トライアルカンパニーが生鮮の品質を向上させている。従来のイメージから一新、お客に支持される安くてよりおいしい様々なメニューを揃えるようになった。それを支える店舗の製造現場では、ウェブ管理システムを活用し、全店で衛生状況を毎日データで記録し、本部で衛生管理の一元化を可能にした。データを活用した取り組みについてトライアルカンパニー常務執行役員 商品本部の笹渕勝 生鮮グループリーダー(冒頭写真右)と、サラヤサニテーション事業本部 感染予防・食品衛生サポート部の砂川晃一統括部長(同左)に話を聞いた。

グループ企業のエッセンスを取り込みメニューを広げる

 ――ディスカウントストア(DS)の全国出店を加速されているトライアルカンパニーですが、まず御社の事業展開について教えてください。

 笹渕 トライアルは祖業の1つにITをもち、「ITで流通を変える」という思いのもと、リテールDX事業と流通小売事業の両軸で事業を行っています。小売事業の分野においては、福岡県を拠点に、“あなたの『生活必需店』。”というスローガンのもと、全国に約300店舗のディスカウントストアを展開する流通小売企業です。食品を中心とした総合品揃え型のディスカウントストアで、衣食住に関わる様々な商品を1店舗で揃えられるワンストップショッピングを提供しています。また、四つのマルチフォーマットで効果的に運営し、ローコストオペレーションをすることで、エブリデーロープライスを実現しています。

 ――加工食品に比べ取り扱いの難しい生鮮を扱う上で、衛生面で注意していることはありますか。

 笹渕 当社が最も意識していることは安心・安全が担保された食の提供です。2021年のHACCP制度化を見据え、プロセスセンター(PC)でISO22000を取得し店舗でも、19年からHACCP制度化への対応を本格的に開始しました。その時にHACCPの知識を深めるため、知識と経験を豊富に持つ衛生業界大手のサラヤさんのHACCPセミナーを受講。セミナーを通じて当社の知識不足や運営上の管理システムの必要性をよく理解できました。

 砂川 トライアルカンパニーさんはシステム会社が祖業ということもあり、すでに衛生管理のデータ化もかなり進んでいました。HACCPへ対応するには運用中の一般衛生管理項目でカバーできていないルール・基準の構築や記録管理による見える化を行うなどの実践が必要であることをご提案しました。

知識を積み重ねた人材がツールを使って衛生管理を徹底

 ――多店舗運営で全店舗に衛生管理を徹底することの課題はありましたか。

 笹渕 19年当時すでに当社は240店舗を超え、従来の紙を使ったチェックシートで本部が管理するのは難しい状況にあった。そこでサラヤさんが開発した衛生情報をウェブ上で一元管理する「GRASP」(グラスプ)を19年7月から使い、現場に配備したタブレットで日々の衛生点検結果や記録を入力できるように全店切り替えました。GRASPは全店の記録や衛生状況を一元化、それを本部でリアルタイムに把握でき、ビジュアル化、データ化が簡単に実現できます。毎日の現場オペレーションの中で発生する問題に対しても、もっとわかりやすく使い勝手が良くなるように順次バージョンアップして利便性も非常に上がっている。サラヤさんには現場レベルで様々なサポートをしていただきました。

 砂川 そうですね。当社の食品衛生インストラクターが全店舗の衛生調査を実施、衛生管理の問題点を明確にしています。その内容はGRASPで全店および本部に共有されます。問題点の改善状況を見える化し、現場改善へつなげていくことができます。GRASPは衛生管理のツール(道具)であり、それを有効活用するには現場の方々への落とし込みが重要です。そこで当社が衛生調査訪問時に現場説明を実施。そのほか作成した動画でもサポートできるようにしました。

