店舗内の人の動きを「向き」まで捉える

 ソニーが独自のDXツールの提供で、小売業の顧客満足度向上、生産性改善を力強く後押ししている。大手企業にも導入が広がるそのツールが、屋内行動分析プラットフォーム「NaviCX(ナビックス)」だ。

 ナビックスはスマホのセンサーとソニー独自のAIを活用した測位技術により、GPSが利用できない屋内でも人の行動を精緻に捉えるシステムだ。既存のスマホアプリにソニー提供のSDK(ソフトウェア開発キット)を組み込むだけで、アプリを起動した人が今どこにいるかを店舗地図上に示すことができる。お客が店内で商品を探すサポートに活用できるほか、作業アプリに組み込めば従業員の品出し業務などの効率化にも応用できる。また、「位置」「滞在時間」「動線・経路」に加え、従来の技術では難しかった「向き」の情報もリアルタイムに取得可能。「こうしたデータを活用いただくことで店舗マーケティングの効果最大化にも貢献します」と、エンタープライズソリューション事業部サービス&インテグレーション事業室ビジネス推進課の北脇英明セールスマネジャーは語る。

 ナビックスが位置を読み取る仕組みはこうだ。スマホに内蔵されているセンサーから人の移動方向や移動距離などを測定し、ソニーのAI機械学習を組み合わせることで歩行者の正確な動きを抽出する。そこに地磁気(地球や建物などの構造物がもつ磁場)の情報を統合。測位精度と向きを補強することで、店舗地図上に正確な位置情報を描き出すのだ。

 向き情報までを取得できる高い精度もさることながら、ナビックスの最大の強みは、他サービスと比べた際の「導入のしやすさ」にある。一般的な測位システムでは、店内にビーコンやWi-Fiルーター、AIカメラなどの機器を事前に設置する必要があり、例えばビーコンの場合、1500平方mの売り場に約30個の設置が必要となる。これを数十店、数百店規模で展開しようとすれば、導入コストもメンテナンス費用も膨大になる。

 その点、ナビックスはアプリを搭載したスマホさえあれば利用でき、専用機器は不要だ。月額課金による柔軟な運用形態で初期投資や維持費を抑えられるうえ、導入にかかる時間も短くて済む。

 さらにナビックスは、お客の行動に応じてクーポンを出すなどの「エリア連動型プッシュ通知」を手軽に、かつきめ細かに打ち出せる点も特長だ。例えば従来ビーコンでプッシュ通知を出すには、現場に行き、通知したい商品の棚付近にビーコンを設置する必要があった。配信エリアを変更・追加したい場合も、都度ビーコンの移動もしくは増設が必要だった。

 一方、ナビックスは店舗地図上で配信エリアを細かく指定でき、変更もウェブからいつでも可能だ。特定の棚の前だけといったピンポイントな設定にも対応する。「効果的なプッシュ通知により、お客様にお得で楽しい買い物体験を提供。また、『アプリを起動して歩くとお得』という認知を広げることでアプリの起動率向上にも寄与します」と北脇マネジャーは力を込める。

 お客がアプリを起動して歩くことで、顧客属性ごとの回遊状況や売り場の相関関係といった店舗データが蓄積されていく。ソニーは、こうしたデータ活用を支援する「分析可視化ツール」もオプションで提供している。人が立ち寄る売り場・立ち寄らない売り場が一目でわかるヒートマップ機能なども備え、店舗の課題を見える化。事業者はこれをレイアウト改善や販促施策の見直し、リテールメディアの評価などに活用でき、PDCAサイクルをより高速に回すことが可能となる。

NaviCXは店内における人(測位対象者)の行動データを高精度で取得でき、分析にも活用できる

カインズは全国展開でお客の買い物体験を向上

 業態問わず様々な小売業で導入が広がりつつあるナビックスだが、中でも全国展開をいち早く決断したのがホームセンターのカインズだ。同社は〝IT小売業〟への転換を目指し、デジタル戦略の柱の一つに「お客が欲しい商品を簡単に見つけられる体験の実現」を標榜。そこで同社は「カインズアプリ」に商品マップ機能を搭載し、店内で目的の商品位置を確認できるようした。さらにナビックスの測位機能を実装したことで、商品の位置とお客自身の現在地との位置関係を一目で把握できるようになった。これにより、買い物時のストレスの大幅な軽減につながっているという。

 今後カインズが目指すのは、買い物行動の把握による新たな顧客価値の提供だ。お客の動線やマーケティング施策への反応といったデータを分析し、新規カテゴリーの購買や買い合わせを促進。買上点数の増加、ひいてはトップラインの拡大につなげる考えだ。

NaviCXを搭載したことにより、カインズアプリの「商品マップ」上にお客の現在地が表示されるようになった

 ナビックスが提供する価値はお客の行動解析にとどまらない。ソニーの林大作統括課長によれば、「従業員の動きを把握したいという要望も多く寄せられている」という。「とあるスーパー様でそういった活用が始まっているほか、『物流倉庫の作業員の動きを捉えたい』といったお問い合わせも増えている。流通業のあらゆる場面で発生する『人流を解析したい』というニーズに我々は幅広くお応えします」と胸を張る。

 ソニーは3月3日~6日に東京ビッグサイトで開催される「リテールテックJAPAN2026」にも出展予定だ(ブース番号:RT5503)。ブースの一角でナビックスのデモを行い、来場者に測位や分析をその場で体験してもらいながら機能をアピールする考えだ。

 店舗内で今、何が起きているのか――ソニーはナビックスを通じてつまびらかにすることで、店舗の課題抽出から施策立案、効果測定までを一挙にサポート。小売業の可能性をITの力で押し広げていく。