米小売り最大手ウォルマートは8月21日、傘下の会員制卸売事業サムズクラブとあわせ、決済手段に「タップ・トゥ・ペイ」を追加すると発表した。8月24日より一部のウォルマート店舗とサムズクラブで導入を開始し、年内に全米の全店舗・全クラブへ展開する計画である。ガソリンスタンド併設の給油施設への導入は2027年半ばを予定している。
タップ・トゥ・ペイは、非接触決済に対応したカード・スマートフォン・スマートウォッチを決済端末にかざすだけで支払いが完了する仕組みだ。食料品や日用品、ギフトなど、どのような買い物でも利用でき、対象となるウォルマート・サムズクラブ・ワンペイの各カードをデジタルウォレットに登録して使うこともできる。同社は、現金やクレジットカード、独自の決済アプリ「ウォルマート・ペイ」に加え、タップ・トゥ・ペイを新たな決済手段として位置づけている。ウォルマート・ペイでは、専用アプリを通じた支払いのほか、購入履歴やレシートの確認、「ウォルマート・プラス」の給油割引の利用も可能だ。サムズクラブでは、買い物をしながら商品をスキャンしてそのまま決済できる「スキャン&ゴー」も既に提供している。
10年以上にわたり非接触決済を拒否、「最後の砦」だった
今回のリリース自体は「アップルペイ」の語には一切触れていないが、米メディア各社の報道によれば、今回追加される非接触決済にはアップルペイ・グーグルペイが含まれる。ウォルマートはこれまで10年以上にわたり、NFC(近距離無線通信)方式の非接触決済を店舗で受け付けてこなかった。2016年には独自の決済連合「カレントシー」でアップルペイに対抗しようとしたが、この構想は頓挫している。その後同社は、専用アプリでQRコードを読み取る自社方式の「ウォルマート・ペイ」を軸とする方針を貫き、わずか半年前の今年1月時点でも、NFC決済を受け付けない方針を改めて表明していた。
この間、非接触決済は米国の小売業界で急速に一般化した。クレジットカード大手キャピタル・ワンの集計では、アップルペイの利用者は世界で8億人を超え、米国内の小売店の9割超が対応済みで、米国のモバイル決済市場でのシェアは9割超に達しているとされる。ウォルマートが対応を見送り続けるなか、SNS上では利用できないことへの不満や揶揄が繰り返し話題となっていた。
ウォルマートが自社決済「ウォルマート・ペイ」にこだわり続けてきた背景には、アプリ登録を通じた購買履歴の把握という思惑があったとの見方が業界では根強い。QRコード読み取りという手順は、タップ一つで完了する非接触決済に比べて明らかに一手間多く、モバイル決済に慣れた消費者にとっては不満の種であり続けてきた。
裏を返せばウォルマートは、自前の決済基盤だけでは、レジでの利便性という一点において顧客満足を十分に満たせなかったことを、遠回しに認めた形とも読める。リリースが「アップルペイ」の語を一切使わず、「タップ・トゥ・ペイ」という一般名称に終始している点も、長年の抵抗の末の方針転換を大々的に打ち出したくない事情がにじむ。
決済手段の多様化そのものは売り上げに直接的なインパクトを与えるものではないが、チェックアウト時の摩擦を減らすことが客単価や再来店率にどう波及するかは、大手小売りの間で共通の関心事だ。10年以上にわたり自社方式に固執してきたウォルマートがついに方針転換したことで、非接触決済の受け入れは米国小売業界でほぼ標準的な選択肢になったと言えそうだ。
(冒頭画像は、ウォルマートのHPより)
















