ウォルマートが、米国市場において大規模な商品改革に乗り出す。10月1日、米国のPB食品(写真)から合成着色料を全面的に排除し、さらに30種類以上の成分(特定の保存料、人工甘味料、脂肪代替品など)の使用を取りやめると発表した。

 対象となるのは「グレートバリュー」「マーケットサイド」「フレッシュネス・ギャランティード」「ベターグッズ」などの主要ブランドで、小売業界において過去最大級の改革と位置付けられる。

 今回の取り組みは、消費者の健康志向や透明性への関心の高まりに応えたものだ。ウォルマートの調査によると、顧客の62%が食品に対する透明性を求め、54%が実際に原材料表示を確認している。こうした傾向を背景に、同社は「安心できる原料」「シンプルで馴染みやすい成分」をキーワードに改革を進める。

 ジョン・ファーナー米国ウォルマート社長兼CEOは「顧客はより分かりやすい原料で作られた商品を望んでおり、我々はその声に応えた。合成着色料などの成分を排除することで、家族が安心して食卓に出せる食品を手頃な価格で提供し続ける」と語った。

すでに90%の商品から合成着色料排除

 ウォルマートはすでに米国PB食品の約90%で合成着色料を使わない商品を展開してきた。今回の方針は、その流れを完成させるものといえる。さらに、追加の30成分の排除を含めることで、他社との差別化を一層強める狙いがある。

 PBは利益率の高さと価格競争力で小売企業にとって重要な柱であるが、その成分基準が消費者に受け入れられなければブランド全体の信頼性が損なわれかねない。ウォルマートは消費者心理の変化を先取りすることで、食品小売りにおける主導権を維持しようとしている。

グレートバリューのペットボトル飲料

 この改革の背景には、2024年に立ち上げた新ブランド「ベターグッズ」の存在もある。同ブランドはシェフのアイデアを取り入れた品質重視型で、植物由来の商品や「特定成分不使用」を打ち出した商品を展開する。価格帯は7割の商品が5ドル未満と、低価格戦略も徹底している。今回の改革は、この「ベターグッズ」のブランドポジションを補強し、消費者に対して「安全で手頃な食品を提供する」というメッセージを一貫させる役割を担っている。

サプライヤーとの協働による改革

 改革実現に向け、ウォルマートはPBのサプライヤーと協働し、代替成分の調達や配合調整を進めている。同社は「味の劣化は許されない」と強調し、既存顧客が期待する味わいを維持しながら安全性を高めることを目標に掲げる。変更後の商品は今後数か月で順次市場に投入され、最長で2027年1月までに全ラインナップの切り替えを完了する予定だ。

 小売業界では、PBの品質向上競争が進んでいる。ターゲットの「グッド&ギャザー」やクローガーの「シンプル・トゥルース」など、競合他社も健康志向や自然派を前面に押し出したブランド戦略を展開してきた。しかし、ウォルマートほどの規模で合成着色料や添加物を排除する事例は稀であり、今回の動きは業界全体に新たな基準を設定する可能性がある。

 消費者にとっては「低価格=低品質」という固定観念が薄れつつある。むしろ、大規模小売りだからこそ大量調達によって成分改革を実現できるという図式が成り立ちつつある。ウォルマートは価格優位性に加えて「品質と透明性」を武器とすることで、PBの価値を一段と引き上げようとしている。

 また、日本の消費者も食品成分表示に敏感になりつつある。今回のような改革が米国で成功すれば、日本市場でも同様の期待が高まる可能性があるだろう。