10年後には20~30代となり、経済活動の主役へと躍り出る「Z世代」。これまでの世代と全く異なる価値観、消費の特徴を持っているといわれ、アプローチは容易ではない。本連載では、Z世代にホットなモノ・コトを取り上げ、展開する企業の戦略や、なぜZ世代に刺さっているのかを調査。見えづらいZ世代のニーズや生態を掘り起こすとともに、 若年層から巻き起こる“ニュートレンド”が、今後の生活や消費の“ニュースタンダード”になり得る可能性を探る。

ノンアル・低アル専門のバーをオープン

 東京・渋谷のセンター街。名物のアーチ型看板をくぐって少し行くと、瀟洒なガラス張りの建物が見えてくる。その名も「SUMADORI-BAR SHIBUYA(スマドリバー渋谷)」。店名や佇まいからは想像しにくいが、実はアサヒビールが肝煎りで始めたプロジェクトだ。

 スマドリとは「スマートドリンキング」の略。お酒を飲む人も、飲まない人も、気兼ねなく好きなドリンクを楽しめる「飲み方の多様性」を表す概念だ。アサヒビールはこれを2020年12月に提唱。22年1月には電通デジタルと共同出資でスマドリ社を発足し、このスマドリをリアルに体験できる場として22年6月にスマドリバー渋谷をオープンした。

 スマドリバーのコンセプトは「飲めても飲めなくても、みんな飲みトモ」だ。ドリンクは基本0%、0.5%、3%からアルコール度数を選べるようになっている。飲む人、飲まない人が度数を変えて同じドリンクを注文できるなど、それぞれの楽しみ方でその場を同じように楽しめる工夫を凝らす。もちろん生ビールやワインの品揃えもあり、無理をしたり、気を遣い合ったりすることなく、“みんなが主役”となれる今までにないバーとなっている。

スマドリバー渋谷

Z世代は「酔いたくない、失敗したくない」? 

 ではなぜ、お酒を売るアサヒビールが「飲めない人」「飲まない人」にもフォーカスを当てたのか。それは従来ターゲットとしていた「飲む人」が、もはや社会の少数派であると気づいたからだ。同社の試算によると、日本の20~70代約9000万人のうち、お酒を日常的に飲む人はわずか2000万人にとどまった。飲めるけど飲まない、そもそも全く飲まない人は計5000万人にも上り、残りの2000万人も「家飲み」や「外飲み」が月1回未満という、ほとんど飲まない層だったのだ。

「私はお酒が好きだし、アサヒビールの社内の人間も、プライベートの友人もお酒好きばかり。だから自分が実はマイノリティーなのかも、とその時ようやく気づかされた」。スマドリ社の元田済取締役CMOは調査時の驚きをこのように語る。しかし体質的に飲めない人は別として、飲めるのに飲まない人が持つインサイトとはどんなものか。元田CMOは以下のように説明する。

「一つは今、世界的な潮流として、健康のために適正な量の飲酒を振興していきましょうという波がある。アルコール飲料の度数もどんどん下がっていて、『たくさん飲んで酔っぱらう』ということが減っていくのはもう不可逆な動きと感じている。そしてもう一つ、欧米のZ世代が取り入れ始めた『ソバーキュリアス』という考え方もじわじわ広がりを見せている」

「ソバーキュリアス」とは、ポジティブな気持ちであえてアルコールを飲まない選択をするライフスタイルのことだ。しらふでいることで「趣味などの自分時間に没頭できる」「朝スッキリ目覚められる」など、合理的なメリットから自分らしい選択をするのが特徴だ。

 元田CMOは、日本のZ世代にもこうした考え方が広がっていると指摘する。そもそもZ世代の飲み会は、みんなで酔ってわっと盛り上がるというより、画像や動画を撮り合い、それをSNSに上げたり、反応を見ながら楽しむのが一般的という。「べろべろに酔っぱらうとそれに参加できないし、下手なことをしたら記録が残ってしまう。酔いすぎたくない、失敗したくないという考え方が強い」のだ。

 スマドリの概念を提唱した後、アサヒビールは飲む人、飲まない人を超えた需要の取り込みに向け、アルコール度数0.5%のビールテイスト飲料「ビアリー」を発売。また酒類の成分表示に「純アルコール量」を表示するなど、体質や気分に合わせてドリンクを選択できる環境づくりを進めてきた。その中で昨年スマドリ社を発足したのは、元田CMOが語ったような新しい考え方を持つ20~30代の若年層、お酒のエントリー層にアプローチし、スマドリの概念を広げるためだ。そうしてスマドリ社の第1号事業となったのが、スマドリバーのオープンだった。

元田済取締役CMO

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