米百貨店大手のメイシーズが、「物言う株主」からの要求で、大規模な経営改革を迫られている。12月9日、アクティビスト投資ファンドであるバリントン・キャピタル・グループ(以下「バリントン」)が、メイシーズの資本配分計画と構造改革に関する提案を公開した。
長期的な業界課題や過去の経営の失敗が影響し、メイシーズの株価は10年間で約70%下落。現在、株式市場での評価は過去最低水準にある。12月4日時点での株価収益率(P/E)は6.4倍、EV/EBITDA倍率は3.7倍と、業界平均を大きく下回っている。
バリントンによればこの背景には、百貨店業界全体の低迷と、過去10年間にわたる経営陣の判断ミスがある。特に設備投資の非効率性が顕著だ。メイシーズは2014年度以降、総額97億ドルを設備投資に費やしたが、これが株主価値向上に結びついていない。
また、店舗運営にも問題がある。生産性の低い店舗が多数存在し、2023年度の「非優先店舗」の1平方フィート当たりの売り上げは67ドルに過ぎない。一方、高級ブランドのブルーミングデールズやブルーメルキュリーの店舗では1平方フィート当たり1000ドルの売り上げを記録しており、潜在的な成長余地が大きいとしている。
経営改革に向けた五つの提案
バリントンはメイシーズの経営改善に向けた五つの具体的な提案を提示した。
1)設備投資の削減:設備投資を現在の売上高比4%から1.5〜2%に削減するべきだと主張。過去の投資は成果を生み出しておらず、これ以上の無駄づかいは許されないとした。
2)株式の買い戻し:株価が割安である今こそ、株式買い戻しを積極的に行うべきだと提案。今後3年間で最低でも20億〜30億ドルの買い戻しを実施するよう求めた。
3)不動産子会社の設立:メイシーズの保有する不動産資産(価値は50億〜90億ドルと推定)を最適化するため、内部不動産子会社「メイシーズ・リアルティ・カンパニー」(仮称)の設立を提案。この子会社が資産の売却、再開発、賃貸などを管理し、収益最大化を図るべきだとした。
4)高級ブランド事業のテコ入れ:高級ブランド事業(ブルーミングデールズ、ブルーメルキュリー)を独立した事業体として運営するか、売却する選択肢も検討するべきだと提案。これにより、成長ポテンシャルを最大限に引き出すことができるとした。
5)取締役会の強化:バリントンおよび提携企業ソー・エクイティーズの代表者を取締役会に加えるよう求めた。両社は小売業界や不動産業界での専門知識を持ち、経営改革に貢献できると主張した。
メイシーズの経営改革を評価せず
2024年初頭、メイシーズは新たな戦略「ア・ボールド・ニュー・チャプター(大胆な新章)」を発表している。この計画では、生産性の低い約150店舗の閉鎖、小型店舗「マーケット・バイ・メイシーズ」の展開、ブルーミングデールズとブルーメルキュリーの拡大などが盛り込まれている。また、年間2億3500万ドルのコスト削減を目指している。
しかし、バリントンはこれに対し、計画の一部は有望だが、設備投資が引き続き無駄づかいされるリスクがあると警鐘を鳴らしている。特に、不動産資産の活用に関する計画が不透明であり、さらなる改革が必要だと指摘している。
一段の経営改革が待ったなし
バリントンは、同業他社ディラードの成功モデルを例に挙げている。ディラードは、設備投資を抑制し、株主への資本還元を優先する戦略で、株価を大幅に向上させた。2018年以降、ディラードは株主に60%の資本を還元し、株価は788%上昇している。一方、メイシーズの株価は同期間に12%減少しており、両者の違いは明確だ。
バリントンの会長であるジェームズ・ミタロトンダ氏は「メイシーズは、戦略計画や不動産資産の価値の可能性に比べて株価が過小評価されている。しかし、過去10年間に97億ドルもの設備投資を行いながら、株主に価値を提供できなかった」と指摘する。
また、ソー・エクイティーズのジョセフ・シット会長は「メイシーズはヘラルド・スクエアの旗艦店をはじめ、50億〜90億ドルの価値があるとされる不動産資産を保有している。不動産子会社を設立することで、これらの資産価値を最大化できる」と自信を見せている。
バリントンとソーは、一連の提案が実行されれば、メイシーズの株主に3年で150〜200%の総リターンをもたらす可能性があると述べている。小売業界の収益性改善に対する物言う株主のプレッシャーは世界的に増大している。メイシーズ経営陣の対応が注目される。