宅配拡大路線の転機となったコロナ禍

 2021年の生協陣営は、コロナ禍で大幅に供給高が伸びた20年の反動で、総供給高は前年をやや下回る状況が続いてきた。

 日本生活協同組合連合会の嶋田裕之代表理事統括専務は「20年度は総供給高が平時よりも4~5%跳ね上がったから、21年度は同じぐらい落ち、それでも19年度より多少プラスになればと見込んでいた。コロナ禍が長引いたこともあるが、何とか前年度に近いレベルを維持できている。各単協とも、予算対比では大幅なプラスとなっており、想定以上の成果が出ている」と総括する。

 特に宅配は、5月(7.6%減)を除く5カ月は前年と同水準かやや上回るレベルで推移してきた。20年度、生協陣営全体の宅配の経常剰余金は実に900億円を超え、店舗事業の赤字15億円を差し引いても、大幅な黒字超過となった。21年度は「前年の9割程度」(嶋田氏)とやや減少する見込みだが、それでも生協の事業経営全般に莫大なプラス効果をもたらすのは確実だ。

 3人以上1組の班単位の共同購入から始まった生協の宅配は、事業化されてからすでに半世紀の歴史がある。この間の地道なインフラ投資に裏付けられた事業の効率性と信頼性は、後発のネットスーパーを凌駕している。

 半面、こうした優位性のおかげで、コロナ下の巣ごもり需要が一挙に流れ込み、すべてを受け止めきれないという別の問題も浮き彫りになった。20年には、増えすぎた注文に対応できずに欠品率が一時20%に達する事態となり、21年はこれらをどう解消するかが各生協の大きなテーマだった。

 コープさっぽろ(札幌市)のように物流子会社を持ち、自前で運転手やトラックを確保して配送能力を高める生協がある一方、取扱品目を絞り込むことによって生産性を上げているのがユーコープ(横浜市)だ。従来は宅配チラシ(カタログ)の種類を増やし、SKUを広げてきたが、例えば、大容量パックのコーナーなど組合員のニーズが少ないものを見直し、類似商品は購買頻度の高い方に一本化するなどしてSKUを削減。それでも供給高は伸びており、事業効率は大きく改善されたという。

 コープ東北サンネット事業連合(仙台市)は、利用者の購買行動をAIで分析し、宅配チラシの配布枚数を抑制する試みを始めた。これまでは毎週1万円単位で利用するヘビーユーザーにも、決まった商品のみを定期購入する利用者にも、一律で同じ分量のチラシを配布してきたが、組合員ごとの利用実態に合わせ、利用の少ない人にはチラシの枚数も限定するようにした。その結果、紙代や印刷代などのコストが削減される一方、供給高は従来とほとんど変わらないことが確認できた。

コープ東北サンネット事業連合は購買行動をAIで分析し、チラシの配布枚数を抑制する試みを開始した

 右肩上がりの成長力を背景に、宅配の商品数やカテゴリーの拡大にひたすら努めてきた生協陣営にとって、コロナ禍における受注の急増とオーバーフローという経験が一つの転機となったのは間違いないようだ。

 各単協が開発したスマートフォンアプリなどを経由した注文が増えているとはいえ、生協の宅配ビジネスの基本は、利用者が紙のチラシに掲載された商品を選んで注文用紙に記入し、週1回、配達担当者に手渡すというスタイル。この基本は半世紀変わっていない。この間の変化らしい変化といえば、注文用紙がOCR対応となり、注文内容をスキャナーで素早く読み取れるようになったぐらいだ。単協にもよるが、現在も注文全体の4割から6割程度は紙が占めているとみられる。

 「たくさんの商品の中から、好きな物を選んでというやり方、チラシの商品案内を見ながら、OCR用紙に注文を記入してもらうというやり方があまりにも成功してきた。それだけに各単協にはこれを減らす怖さもあるだろうが、紙からEC(ネット注文)へとシフトしていけるかどうかが22年以降の課題になる」と嶋田氏は指摘する。

