「とんでもない。お客様から見ればまだまだ不満なことばかり。今年の正月だっておせち料理を食べたら栗きんとんの栗がかたくてまずかったし、昨日もセブンイレブンのおでんを食べたら大根がかたかった。いまは大根が一番おいしい時期なのに」。1989年1月号の小誌インタビューで、今年3月10日、98歳で永眠したセブン&アイ・ホールディングスの伊藤雅俊名誉会長はこう答えている。当時イトーヨーカ堂は伸び盛り。自らも社長を務めていたが、「業績がいいですね」の問いに返ってきたのは、「お客様から見れば不満だらけ」の一言。この言葉に、故人の商人としての生き様が凝縮されている。

 「朝礼でハンカチを持っているか」と問われたと語るのは、すでにイトーヨーカ堂を退社した元社員だ。「とにかくお客様の前では清潔であり、誠実に接するようにと、しつけには厳しかった」と振り返る。髪型にも厳しく、両耳がきちんと見えるよう刈り上げねばならなかった。それが嫌さに折角入社できたのに逃げ出す新入社員もいたという。

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