ウォルマートが10月9日、人工知能(AI)、生成AI、拡張現実(AR)など最先端技術を活用した「アダプティブリテール」戦略を発表した。顧客一人ひとりにパーソナライズされたショッピング体験を提供し、リアル店舗やオンラインだけでなく、仮想環境にも対応した未来志向のリテールの在り方を示すものである。
ウォルマートのグローバル最高技術責任者兼最高開発責任者であるスレシュ・クマール氏は「顧客の個別ニーズに応えるため、標準的な検索バーだけでは不十分だ。顧客の好みに適応する技術が不可欠である」と語る。ウォルマートの米国内外、サムズクラブ業態も含め、全体で一貫した体験を提供するため、共通の技術基盤を開発し、迅速な展開を目指している。
生成AIとカスタマーケアチャットボットの進化
ウォルマートは、生成AI技術を強化するための独自のプラットフォーム「Wallaby」を開発した。これは、リテール特化型の大規模言語モデル(LLM)で、顧客向け体験を創造するために用いられる。Wallabyは、ウォルマートの数十年分のデータを基に訓練されており、顧客のニーズに高度に適応した応答を生成することができる。さらに、ウォルマートの基本価値に沿った自然なトーンでの対応が可能である。
この生成AI技術を応用し、AIによるカスタマーサポートアシスタントも進化している。現在、このアシスタントは顧客が誰であるかを自動的に認識し、注文の確認や返品手続きなど、顧客の要望に迅速に応じることができるようになっている。
テストの結果、顧客はスムーズで迅速なサポート体験ができたと報告しており、ウォルマートは米国外向けを含む、顧客、会員、従業員、パートナー向けの生成AIツールを多数開発中だ。
AIとARでパーソナライズされたショッピング体験を提供
ウォルマートは、顧客にパーソナライズされたショッピング体験を提供するための「コンテンツ意思決定プラットフォーム」を開発した。これは、AI技術を用いて顧客の好みを理解し、サイト上で表示するコンテンツを生成AIで予測する仕組み。ウォルマートのオンラインストアでは、顧客ごとにカスタマイズされたホームページが提供され、まるでその顧客専用の店舗に足を踏み入れたかのような体験が可能となる。
この技術はまず米国で来年末までに導入される予定であり、その後カナダやメキシコにも展開される見込み。これにより、グローバルな小売市場において、パーソナライズ化という新たなスタンダードを打ち立てる戦略だ。
没入型コマースと拡張現実がもたらす新たなリテール体験
若年層向けには、ゲームや仮想空間での買い物体験を提供するため、ARプラットフォーム「Retina」を開発した。AIや生成AI、オートメーションを駆使して数万点の3Dアセットを生成し、没入型コマースAPI(アプリケーション・プログラミング・インターフェース)を活用して仮想ソーシャル環境にウォルマートのショッピング体験を取り込むことができる。
ウォルマートは、オンラインゲーミングプラットフォーム「ロブロックス」での成功に続き、ゲームエンジン「Unity」とのアルファテストやアバター作成アプリ「ZEPETO」との連携を進めており、仮想空間でのショッピング体験を広げている。 米国内のウォルマートやサムズクラブでは、すでに10種類以上のAR体験が展開されている。今後、カナダ、メキシコ、チリにも拡張予定であり、ヘッドセットを使用して家具を視覚化するようなインタラクティブな体験も開発中である。