着々と進むDX対応だがポイント統合などで遅れも

 宅配のEC化を明確に掲げているのが、生協の宅配事業で最大手のコープデリ連合会(さいたま市)だ。ネット注文の比率を現在の30%から中期的に70%にまで引き上げる数値目標を設定している。その一環として19年暮れ、ネット注文サイトに「かんたん1分注文」機能を付加した。過去の注文履歴をAI分析し、よく利用する商品をまとめて提案する仕組みで、組合員が幅広い商品群の中から欲しい物を探す手間を減らしている。22年には、利用者の購買履歴に合わせておすすめ商品を提案する「レコメンド機能」などの追加も計画している。

 コープデリの取り組みが象徴するように「紙からECへ」という大きな流れに対応していく鍵はデジタル化だ。日本生協連は20年3月、デジタル化推進の新たな枠組みとして「DX‒CO・OPプロジェクト」を始動。コープ東北サンネット事業連合常務理事の河野敏彦氏をプロジェクトリーダーに、サンネット、コープデリ、東海コープ事業連合(名古屋市)の3事業連合の実証実験の成果を他の会員生協に水平展開していくことを目指している。

 河野氏は19年にスマートフォン決済(QRコード決済)アプリ「コープペイ」の開発を主導し、サンネット加盟7生協で実用化するなど「生協陣営のDXの分野における第一人者」(嶋田氏)。21年には、宅配をネット注文する際、好みのレシピを選択すると、必要な食材が自動的にカートに入る「コープシェフ」という新たなウェブサービスを開発し、サンネット加盟生協で運用を始めた。

 東海コープも21年、加盟生協のコープあいちを通じ、AIを活用した宅配配送ルートの最適化に取り組み、配送コース数、時間、距離のいずれも1割以上の削減効果が得られたという。

 このように着々と進む生協のDXだが、嶋田氏は「他の小売業界の取り組みにはまだ追いついていない」との危機感を持っている。

2年連続で大幅な黒字超過が見込まれる生協陣営。資金的な余力を、DXなどの投資に適切に振り向けられるかどうかが新年の大きなテーマ(東京・渋谷の日本生協連本部)

 先進例として嶋田氏が挙げるのが、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスが開発し、普及を進めているスマホ決済アプリ「Scan&Go」。早くもカスミやマルエツなどグループ500店舗以上で利用でき、買いたい商品をスマホでスキャンするだけでレジを通さずに決済できる。同社の食品宅配専用アプリ「オンラインデリバリー」もすでにAI分析を活用したレコメンド機能を実装済みだ。

 さらに両アプリとも21年10月に「栄養バランスの可視化機能」「不足している栄養素を補う商品のレコメンド機能」を追加し、購入した食材の栄養バランスを示し、買い足すべき食材の提案を始めている。まさに生協のお株を奪う新機能と言える。

 「これに比べると、生協陣営は店舗と宅配のポイント共通化すらできていない単協が多く、対応速度をもっと上げていく必要がある」(嶋田氏)。コロナ禍は小売業界のDXの投資競争を一段と加速させており、業績が好調だからといって油断していると時代に取り残されかねない。各単協が20、21年度に生まれた資金余力を、22年以降のデジタル投資に適切に振り向けられるかどうかが問われるところだ。

コープさっぽろと良品計画の連携に注目

 投資の重要性は、有力食品スーパー(SM)に比べて競争力が劣る店舗事業においても変わるところがない。

 21年度上半期の供給高は前年同期比3.6%減。20年度の反動減という傾向そのものは同じでも、落ち込み幅はSMの全国売上高(オール日本スーパーマーケット協会、日本スーパーマーケット協会、全国スーパーマーケット協会合同発表の販売統計)の方が小さい。

 コロナ禍が拡大して以降の店舗は、購買頻度が減って購買単価が上昇する傾向、すなわち一度にまとめ買いする傾向が強まっている。このまとめ買いの金額の減り方が生協店舗の方が大きいということになる。嶋田氏は「コープさっぽろなど一部を除き、有力SMに技術水準が追いついていない単協が多い。例えば、バイキング方式の惣菜売り場のような演出がコロナ禍でできなくなった時、どのような売り場につくり変えていくか。パック売りに変えた後のSKUの展開や売り場の見せ方などに、まだ差があるということだろう」と指摘する。

