多様な小売業のレジ業務を受託、99%近いレジ稼働率を実現
小売業のレジ業務と言えば、パート勤務の主婦や学生が主な戦力だが、少子高齢化に伴う人口減少やフルタイムで働く女性の増加などを背景に、近年、その確保が難しくなってきている。さらに、せっかく採用しても長く働いてもらえないというケースも多く、人材の定着も大きな課題だ。レジ要員の確保・定着が進まない店舗では、店長は、採用業務に追われるうえ、時には、レジ業務までこなさなければならず、人材の意欲を高め、人時を向上させながら店の業績を上げるという本来業務に集中できないという問題も起きている。
こうした課題の解消策として、エムアンドアールが提案するのが、「レジ業務のアウトソーシング」だ。一般的な人材確保の方法には人材派遣があり、「外部組織に人材確保を任せる」という点では、アウトソーシングも似ているが、雇用形態(表1参照)始め、その仕組みは大きく異なる。
まず、人材派遣は、人材派遣会社が登録している人員の中から、条件に合う人材を店舗に派遣するというもので、企業は、派遣される個人ごとに契約する。また、派遣された人材に対する指揮命令は店舗の管理監督者が行う。一方、エムアンドアールのアウトソーシングは、店舗のレジ業務を同社がまとめて請け負うというもので、人員の確保から教育、シフト管理まですべてを同社が行う。したがって、委託した分については、店舗は人の確保や教育、シフト管理などを行う必要がない。
エムアンドアールは、レジ業務に特化したアウトソーシング会社で、創業以来20年近く、大手総合スーパーや食品スーパーから、百貨店、専門店までさまざまな小売業約80社のレジ業務を受託してきた実績を持つ。
同社の特徴は、業務遂行力の高さにある。同社が業務を請け負ったレジの稼働率は、昨年の平均で98.51%と、「業界屈指の稼働率」(河原郁夫社長)を誇る。これを可能にしているのが、きめ細やかな管理・フォロー体制だ。店舗ごとに専任の管理者を配置し、レジリーダーとともに現場の稼働状況を把握、情報を密に共有することで、突発的な欠員を予防している。また、万が一欠員が出た場合も、各店舗を回るラウンダースタッフが業務を代行することで、レジの未稼働を防いでいる。このほか、3カ月に1度スタッフ面談を実施し、スタッフの状況を把握、必要に応じて相談にのるなどで、レジスタッフの突然の退職防止にも力を入れている。
加えて、「レジ業務のアウトソーシング会社は、全レーンの請け負いが一般的だが、当社は、一部のレーンだけを請け負うことも可能」(河原社長)で、お客のニーズに柔軟に対応できる点も特徴だ。 さらに教育にも力を入れている。本社に研修センターを完備し、売り場と同じ環境でレジ研修や接客マナー研修を実施。また、接客品質向上を支援する専門部署「業務推進課」を設置し、チェッカー技能検定1級保持者による指導など、質の高い研修を行っている。このほか、レジ業務の社内コンテストも実施しながら、スキルの向上にも努めている。
店舗とレジスタッフを繋ぐ管理担当者が店舗に配属
受託契約を結ぶと、まずクライアント企業がレジ担当者に求める要素を盛り込みながら、マニュアルを作成する。同時に、業務推進課のメンバーが店舗に出向き、レジ業務を習得した後、店舗に配属するレジ要員にその内容を教育する。
その際、留意しているのが、それぞれの企業の方針に則って指導を行うことだ。河原社長は、「丁寧な接客を求めるところ、スピードを求めるところなど、店舗により重視する要素は異なるため、それぞれのニーズに対応できるよう、人材の選定から教育までを行っている」と、ここでも柔軟な対応力に自信を示す。
さらに、店舗にはレジ要員に加え、店側とレジ要員のコミュニケーションを仲介する店舗管理の担当者も配置。この管理担当者が店側の要望をレジスタッフに伝えることで、日々、現場で必要となる業務変更などにもきめ細かく対応できる。また、店舗管理者は、レジ要員が接客の現場で感じた課題や集めた顧客の声などを集約し、毎月の店舗との定例会で報告することで、店舗の業務改善や競争力の強化にも貢献している。このほか、「通常は7レーンを受託しているが、繁忙期には8レーンに増やすといったこともできる」(河原社長)と、客数の増減に合わせ受託レーン数を変えるなど柔軟な対応も実施している。
アウトソーシングの受託から業務開始までのリードタイムは2カ月ほどで、この間にスタッフの採用から教育までを行う。人手不足が言われるなか、必要な人員を短期間に確保するため、同社ではレジ業務に特化した求人サイト「レジ・スーパー求人ナビ」を運営。さらに、長期的な人手不足に備え、外国人の採用にも注力。専門学校に社員が出向き、外国人留学生向けにチェッカー検定と同様の接客用語やサービス、ノウハウ、接客マナーなどの講義を行うなど、人材の安定確保につなげる取り組みも実施している。また、これまでは、福島県郡山市から愛知県名古屋市までだった展開エリアも、「ある程度の規模で受注できる場合は、現在未対応エリアでも事務所を作って対応していく」(河原社長)として、全国どこからの引き合いにも応えられる体制づくりを進めていく方針だ。
コロナ禍で他業界からの人材の流入もあり、人手不足は一服した感がある小売業界だが、重要なのは、採用した人材が定着し、戦力化することだ。採用できたが、定着しない、育成できないという問題を抱える企業は少なくない。せっかく採用したスタッフが、コロナが収束したら、他業界へ移ってしまったということがないよう、「転ばぬ先の杖」として、アウトソーシング会社の活用も検討が必要だろう。
(冒頭写真は、「業界屈指の高いレジ稼働率を実現している」と語る河原郁夫社長)