連載第1回では銀泰百貨店とそのDX化の概要を紹介し、販売のうち、集客に焦点を絞り、デジタル技術(クラウドコンピューティング、ビッグデータ、IoT、AIなど)の具体的な活用と成果について見てきた。第2回ではオンライン販売とAIによる販売サポートに注目し、デジタル技術の活用を検討していく※1。
{※1銀泰百貨店の具体的な取り組みと成果の記述については、主に筆者たちの現地調査に基づいている。}

喵街でのオンライン販売

 喵街(ミャオジエ)は銀泰百貨店の公式アプリである。プロモーションイベントを重点的にアピールするトップページ、店舗ごとの商品を紹介する店舗ページ、ライブコマースやそのアーカイブを閲覧するライブコマースページを通じて、顧客に情報発信を行っている(図1参照)。銀泰百貨店にとって、ミャオジエはいつでもどこでも顧客と接点を保つためのコミュニケーションチャネルと販売チャネルである。リアル店舗のある地域はもちろんのこと、上海、広州、重慶など出店していないエリアからも数多くの顧客を獲得している。また、ミャオジエでの検索キーワードや検索量を品揃えの選定と調整に用いたり、ミャオジエでの売れ行きやコンバージョン率でキャンペーンの有効性を検証したりするなど多様なデータを収集・分析・検証するツールでもある。

図1  トップページ       店舗別ページ        ライブコマースページ

出所:喵街より引用(2025年1月18日)

 銀泰百貨店はミャオジエを通じてリアル店舗の販売員にオンラインおよび店舗とブランドをまたがった販売の機会を与えることで、販売員のモチベーションを高めている。販売員は商品紹介のリンクをウィチャットなどのSNSで共有したり、直接顧客に送信したりしている。これらのリンクは販売員を識別できるID情報が組み入れられている。商品が売れた場合、販売価格×一定の比率で報奨金が販売員に支給される。その報酬金は銀泰百貨店が支出し、その対象は銀泰百貨店が雇用している販売員にとどまらず、テナントの従業員も含む。来店できない顧客への販売も確実に自身の収入に寄与するこの制度は、オンライン上での販売員の積極的な情報発信と販売活動を引き出している。

 また、販売員が販売できる商品は店舗内または自社のブランドだけではない。例えば、ある顧客がいつもの販売員に結婚式に出席するためのスタイリングを提案してもらうとする。服は自社のブランドだが、アクセサリーやバッグは他のテナントの商品となり、しかも在庫は他の店舗となっている。銀泰百貨店はオンラインとオフラインの在庫一元化を実現しているために、自社ブランドと同様に、自身のID情報を組み入れたリンクを生成すれば、他の店舗または他のテナントの商品を顧客に販売することができる。他の店舗在庫となるために、売上高は他の店舗に計上されるが、販売員への報奨金自体は変わらない。

 これによって、顧客はより簡単に慣れ親しんだ販売員からトータルコーディネートをしてもらうことができ、満足度が向上する。一方の販売員は店舗およびブランドの垣根を越え、顧客の要望に合わせた提案が可能となり、自身の収入をさらに増やすこともできる。販売員の平均収入において百貨店業界では5000元以下(約10万円)の割合が最も高いのに対して、銀泰百貨店の販売員のなか、ミャオジエとインセンティブ制度を活用し、月5万元(約100万円)の収入を得ている者もいる。テナントにとっては、より多くの販売員が自社ブランドを販売してくれることになり、銀泰百貨店にとっては、商圏外の顧客の獲得や関連販売・トータルコーディネートによる客単価アップなどのメリットがある。

 つまり、ミャオジエを通じて販売員にオンラインおよび店舗とブランドをまたがった販売の機会を与えることと、インセンティブ制度を敷いたことは、顧客、販売員、テナント、銀泰百貨店にとって四方良しの取り組みと言える。

AIによる販売サポート

 AIによる販売サポートはAIロボットによる業務アシスタントと、AIGC(AI生成コンテンツ)を用いた効率的な商品情報のデジタル化の二つの側面から概観する。

 まずはAIロボットによる業務アシスタントである。販売員や売り場運営担当者などがAIロボットを持っていると理解してよい。AIロボットはまず各種ビジネスレポートを作成することができる。銀泰百貨店武漢創意城店のスポーツカテゴリー運営責任者によれば、以前は毎日4、5時間をかけて各種の業績レポートを作成し、報告しなければならなかった。現在は見たい項目を指示すれば、システムが自動的に生成するために、より多くの時間をテナントの運営管理に費やすことができるようになり、1人が管理できるテナントの数も大幅に増加した。そして、リアルタイムで自店舗のみならず、オンラインチャネルおよび全国の各店舗のデータも閲覧することができるため、視野が広がり、意思決定の参考にもなっている。

 次にAIロボットは商品を魅力的に見せる文章や画像、宛先の顧客の選択および送信のタイミングも提案している。顧客の心を動かせる魅力的なコンテンツはトップレベルの販売員しか創出できない。一方、百貨店を含む中国の小売業界では販売員の流動化が激しく、能力のばらつきも大きい。いかに早く販売員に自社ブランドおよび顧客の好みを理解し、適切な接客・提案を行わせることができるかは、企業にとって極めて重要である。