 生協店舗の技術力向上を目的に、日本生協連は21年度、各生協のトップや店舗事業担当の役員が集まり、それぞれの店舗での取り組み事例を共有して売り場改善に生かす「事業改善トップ研究会」をスタートさせた。誤算だったのは、コロナ禍でリモート会議形式にせざるを得ず、店舗の現場を見て議論を深めることができなかったことだ。嶋田氏は「春先からリモートで3回開いたが、成果が出そうにないので中断した。22年度に再開し、単協間のノウハウ共有を加速させるつもりだ」と話す。

 22年には、現在の生協の実力を占う注目の店舗がオープンする。

 コープいしかわ(白山市)が5月に出店する「コープこまつ」(石川県小松市)は、北陸最大手のドラッグストア、クスリのアオキとの共同出店(総床面積2500㎡)の形を取る。

 コープぐんま(桐生市)は、高崎市内で4棟構成で総床面積8400㎡のNSCを開発。自らが核店舗となり、やはり5月の開業を予定する。ぐんまの店舗は、同じコープデリ連合会に加盟するコープみらい(さいたま市)のノウハウを投入したものになりそうだ。二つのNSCは、それぞれの生協に核店舗を委ねられる力量があると、他業態の有力企業が認めたからこそ成立した物件と言える。

 「食の専門業態」としてのSM運営能力を高め、NSCの核店舗を形成することは、日本生協連が90年代から目指していた到達点の一つ。従来、この水準に達しているのは、コープさっぽろ、コープこうべ、みやぎ生協など一部大手生協に限られてきた。「近年、大阪いずみ市民生協(堺市)の店舗レベルが一気に上がり、これに西日本の中小生協が学ぶようになった」(嶋田氏)。生協陣営全体の店舗運営ノウハウの蓄積と水平展開によって、NSCの核を担える力量を持つ単協が少しずつ増えていることは確かなようだ。

 生協の店舗事業最大手のコープさっぽろが21年11月にオープンした「やまはな店」(冒頭写真)は、札幌中心部(中央区)への34年ぶりの出店として話題を呼んだが、もう一つの注目点が良品計画「無印良品」との共同展開である。

 良品計画は22年8月期から3カ年の中期経営計画で「第2創業」を掲げ、都市部中心の出店戦略を転換し、消費者に近い地方や郊外を軸に年間100店規模の出店を行う方針。北海道内では15店程度を出す計画だが、その多くをコープさっぽろとの共同展開とする考えだ。

 無印良品のビジネスモデルが生協を参考に組み立てられた経緯があり、両者はもともと相性がよい。地元紙の取材に対し、堂前宣夫・良品計画社長は「生協から学び、社会が良くなることに貢献する集団になっていきたい」と述べており、生協と無印のコラボレーションが他の地域に広がる可能性もありそうだ。

 コープ商品の新たなシリーズとして21年2月から展開を始めた「コープサステナブル」。既存のコープ商品の中から、①持続可能な漁業②森林資源の維持に配慮した農法③化学肥料に頼らず環境負荷の少ない農法で生産された原料を使っている100品目を新たにくくり直した。今後、生産国・地域の人権、労働条件などの判断基準も加え、200~300品目に拡大していく考えだ。

 一方、女性の登用では、福井県民生協(福井市)が①採用②継続就業③労働時間などの働き方④管理職比率⑤多様なキャリアコースの5項目における顕著な実践が認められ、20年9月、厚生労働省から女性活躍推進法に基づく全国2例目の「プラチナえるぼし」認定を受けた。SDGs、女性の積極的活用は生協らしい取り組みの象徴。この強みはより拡大していくこととなる。

この記事の購読は有料購読会員に限定されています。
まだ会員登録がお済みでない方はこちらから登録ください。
有料購読申込

すでに会員の方はこちらから