嗜好の多様化でヒット商品が出にくいと言われる昨今、消費者の潜在ニーズを的確に捉えた新感覚の鍋物調味料などで立て続けにヒットを飛ばしているのがエバラ食品工業だ。ヒット商品量産の秘訣はどこにあるのか。同社の開発体制、マーケティングの考え方について、清水憲一執行役員クリエイティブ本部長に聞いた。

個食対応のポーション鍋つゆ「プチッと鍋」が大ヒット

 「一人鍋」という新たな概念を世に浸透させた鍋つゆのヒット商品と言えば、エバラ食品工業の「プチッと鍋」だ。2013年に発売された「プチッと鍋」は、おいしさをポーションに閉じ込めた液体の鍋の素。1個で一人分から手軽に鍋を作ることができる上、いつでも開けたてのおいしさを楽しめるのが特徴だ。21年にはコロナ下の内食需要の高まりも後押しし、個食鍋市場で売り上げシェアナンバーワンを獲得した。

 「当社はできるだけ成功確率が高い状態で商品を上市するための独自の開発体制を敷いている」。エバラ食品の清水憲一執行役員クリエイティブ本部長はそう明かし、ヒット商品を作る秘訣について、「新価値を創造する開発手法と販売促進の二軸を噛み合わせ、最大化すること」だと語る。

 商品開発にあたり、エバラ食品ではまず消費者のニーズを徹底的に深掘りすることから始める。顕在化しているニーズに対しては、既にそれを解決するための商品が存在していることが多い。そこで、「ニーズを〝未充足〟の状態まで磨き上げる。解決手段が存在しないところまで突き詰めて、そこに向けて商品コンセプトを固めていく」(清水執行役員)ことで未開拓市場にアプローチするのだ。

 例えば「プチッと鍋」であれば、「スープが足りなくなる・逆に余ってしまう」「家族が集まらないと作れない」といった、鍋をやる上で「仕方ない」とされていた悩みに正面から向き合うことが最初の一歩となった。もっと自由に鍋を楽しんでもらえるよう、課題を解決できる新しい鍋市場を創造する「イノベーション鍋」プロジェクトを発足。「出されたアイデアを否定しない」をルールとする自由な議論を経て、個食対応のコンセプトや、ポーション容器に液体調味料を充填する新たな発想を形にしていった。

 エバラ食品のもう一つの特徴が、商品開発部と販促を担当するマーケティング部の二人三脚体制だ。商品の企画を練っている段階から開発部とマーケティング部が積極的に情報を交換。新商品の魅力をいかに消費者に訴求するか、というところまでをセットで一気通貫の商品開発が行われている。

「プチッと鍋」で特にこだわったのはネーミングだ。今まで市場になかったコンセプトや価値が直感的に伝わる商品名は何か。いくつかの案の中から消費者に調査を実施し、感触を探った。そこでモニターの多くが自然と何度も口にしていた「プチッと鍋」を採用。キャッチコピーも「一プチッと一人前」とすることで、商品の使用シーンやベネフィットを初めて使う消費者にも印象的にアピールした。

「プチッと鍋」は発売後まもなく全国で好調な売れ行きを見せ、膠着しつつあった鍋つゆ市場に風穴を開けるのみならず、家庭での鍋の食べ方を劇的に変えるに至った。「プチッと鍋」は、まさにエバラ食品の開発・マーケティング手法が結実したエポックメイキングな商品と言えよう。

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