霧島連山麓の水脈を指定したナチュラルミネラルウォーター

 30年ほど前まで日本では“水を買う”という習慣はあまり見られなかったが、今やコンビニやスーパーでミネラルウォーターを買うのは当たり前。ウォーターサーバーを設置し、飲み水だけでなく、料理にも買った水を使う家庭も多い。こうした傾向は、数値にも表れている。一般社団法人日本ミネラルウォーター協会によれば、国内の1人当たりのミネラルウォーターの年間消費量は、2005年の14.4リットルから21年には35.4リットルへと2倍以上に拡大した。しかし、海外と比べると、日本の消費量は、イタリア(190.2リットル)の2割弱、米国(121.0リットル)の約3割とまだ少なく、伸びしろは大きい。また、国も熱中症や脳梗塞・心筋梗塞などの予防の観点から水を飲むことを推奨しており、ミネラルウォーターの需要は今後も拡大が見込まれている。

 市場が拡大するミネラルウォーターの中で、近年注目を集めているのが、Qvou(キューボー:神戸市)が手掛ける「のむシリカ」だ。「のむシリカ」は、霧島連山の麓、宮崎県小林市の水源で採水されたナチュラルミネラルウォーターで、ミネラル成分をバランスよく含み、特にシリカの含有量が多い点が特長だ。

 シリカとは、ミネラル成分の一つで、皮膚や毛髪、骨、関節、歯、爪など人体のほとんどの組織に含まれている。体内で組織同士をつなぐ役割を果たしており、これが不足すると、肌荒れや抜け毛、骨折などにもつながりやすく、健康維持のためには欠かせない成分だ。ただし、シリカは体内で生成することができないため、食事などで摂取する必要があり、その量は、成人で1日当たり約40mgと言われている。「のむシリカ」には、このシリカが1リットル当たり97mg含まれているため、水を飲むだけで十分な量のシリカを摂取できる。

隣接した工場では無菌補充システムでボトリング。未開封で2年間保存が可能だ

 このほかシリカには、料理をおいしくする効果もある。慶応義塾大学大学院特任講師でAISSY社の社長を務める鈴木隆一氏が様々なミネラルウォーターを用いて行った実験では、「のむシリカ」で炊いたご飯は他のミネラルウォーターを使った場合より艶が増すうえ、深いコクと甘みが感じられることがわかった。同様に、水割りや水出し茶でも他よりコクと旨味が増し、特にお茶は見た目の色が鮮やかになるという結果も得られた。

「のむシリカ」は料理に使うと刺激や角がとれることから炊飯などにも最適だ

 こうした特長を備えたシリカには近年、関心も集まっており、市販のシリカ水の中には、化学合成したシリカを添加し、高濃度をうたうものも出てきた。しかし、QvouCEOの久保龍太郎氏は、「シリカは、ナチュラルミネラルウォーターからの摂取が最も吸収率が高いと言われている。当社の製品は、指定水源の中で数本ある水脈のうち、1リットル当たり97mgのシリカを含む1本の水脈からだけ採水することにより、自然由来のまま、高い含有率を実現している」と説明、化学物質を人工的に添加した商品との違いを強調する。

「のむシリカ」は、シリカ以外の天然ミネラル成分も豊富だ。二日酔いや胃腸の改善に役立つと言われる炭酸水素イオンが1リットル当たり170mg含まれるほか、カルシウムとマグネシウムは、吸収率が最もよいとされる2対1の黄金比率で含まれている。

 また、飲みやすさも「のむシリカ」の特長だ。水の飲みやすさは、主に水の硬度によって決まる。カルシウムおよびマグネシウムの含有量が少ない軟水ほど飲みやすく、逆に含有量が多い硬水ほど飲みにくい。様々なミネラルが偏りなくバランスよく含まれる「のむシリカ」は、硬度が中程度の「中硬水」に分類され、ミネラル分をしっかり摂取できるうえ、飲みやすいというメリットがある。

