トマトの収穫で地域との一体感を醸成

 八ヶ岳連峰の雄大な自然に囲まれたカゴメの体験型野菜テーマパーク「カゴメ野菜生活ファーム富士見」(長野県富士見町)の地域連携が一段と進化している。2019年4月、「農業」「ものづくり」「観光」の三つが一体化した施設として誕生した同施設は、消費者と直接コミュニケーションができるカゴメの情報発信拠点。隣接する八ヶ岳みらい菜園で栽培する生鮮トマト、地域で採れた野菜を使ったイタリアンレストラン、オリジナルデザインの限定品を品揃えした直営ショップのほか、トマトの様々な品種を展示した観光温室などを運営している。

 19年度は約3万4000人が来場し、翌年はコロナ禍に見舞われ客足は鈍った。だが、地元の利用者やリピーターが増えたことに加え、山梨県から静岡県を結ぶ中部横断自動車道が全面開通したことで静岡県などからの来場者も増加し、21年度は2万4000人と回復している。

 同施設が力を入れているのが、地域連携だ。例えば、八ヶ岳みらい菜園で栽培しカゴメへ出荷する加工用トマトの収穫では、地元福祉施設の高齢者や障がいを持つ人たちに収穫を委託し、農福連携を行っている。そのメリットは、参加する人たちにもある。様々な人と触れ合いながら、屋外で体を動かしてリフレッシュできる良い機会になっていることから、福祉施設関係者からも高く評価されている。カゴメ野菜生活ファームの河津佳子社長は、「地域に愛され、必要とされる存在になることを目指しています」と話す。

 また富士見小学校の児童とは、開業の年から、毎年ひまわり畑の迷路作りを一緒に行っている。およそ2万粒の種蒔きを、3年生の児童とともに行い、夏にはひまわり畑の迷路を作り、訪れる観光客の人気スポットにもなっている。21年は取り組みをさらに深め、児童たちが一緒にひまわりの種を集め、搾油し生産した限定ひまわり油をショップで仕入れて販売した。野菜生活ファームの収穫用の畑の看板を児童が制作するなど、地域との関係もより深めるものになっている。

 さらに富士見高校園芸科の生徒が栽培したトマトなどの野菜を直営ショップで販売。同校のトマトは、国際管理基準「グローバルGAP」認証を取得し、昨年開催された東京5輪の選手村への提供が実現した。河津社長は「富士見高校の野菜を目当てに訪れる来場者も多く、野菜生活ファームには欠かせない商品になっています」とその品質を高く評価。こうした地域との連携強化が施設の魅力向上につながっている。

トマトの収穫では高齢者や障がい者の協力を得ている
富士見小学校の児童が畑の看板を制作
今年からARを活用し た工場見学を開始

新棟が稼働開始ARを駆使した工場見学を導入

 同施設では最先端技術を活用した取り組みが行われている。例えば、360度のVRにより工場の生産ラインを間近で見学できる「プチガイドツアー」を実施。手にセンサーを当てるだけで野菜摂取量を推定する「ベジチェック®」も設置している。

 今年から新たに、ARを活用した工場見学を導入。隣接する富士見工場に昨年12月から稼働を開始した新棟で、カゴメの「野菜生活100」の原料収穫から出荷までのバリューチェーンを、場面ごとにARを活用した動画で紹介。新たなコンテンツ「カゴメの人 私たちは野菜を届けています」では、見学通路にあるジオラマに設置されたARマーカーにタブレットをかざすとカゴメの社員が登場し、消費者の健康を願う想いと安心・安全なものづくりを大切にする姿勢について語るのを聞くことができる。

 この工場見学は1名につき100円の見学料がかかるが、その全額を「カゴメみらいやさい財団」に寄付。子ども食堂などを運営する団体の支援に使われる予定だ。20年以降、コロナ感染拡大防止のため休止していた工場見学も、4月末から再開。感染拡大防止のため従来の半分の人数で実施している。

 工場見学と並んで、ファミリー層から人気が高いのが野菜の収穫体験だ。春から秋にかけて訪れる人が旬の野菜の収穫ができ、収穫した野菜は持ち帰ることができる。天井トマトやミニトマト、完熟トマトに加え、夏はトウモロコシ、秋はカボチャ、冬に向けて大根や人参など春野菜から冬野菜まで幅広く揃え、季節に応じた収穫を楽しめる。雨天でも体験できるように、ハウス栽培所を昨年三つ、今年も二つ増やして充実させている。

 体験型施設の中でも人気スポットが施設内のイタリアンレストランだ。イタリア製の薪窯で焼いた本格ピザのほか、パスタ、トマトソフトクリームなど、地場野菜をふんだんに使ったここでしか食べられない多彩なメニューを提供。リピーターに満足してもらえるよう頻繁にメニューを見直し、よりおいしい本格的な料理の提供に努めている。また施設内のショップにはジャム3種類と「野菜生活100オリジナル 野菜生活ファーム限定パッケージ」のほか、野菜をモチーフにしたマグカップ、マスキングテープなど「思い出の持ち帰り」をコンセプトにしたオリジナル商品が揃う。最近ではギフト需要も高まっており、河津社長は「コロナ下で会えない大切な人に、カゴメのギフトセットを野菜生活ファームオリジナルのラッピングで贈りたいというお客様が増えています」と反響の大きさに驚いている。直営ショップではオリジナルラッピングの拡充を図る考えだ。

レストランには本場イタリア製の窯を設置
観光温室では天井にトマトを楽しむことができる
ファミリーを中心に農業・収穫体験が人気

富士見町の農業振興、雇用の創出に向け観光事業を推進

 カゴメ野菜生活ファームは「農の未来、食の未来、地域の未来を魅せる」をコンセプトに、隣接した野菜飲料を製造する富士見工場、トマトや高原野菜を栽培する八ヶ岳みらい菜園とともに3者で協力して運営。総敷地面積は約21haの広大な土地だ。また工場の排温水や排ガス(CO₂)を菜園の温室に再使用するなど循環させることで、環境にやさしい農業も実現している。

 富士見工場は、1968年に操業を開始。「野菜生活100」や「野菜1日これ1本」などの紙パックの野菜飲料を年間約3億7000万本製造している。飲料製造には南アルプスの豊かな水資源を使用してきた。一方で、富士見工場の目の前にある約10haの農地の約8割以上が農業の後継者不足などで遊休地となり、今後も増加することが懸念された。

 そこで「富士見町へ恩返しをしたい」(河津社長)との考えから、カゴメが12年に富士見町とともに遊休農地の活性化に向けたプロジェクトを開始。16年には、富士見町の農業振興、雇用の創出、町民の健康寿命の延伸への協力を定めた連携協定を締結。長年の信頼関係を基に、構想から約6年の歳月をかけて完成した施設だ。

 カゴメ野菜生活ファームは、カゴメが目指す「健康寿命の延伸」「農業振興・地方創生」「持続可能な地球環境」といった社会課題への取り組みを実践する象徴的な施設に位置づけられる。長期ビジョンに「トマトの会社から野菜の会社に」を掲げるカゴメでは、食を通じて社会課題の取り組みを推進。日本の緑黄色野菜の消費量を高め、健康寿命の延伸や地域の社会課題解決の活動を進めていく。

カゴメ野菜生活ファームは「農の未来、食の未来、地域の未来を魅せる」をコンセプトに進化を遂げる

問い合わせ先

住所:長野県諏訪郡富士見町富士見9275-1

電話:0266-78-3935

Mail:ysf@kagome.co.jp

 ※12月1日〜3月22日まで冬季休業(予定)