GRASPの中心温度記録で加熱後食材の芯温を測定
タブレット端末でGRASPによる点検を実施している

 ――GRASPを全店に普及させる上で苦労した点は。

 笹渕 前述の通り240店舗を超え、合計部門数は960カ所以上もありました。現場のASさん(パート)は衛生への意識もバラバラで年齢も幅広い。当初はタブレットに入力できない方も多かった。またASさんは日々の作業量が多く、衛生は後回しになりがちです。なのでまずは衛生管理の必要性を理解してもらうことから始め、GRASPの利用を習慣化してもらい、衛生管理の徹底化を図りました。

 ――御社ならではの活用方法を教えてください。

 笹渕 そこで、まず必要となったのが衛生管理の基礎知識を学ぶ事前学習です。当社の人材育成の考え方は積み木を重ねるイメージです。具体的には、基礎の知識と技術の上に、専門の知識と技術があり、さらにその上にマネジメントができる優秀な人材が育つわけです。1人ひとりが基礎の衛生知識や商品知識をしっかり習得することで生産性は高められます。当社では6項目の衛生の資格制度を設定、その資格を取得するとASさんの時給も上げ、高く評価します。基礎の知識や技術を持つASさんがGRASPを運用することで、実行精度のバラつきを改善して平均値をアップ。評価制度と組み合わせた資格制度運用によって、個人の力量もアップさせ組織全体の生産性も高め、GRASPの入力率も直近でほぼ100%を達成しています。

 砂川 トライアルカンパニーさんはGRASPを積極的に活用され、入力率も非常に高い状態を維持されています。年々店舗数を拡大されていますが、当社の衛生調査結果スコアも上昇しています。急な店舗数拡大によって人材育成が追い付かないケースがよくありますが、トライアルさんは独自の社内資格制度が有効に機能しています。資格制度によって衛生管理の必要性を理解してもらい、現場の方々が自発的に行動する習慣化につながっています。そこでトライアルさんの資格制度に対して、当社がの持つ衛生の知識やノウハウ、知見を出しながら、最新の法令改正などに照らし合わせて刷新していけるようサポートしていきます。

 笹渕 店舗での人手不足への対応では、床面清掃作業の省力化に向け、配管から自動で泡が出て洗浄・すすぎまで行うサラヤさんの「フォーミングクリーンシステム」をテスト導入中です。惣菜部門ですでに5店舗に導入しており、新店から順次導入しています。実際に導入店舗では既存店と比較して人時生産性が高まることを確認できました。

笹渕勝 トライアルカンパニー常務執行役員 商品本部 生鮮グループリーダー

データの活用を衛生管理の領域からさらに広げる

 ――PCや関連工場の衛生管理は。

 笹渕 PCやPBの水などを製造する工場の一部では、ISO22000を取得していますが、店舗よりも多くの記録が必要となります。記録の信頼性向上や省力化を目指して、新たに顔認証カメラと手指消毒用アルコールディスペンサーを一体化させたサラヤさんの「プロテゲート」を使った個人衛生記録システムの導入を始めました。当社はPCを相次いで新設していることから、PCの責任者を集めてHACCPについてサラヤさんに研修会を実施してもらうなどの教育を進めています。

 砂川 人手不足を受け、全国の小売業で省力化が求められていることから、PCの位置づけは年々高まっています。ですが、肝心の川上のPCの衛生管理ができていないと川下の店舗にも大きな影響を及ぼします。店舗の衛生管理以上に、工場の衛生管理はより重要だと考えています。そこでGRASPと連携した個人衛生記録のデータ管理を提案しています。

砂川晃一 サラヤサニテーション事業本部 感染予防・食品衛生サポート部統括部長

 ――今後の衛生管理の取り組みは。

 笹渕 衛生管理以外にもGRASPの活用の幅を広げていきたい。GRASPに入力されたデータを他のシステムと連携できれば、より発展性は広がります。衛生管理の枠内にとどまらず様々なデータと連携を可能にする展開を期待しています。

 砂川 トライアルカンパニーさんではGRASPを衛生管理にとどまらず、最近では店舗運営への利用など幅広く活用いただいています。GRASPをさらに発展拡大させて、小売業全体の衛生向上に貢献していきたいと考えています。(本誌・北村健史)