ウォルマートは10月31日、ホリデーシーズンに向けてAI(人工知能)を活用した五つの新しいショッピング機能を発表した。店頭とアプリをシームレスに連動させ、顧客がより簡単にお得情報を探し、商品を見つけ、効率的に買い物を進められるようにする狙いだ。

 ウォルマートはすでに「40ドル以下の感謝祭ミールバスケット」や「最大60%オフのブラックフライデーセール」を打ち出しており、AI技術を活用したサービス拡充でホリデー商戦を一段と加速させる戦略だ。

店舗でもアプリでも“パーソナライズされた買い物体験”

 新機能は、リアル店舗とデジタルの垣根を取り払うことを意図して設計されている。アプリを開いた顧客は、店舗内で自分の位置情報に基づくセール情報や商品の場所を即座に把握できるほか、AIによるナビゲーションで目的の商品へスムーズにたどり着ける。

「1年で最も素晴らしいこの時期を、AIとテクノロジーの力でより楽しくしたい」と語るのは、ウォルマート米国部門買い物体験担当上級副社長のトレイシー・ポリオット氏だ。

 ポリオット氏によれば、店内でアプリを利用する顧客は、利用しない場合に比べて平均25%多く購入しているという。すでにアプリが消費行動を変化させており、AI強化によってさらなる購買促進が見込まれる。

店舗限定のセール情報を可視化

 中でも注目されるのが、顧客が最も要望していた「店舗限定セール情報の可視化」だ。新たに追加された「インストア・セービング」機能では、ブラックフライデー特価、ロールバック(値下げ)、クリアランス商品などの割引対象をワンタップで確認できる。テレビなど特定カテゴリーでの絞り込みや、価格比較も一画面で完結する。これまで分散していた情報を統合し、買い物中の判断を即時化する仕組みである。

 また、「エンハンスト・サーチ&ナビゲーション」により、顧客はオンラインと同じように店内の商品を検索し、在庫状況と陳列場所を確認できるようになった。人気のおもちゃ「ペッパピッグ」のような特定商品の在庫を探し回る必要がなくなり、時間の短縮と顧客満足度の向上が期待される。

 もう一つの新機能「イージリー・ショップ・ユアウィッシュリスト」は、ギフトリストをアプリ内で管理できるツールだ。贈り物候補をあらかじめ登録しておけば、店内に入った際にリストが自動的に通路順に並び替えられる。顧客はアプリを見ながら効率的に買い物を進められ、リスト消化率の向上にもつながる。

生成AIアシスタントが“ホスト役”を支援

 今回の発表でAIの象徴的存在となるのが、ウォルマートの生成AIアシスタント「スパーキー」である。スパーキーは、顧客が「新年会」「子どもの誕生日会」といったイベントテーマを入力すると、必要なデコレーション、飲み物、スナック、紙吹雪などを自動で提案し、買い物リストをその場で作成する。計画から購入までを一気通貫でサポートし、“ホリデーの準備をストレスフリーにするAI”として打ち出されている。

 さらに、AIによるオーディオ要約機能も登場した。商品説明やレビューを短い音声クリップに自動要約し、移動中でも効率的に情報を得られる。第一弾は高級コスメ1000品目以上が対象で、ギフト選びをスマートにサポートする。

 また、AIと拡張現実(AR)を組み合わせたインタラクティブなショッピング体験も導入した。AIが通常の写真を3D化し、顧客は仮想の部屋に入り込むように家具や装飾を確認できる。画像内の椅子や絵画をクリックして直接カートに追加する「ショップ・ザ・バックグラウンド」機能や、複数の空間を切り替えて家具の配置を変えられる「ダイナミック・ショールーム」も実装。今後はホリデー仕様のテーマ空間も追加予定だという。

 ウォルマートの施策の狙いは、顧客に“自分専用の買い物空間”を提供し、AIによって買い物プロセスそのものをパーソナライズすることである。店舗はAIを生かした体験の場となり、アプリはその中核を担う。ウォルマートはこれを「From To-Do to Ta-Da(やることリストを“できた!”の喜びに変える)」と表現している。

 新機能はウォルマートアプリおよびホームページで利用可能であり、2025年ホリデー商戦の注目トピックとなりそうだ。