フランスを拠点とする大手小売グループのカルフール・グループは、同社が67.4%の株式を保有するブラジル子会社グルーポ・カルフール・ブラジル(以下カルフール・ブラジル)の少数株主が保有する発行済株式をすべて取得し、サンパウロ証券取引所(B3)からの上場廃止を行う計画を発表した。取引は2025年第2四半期末までに完了する予定で、カルフール・グループはブラジル事業を完全子会社化する。

 カルフール・ブラジルは、同グループにとって極めて重要な資産である。同社は近年、マクロやグルーポ・ビッグなどの現地大手を買収し、成長してきた。カルフールは完全子会社化によって意志決定のスピードを上げる戦略だが、背景にはブラジル農業界との摩擦もあると考えられる。

 昨年11月にカルフールのアレクサンドル・ボンパールCEOが、フランス国内において南米(メルコスール)産の牛肉を排除するとの趣旨の発言をSNS上で行い、物議を醸した。メルコスールはブラジル、アルゼンチン、ウルグアイ、パラグアイなど南米諸国による地域経済連合であり、EUとの自由貿易協定(FTA)締結が検討されている。しかし、フランスを含む欧州連合(EU)域内では自国農業への影響や環境保護に対する懸念が強まっており、特にフランス国内ではメルコスール産農産物の流入に対する抵抗感が根強い。カルフール・グループはフランスとブラジルの双方で大規模に事業を展開しているだけに、両国農業への姿勢が世界の注目を集めている。

 一方で、カルフール・ブラジルの上場廃止計画そのものは、同国内での強い市場地位を背景に推進されている。少数株主に提示された買い取り条件は、株式1株あたり7.70レアルの現金や、カルフール・グループ株式との交換など複数の選択肢を設けており、公正性を検証する独立委員会とカルフール・ブラジル取締役会は本取引を妥当と評価している。取引完了には、2025年第2四半期に開催予定の臨時株主総会での承認が必要だが、この手続きが進む中でブラジル農業界との摩擦が解消されるかどうかも注目される。

 カルフール・グループは世界40カ国以上で約1万4000店舗を展開し、2023年の売上高は941億ユーロに上る。ブラジル事業の強化を図りつつ、フランス国内での農業保護や環境への配慮をアピールしたい思惑もあるだろう。だが、ブラジル側の反発など紛争の着地点は不透明であり、カルフール・グループが両国の利害をどう調整していくかが試金石となる。