アマゾンが、生鮮食品を含む当日配送(セイムデイ・デリバリー)の提供地域を、米国2300以上の都市・町へ拡大したと発表した。対象地域では、売上上位10商品のうち9品を生鮮食品が占める状況となっており、食品ECにおける「即時性」が、もはや例外ではなく主流になりつつあることを示している。

 今回の拡大は、8月以降で30%以上拡充された生鮮食品の品揃えと、アマゾンが継続的に投資してきた当日配送ネットワークの高度化によって実現した。ホールフーズ・マーケットの商品を含む数千点の生鮮食品が当日配送に対応し、2026年にはさらに多くの地域への展開が予定されている。

バナナもアボカドも配達が当たり前

 特筆すべきは、消費者の購買行動の変化である。バナナ、アボカド、ブルーベリーといった日常的な青果が、品質と低価格の両面で評価され、当日配送のベストセラー商品へと成長した。実際、当日配送で生鮮食品を購入する顧客は、非購入者と比べて買い物頻度が約2倍に達しているという。食品を「ついで買い」ではなく、「起点」としてEC利用が拡張している構図が浮かび上がる。

 アマゾンの食品事業は、すでに米国で1億5000万人以上の利用者を抱え、2024年の食料品・日用品の総売上高は1000億ドルを超える規模に成長している。今回の当日配送強化により、食品と家電、書籍、日用品を同一注文で受け取る購買スタイルが一層定着しつつある。トイレットペーパー12ロールパックが非食品として唯一トップ10に入った点も、生活必需品をまとめて即日入手したいというニーズの強さを象徴している。

 料金面では、プライム会員向けに25ドル以上の注文で当日配送を無料とし、非会員でも12.99ドルの手数料で利用可能とするなど、利用障壁を抑えた設計がなされている。さらに「フレッシュネス保証」を当日配送にも適用し、品質への不安を制度面でカバーした点も、既存スーパーマーケットとの差別化を意識した動きといえる。

生鮮食品ゆえに地域性も際立つ

 地域別に見ると、北東部ではブロッコリーや生エビ、南部ではサーモン、西部ではコールドブリューコーヒー、中西部ではベーコンやピザといった商品が支持を集めており、即配サービスであっても地域嗜好が明確に表れている点は興味深い。

 食品EC市場では、ウォルマートやクローガーなど既存小売も即日・短時間配送の強化を進めているが、アマゾンは「品揃え×価格×スピード」を一体で押し出し、生活インフラとしての地位をさらに固めようとしている。生鮮食品の即日配送はもはや実験段階を終え、小売競争の中核領域へと移行した。2026年に向けた対応エリア拡大は、米国小売業界全体にさらなる配送競争と業態再編を促すことになりそうだ。