「のむシリカ」は中硬水のナチュラルミネラルウォーターだ

ECで3割近いシェアを獲得小売店市場にも参入

 こうした様々な特長を持つ「のむシリカ」は、人気も高い。それを示すのが通販市場での売れ行きだ。「のむシリカ」は、主に通販市場でケース販売しており、500ミリリットル入りペットボトル1本当たりに換算すると、大手飲料会社のミネラルウォーターの2倍近い価格で販売している。にもかかわらず、販売量は、17年の発売から21年までの4年間で160倍に伸長、今では、毎月10万ケース以上、ECで3割近いシェアを獲得小売店市場にも参入250万本を安定的に出荷するまでになっている。利用者の固定化も進んでおり、定期購入の顧客のリピート率は、契約3年後も3割近くを維持。「通販市場では、定期利用者で12カ月続ける人の割合はだいたい8%。実に92%が1年で離脱するが、当社の場合、12カ月利用する人の割合は34%で、36カ月でも27%。通販業界の人からは異常値だと言われる」と、久保氏も胸を張る。

 ライバル商品に対する競争力も高く、ECのアマゾン内のシリカ水の月間売り上げシェアを比較した調査(22年1月実績)では、「のむシリカ」は、シェア28%超を獲得、2位を10ポイント以上引き離し、売り上げナンバーワンを達成した。

 この状況に手応えを得たQvouでは、満を持して小売店での販売にも乗り出した。大阪の阪神梅田本店では、ポップアップイベントを開催。昨年はQvouがCMを投下する愛媛県と鹿児島県の小売店で展開を始め、地場大手のフジ・リテイリングの店舗にも導入した。

 小売店での本格販売は初めてにもかかわらず、販売も順調で、「商品を導入したスーパーさんも、1本170~180円もする水が果たして地方で売れるのかという不安もあったようだが、粗利にも貢献しており、みなさんに喜んでいただいている」と久保氏も破顔する。高価格のナチュラルミネラルウォーターと言えば、大都市の健康意識の高い層向けの商品と思われがちだが、実際は、もっと広い層に需要があるようだ。

大々的な販促広告費を投じ、コンビニやスーパー、百貨店などの一般店頭販売への販路拡大を図っている

年間20億円を広告に投入認知拡大で新市場創造を目指す

 高い人気の理由には、優れた商品力に加え、販促施策もある。Qvouでは、「のむシリカ」だけに年間20億円の広告費を投入しており、久保氏も「大手飲料メーカーでも水1つにこれだけかけているところはないはず」と、その大きさを強調する。

 広告の中心はネット広告だが、効果が大きいのがBS・CSのCMだ。「BS・CSは、韓国ドラマの放映が多く、これを観るのが、のむシリカのメインターゲット層である40代から60代の女性。ここにCMを投下することで、効果的に認知度を高められる」(久保氏)。実際、これが通販の定期購入の利用拡大にもつながっている。

 さらにこの定期購入層の定着に貢献しているのが、オリジナルの会報誌「月刊のむシリカ」だ。俳優やスポーツ選手など、美容や健康に対する意識の高い著名人のインタビューを始め、食や運動、趣味などの情報を掲載。コンテンツはもちろん、デザインや紙質までこだわることで、月間6万部以上の発行を誇る人気会報誌となっている。

月刊 「のむシリカ」は、6万部以上の発行を誇る会報誌に成長

 Qvouでは、定期利用者の囲い込みと合わせ、利用者層の拡大も進めている。前述の通り「のむシリカ」の利用者は40代から60代の女性が中心のため、新たに若年層の開拓にも注力。人気の高いアーティストやユーチューバーなどが運営するウェブコンテンツへの広告も強化しており、チャンネル登録者数が数百万人の人気ユーチューバーのヒカルや中田敦彦、朝倉未来などの活動を支援。20~30代の認知度の高いインフルエンサーを通じ、「のむシリカ」の魅力を発信する。さらに、総合格闘技の「RIZIN」や障害物レースの「SPARTAN」のスポンサーとしての露出も高め、若い層の取り込みを狙う。

総合格闘技「RIZIN」でのロゴ入りTシャツが話題となった

 高い競争力を備えた商品を計算されたマーケティング施策で訴求することで、既存の利用者層の定着を促進するとともに、新たな顧客層の開拓を進め、需要の拡大を図る Qvou。同社が目指すのは、美容と健康を基軸にした高級飲料水市場の確立だ。久保氏は、「かつて水を買う人がいなかった日本で水を買うのが当たり前になった。これからは、同じ水を買うならよりよい水を買いたいと成分表を見て水を選ぶ時代がくるはず」と強調。新市場の確立に意欲を示した。

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