アマゾンは、会話型AI「アレクサ+」とスマートドアベル「リング」を連携させた新機能「アレクサ+グリーティング」を発表した。来訪者をAIが認識・判断し、利用者に代わって自然な会話で対応する仕組み。単なるスマートホーム機能にとどまらず、小売業におけるラストワンマイル体験を再定義する試みとして注目される。
配達対応を自動化、玄関先が“AI接客”の場に
アレクサ+グリーティングの中核は、リングの「ビデオ・ディスクリプション」とアレクサ+の会話能力の融合にある。ドアベルが押されると、カメラ映像から来訪者の服装や行動、持ち物をAIが分析し、配達員か訪問者かを判別する。その情報を基に、アレクサが利用者の指示に沿って応答する。
例えば、配達員に対しては、「裏口に荷物を置いてほしい」「人目につかない場所に置いてほしい」といった指示を自動で伝えることができる。署名の有無や立ち入り範囲などの追加質問にも、その場で会話的に対応する。これは、EC事業者にとって慢性的な課題である不在配達や再配達問題への技術的アプローチの側面もある。
注目すべきは、応対内容を事前にルール化・標準化できる点だ。利用者は音声でアレクサに指示を与えるだけで、週末限定の配達対応や特定ケースへの応答を設定できる。
小売の視点で見れば、これは人によるばらつきが大きかった“受け取り体験”を、AIによって均質化する試みである。
特に、訪問販売やセールスへの対応をアレクサが代行する機能は、消費者側の心理的負担を軽減する。結果として、玄関先という私的空間における体験の質を高め、ブランド全体への印象改善にも寄与する。
来訪データの蓄積が示す次の可能性
アレクサ+グリーティングは、来訪者とのやり取りを映像とメッセージとして記録する。誰が、いつ、何の目的で訪れたのかが履歴として残り、利用者は後から確認できる。この仕組みは、将来的な行動データ活用の余地を示唆している。例えば、配達頻度や時間帯、トラブル発生率などが可視化されれば、物流や顧客対応の改善につながる可能性がある。
アレクサ+グリーティングは現在、米国とカナダで早期アクセスとして提供されており、対応機種の導入や有料プランでの利用が前提となる。アマゾンの狙いは、スマートホーム機器を「便利な家電」から、「小売・物流体験の一部」へと進化させることである。
玄関先にAIを配置するという発想は、今後、リテールにおける顧客接点の最前線がどこにあるのかを改めて問い直す契機となりそうだ。




















