ウォルマートは10月14日、オープンAIとの戦略的パートナーシップを発表した。チャットGPT上で商品を直接購入できる新しい購買体験を提供し、AIを軸とした次世代小売の実現を目指すという。長年にわたりEコマースの主流だった「検索バー+商品リスト」という形式を根本から変える構想であり、小売の在り方そのものを転換する動きとなる可能性がある。
チャット上で完結するショッピング
今回の提携では、ウォルマートおよび会員制ストア「サムズクラブ」の顧客が、チャットGPT上で商品を選び、そのまま「インスタント・チェックアウト」機能で購入を完了できるようになる。
たとえば「今週の夕食の献立を考えて」と入力すれば、AIがレシピを提案し、必要な食材をウォルマートのカートに自動追加する。ユーザーはそのまま決済すればよく、ウォルマートが配送まで一括して処理する。
これにより、オンラインショッピングは単なる「反応型」から、顧客のニーズを先読みして提案する「予測型」へと大きく進化する。ウォルマートが掲げる新しい概念「エージェンティック・コマース」の中核をなす仕組みであり、AIが学び、計画し、予測することで、顧客が気づく前に必要な商品を提示するという。
「スパーキー」が牽引するAI戦略
ウォルマートのダグ・マクミロンCEOは「従来のECは検索バーと商品リストに頼ってきたが、今後はマルチメディアで個々に最適化され、文脈を理解する“ネイティブAI体験”へと変わる」と語る。その実現を担うのが、同社独自のAIアシスタント「スパーキー」である。
スパーキーはすでに社内業務や顧客対応の一部に導入されており、今回のオープンAIとの提携によって外部プラットフォームとの連携を強化する。チャットGPTを通じて買い物ができるようになれば、ウォルマートが長年磨いてきた「品揃え」「低価格」「配送速度」という三大強みをAIの力でさらに拡張できる。
オープンAIの共同創業者でCEOのサム・アルトマン氏は「ウォルマートとの提携で、日常の買い物をよりシンプルにできる。これはAIが人々の暮らしを支える新しい形の一例だ」とコメントした。
AIによる生産・接客・教育の効率化
ウォルマートはすでに社内のあらゆる領域でAIを導入している。ファッション製品の製造工程では、AIによるデザイン最適化により最大18週間のリードタイム短縮を実現。カスタマーサービスではAIチャットが応答精度を高め、顧客対応の解決時間を最大40%短縮したという。これにより、顧客体験を向上させながら、オペレーションコストも削減している。
また、従業員向けにはAIリテラシーの向上にも注力。オープンAIが提供する「OpenAI サーティフィケーション」の初期パートナー企業として、全社員にAI教育を推進しているほか、社内には「チャットGPTエンタープライズ」を導入し、商品説明文の生成や在庫データの要約など、実務効率化を進めている。
ウォルマートはAIを「人を置き換える道具」ではなく、「人の能力を引き出すテクノロジー」と位置づけ、“People-led, Tech-powered”(人を中心に、技術で支える)という方針を堅持している。
小売の未来は「人×AI」の融合へ
今回の提携は、AIが小売体験をどこまで再定義できるかを示す実証でもある。購買行動のすべてをAIが支援する環境が整えば、消費者の意思決定はより短時間で、より的確になる。特に日用品や食品など反復購買の領域では、AIが顧客の嗜好や在庫状況を学習し、自動的に提案・補充する仕組みが一般化するだろう。
一方で、ウォルマートは「小売の未来は人間的なつながりを機械に置き換えることではない」と強調する。AIを通じて摩擦を取り除き、日常の買い物をより簡単に、よりスマートに、より楽しくすることこそ目的だと位置づける。
AIの導入はあくまで人間中心の小売モデルを支えるものであり、その最終的な価値は「顧客とどう向き合うか」にかかっている。ウォルマートとオープンAIの提携が、人とAIが協働する新時代の小売体験の幕開けを象徴するものとなるかどうか、注目が集まる。