中国のEC大手アリババ・グループ・ホールディング(以下、アリババ)が、自動車向けスマートコックピット事業を手がけるバンマ・ネットワーク・テクノロジー(以下、バンマ)を香港証券取引所の本則市場で単独上場させる方針を正式に発表した。

 スピンオフはグローバル・オファリング方式によって実施され、香港における一般投資家向け募集と国際的な機関投資家向け募集の両方を組み合わせる形となる。アリババは上場後も30%超の株式を維持し、引き続きバンマを持分法適用会社として扱う予定だ。

スマートコックピットに特化するバンマ

 バンマは2015年に中国本土で設立され、当初から自動車関連技術に特化してきた。2020年にはアリババが自社の車載OS「アリOS」を資本注入し、一時は子会社化されたが、その後の株主構成や議決権の見直しを経て、2024年末には連結対象から外れた。現在はアリババが約44.7%を保有する関連会社という位置付けである。

 同社の強みは、自動車のデジタル化を支えるスマートコックピット分野にある。提供するソリューションは大きく三つに分けられる。

 第一に車載向けOSの開発。第二に音声認識やAIを駆使したフルスタックのエンドツーエンドソリューション。第三に車内サービスのプラットフォームで、アプリやエンターテインメント、ナビゲーションなどを統合的に提供する。自動車メーカーにとっては、デジタル車載環境の開発負担を軽減できることから、協業のメリットが大きい。

上場によって得られる効果

 アリババが今回スピンオフを決めた背景には、バンマの成長ポテンシャルを引き出すために独立性を高める必要があるとの判断がある。上場によって得られる効果は大きく分けて三つだ。

 第一に、バンマの企業価値を市場で直接評価してもらえる点である。アリババの多角的な事業の一部として埋もれていたときに比べ、投資家はバンマの業績や将来性を独立した企業として判断できる。これにより財務の透明性も増し、評価額が明確になる。

 第二に、資金調達力の向上である。上場によって株式市場や債券市場に独立してアクセスできるようになり、大規模な研究開発や事業拡張のための外部資金を確保しやすくなる。バンマのような成長分野では先行投資が欠かせず、資金調達の多様化は競争力強化に直結する。

 第三に、事業認知度とブランド力の向上である。上場企業として市場に存在感を示すことで、顧客や取引先、潜在的な提携先に対する信頼性が高まる。戦略的パートナーシップの構築や新規受注の獲得において有利に働く可能性が高い。アリババにとっても、バンマの成長が株主価値の拡大につながる構造を維持できる。

アリババ本体はECとクラウドに集中

 一方で、今回のスピンオフでは既存株主に対してバンマ株の直接配分を行わない。通常、スピンオフでは現物配当や優先割当によって株主に新会社株を与えるケースもあるが、アリババはこれを見送った。理由は二つある。

 一つは、バンマの規模がグループ全体に比べて小さいため、株主に配分しても極めて少量となり、実質的な価値が乏しい点である。もう一つは、アリババの株主の中には米国投資家が多数含まれており、米国証券法の手続きを伴うとコストや時間的負担が過大となる点だ。香港証券取引所はこうした事情を認め、株主への株式割当を義務づける規定の免除を承認している。

 バンマが独立することで、アリババ本体はECとクラウドという中核事業に集中できる。グループ全体の事業ポートフォリオが整理され、投資家にとっては事業構造が分かりやすくなる効果もある。