原料の3分の1を果物が占める今までにないたれを開発
「エ、バ、ラ、焼肉のたれ」のフレーズでおなじみ、エバラ食品工業の看板商品と言えば「黄金の味」だ。発売から43年、日本の焼肉文化の発展とともに成長を続け、現在でも焼肉のたれ市場シェア№1を誇るトップブランドだ。人気の秘訣は、商品へのこだわりもさることながら、テレビCMや店頭での試食を通した積極的なPR。商品の価値を繰り返し消費者に伝えることでファンやリピーターを拡大してきた。また近年では社会の変化に対応したリニューアルや新テイストの発売を相次いで実施。ロングセラー商品であり続けるための、たゆまぬ進化を重ねている。
エバラ食品が初めて「焼肉のたれ」を売り出したのは1968年のことだ。当時は食卓で焼肉を食べること自体がまだ一般化していない時代。「発売当初は、お客様の多くが『そもそも焼肉のたれって何』と首をひねる状況だった」と近藤康弘取締役営業部門担当は振り返る。
しかし、消費者と向き合い、商品の認知拡大から価値の浸透、リピート購入へとつなげるエバラ流の販促策はこの頃から健在だった。販売先の精肉店の店頭で積極的な試食販売を実施。創業者で名誉会長の故・森村國夫氏も自らお客に焼肉を振る舞って商品をアピールしたという。次第に評判が広がり、全国のスーパーマーケット(SM)にも販路が拡大。発売の翌々年にはいち早くテレビCMを仕掛けることで認知度を一気に高めた。女性の社会進出が進み、焼肉が簡便なメニューとして人気を呼んだこと、家庭でも手軽に肉を焼けるホットプレートが登場したことも追い風となり、「焼肉のたれ」は順調に売り上げを伸ばしていった。
当時から「焼肉のたれ」はシェアでは他社を圧倒していたものの、全国的に見ると関西に弱みがあった。関東では、豚肉を醤油ベースの「焼肉のたれ」に漬け込んで焼く食べ方が受け入れられたが、牛肉文化であり、かつ甘い風味が好まれる関西では、嗜好の違いが壁となり、やや販売が苦戦していたのだ。
そこでより付加価値をつけたグレードの高いたれの開発に着手。関西の嗜好に合わせた甘さと、肉に絡むとろみを出すべく、たどり着いたのがりんご・桃・梅という果物をベースにすることだった。こうして78年、原料の3分の1をフルーツが占める、今までにない焼肉のたれ「黄金の味」が誕生。発売後すぐに予想を上回る大ヒットとなり、苦戦していた関西エリアも攻略。全国の市場を席巻し、発売初年度だけで26億円を上回る大ヒット商品となった。