根を超えた連携や協業が必要」と指摘、セブンイレブンの永松社長も「環境は大きく変化しているため、様々な業種との連携は必要に応じて取り組む」と述べ、社会の急速な変化に対応するためにも業種を超えた連携の必要性を明らかにしている。

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