 銀泰百貨店のデジタル運営システムの技術開発責任者によれば、銀泰百貨店は大規模言語モデルやAIアルゴリズムなどを活用し、百貨店業界における構造化された知識や優秀なスタッフの能力をAIに学習させ、販売員の基礎能力と効率性を大幅に高めている。実際にAIが絶え間ない学習によって提案精度が向上し、AIの提案通りにまたは微修正して顧客に送信する販売員は増えているという。

 またAIロボットはリアルタイムでの売れ行きに基づいて販売員やマネージャーに商品の在庫補充や販促の強化なども提案する。それによって、銀泰百貨店の売上予測精度は従来の40%から80%超に改善されたという。そしてAIロボットによる関与売上高は、売上高全体に占める割合が2023年の7%から24年の15%にまで増加しており、AIロボットの有効性を物語っている。

 次はAIGCを用いて効率的な商品情報のデジタル化について見る。オンラインチャネルを構築する前提は、商品そのものの画像、モデルが着用する際の画像、詳細な寸法、素材の特徴などの商品情報をデジタル化し、システムにアップロードすることである。「2023-2024中国100貨小売業発展報告」(中国百貨商業協会 2024a)によれば、サンプル企業の6割近くのEC化率は10%未満にとどまっている。それに対して、24年の銀泰百貨店のEC化率は約25%となっており、飛び抜けて高い水準だといえる。百貨店のオンライン販売を阻害する要因の一つは商品情報をデジタル化する際の高いコストだ。銀泰百貨店は四つの段階を経て、商品情報のデジタル化の効率性を高めてきた(中国百貨商業協会 2024b)。

 第1段階の17年は自主撮影が中心であり、すべて人力に頼っていたため効率が悪く、1日に撮影できる商品は30点が限界であった。とはいえ、この段階では作業フローのプロトタイプを確立することができた。

 第2段階の18年から19年にはオンライン販売を導入する店舗の拡大に伴い、効率化がますます重要となった。そこで、複数の指標から商品を評価し優先順位をつけて商品情報のデジタル化を実施した。また従来のデジタル化チームに加えて、販売員と店舗にも自ら商品の撮影などを行ってもらうようになった。

 第3段階の19年から22年にはブランド側とのERP(企業資源計画)システムとの連結を実現することで、撮影などの負担を大幅に減らし、より効率的に全面的な商品情報のデータベースを構築することができた。

 そして23年から今日に至っては、AIGCを活用することで、カメラマンを必要としない自動撮影、商品細部の自動修正や切り抜き、AIによる仮想モデルおよび顔交換や背景の変更などを効率的に行っている(図2参照)。以前は商品1点のデジタル撮影に、撮影、修正、切り抜きで平均3日かかっていたが、現在は同じ作業が20分で完了する。その結果、商品が旬のうちに迅速にシステムにアップロードされ、ミャオジエなどのオンラインチャネルでの販売が可能となる。しかも、そのコストは従来の4分の1に抑えている。

図2自動撮影       商品細部の自動切り抜き   仮想モデル合成写真の自動生成    

出所:銀泰百貨店より提供

 AIGCの活用によって、大幅な効率アップとコスト削減を実現したため、銀泰百貨店の商品情報のデジタル化は9割程度が完了している。そして、25年1月現在、銀泰百貨店の商品データベースには数千万点規模の商品データが蓄積されており、オンラインとオフラインで販売している商品数は数百万点規模に達している。

デジタル化に関連する商品・サービスの商業化

 銀泰百貨店は17年より本格的なDX化を推進し、デジタル技術を活用した様々なツールを開発し、少数の店舗での実験と改善を重ねてから、全店舗への導入につなげてきた。

 これまで言及した各種ツールの他に、AIカメラや小売業の運営を全面的にサポートするオペレーションシステムなど、様々なツールが銀泰百貨店で実用化されている。これらのツールを開発したのは銀泰百貨店傘下の二つのIT会社(蓮荷科技と深象智能科技)である。銀泰百貨店は自社のDX化で蓄積した知識・ノウハウを活用し、それらを商業化することで、伝統的小売業のDX化をサポートしようとしている。つまり、傘下のIT会社を通じて、銀泰百貨店はカスタマーソリューション・プロバイダーとしての事業拡大も図っており、その動きにも今後目が離せない。

参考文献
中国百貨商業協会(2024a) 「2023-2024中国百货零售业发展报告」、http://www.ccagm.org.cn/download/9215.html、2025年1月18日閲覧。
中国百貨商業協会(2024b) 「银泰百货商品数字化的四个阶段」、http://www.ccagm.org.cn/bg-yj/9257.html、2025年1月18日閲覧。

 

著者:秦小紅(左、共立女子大学ビジネス学部専任講師)、成田景堯(右、松山大学経営学部准教授)