10年後には20~30代となり、経済活動の主役へと躍り出る「Z世代」。これまでの世代と全く異なる価値観、消費の特徴を持っていると言われ、アプローチは容易ではない。本連載では、Z世代にホットなモノ・コトを取り上げ、展開する企業の戦略や、なぜZ世代に刺さっているのかを調査。見えづらいZ世代のニーズや生態を掘り起こすとともに、 若年層から巻き起こる“ニュートレンド”が、今後の生活や消費の“ニュースタンダード”になり得る可能性を探る。
Z世代の大学生は「出席票に名前を書くペンがあれば事足りる」?
「自分の字は好きですか?」
そんな語り掛けから始まる、ユニークな特設サイトがオープンした。筆記具メーカーのパイロットコーポレーションが展開する「じぶんの字がキライな人のための文具店」だ。筆記具市場では、美しく整った字、いわゆる「美文字」を訴求した商品の人気が根強い。そんな中、このサイトは「あなたの字は、あなたの個性」「ありのままの自分の字を愛そう」と高らかに謳い上げる。不思議にポジティブなメッセージが今、Z世代の心を捉えている。
「私自身も左利きで、自分の字があまり好きじゃない。そういう気持ちを抱えている人ってきっとたくさんいるんじゃないかと思った」。本企画の着想について、プロモーション企画課の木村竜平主任(冒頭写真)はこう振り返る。「じぶんの字がキライな人のための文具店」は、パイロットの独自技術「シナジーチップ」を採用したボールペンの販促プロモーションだ。新大学生、新社会人といったZ世代のフレッシャーズに向けて商品を打ち出すに当たり、木村主任はある仮説を立てた。現状Z世代の多くが、自分の字や手書きすることに対して苦手意識を持っているのではないか。ならばそれに寄り添い、手書きの良さを知ってもらうことで、商品の良さも知ってもらえるのでは、と。
仮説は後にデータで裏付けられた。パイロットは今年2月、Z世代(19~25歳の大学生・社会人)200人を対象に「文字を書くことに関する調査」を実施。その中で「自分の字や手書きすることが好きか」と尋ねたところ、「嫌い」の回答が16%、「どちらかというと嫌い」の回答が29%に上り、半数近くが自分の手書きの字を嫌っていることがわかったのだ。
同じ調査では、文字を書く頻度が少ない人ほど、自分の字が嫌いな傾向にあることもわかった。木村主任は、Z世代の筆記具の使用頻度について、「高校を卒業し、大学生になった途端にガクッと落ちる傾向がある」と指摘する。今や中高生ですら板書をスマホで撮影して済ませる時代。大学ではパソコン持参の講義も一般化している。木村主任が話を聞いた大学生の中には、「筆記具は出席票に名前を書くペンが1本あればそれで事足りる」と言う人もいたという。
手書きの機会が減ることで苦手意識が強まり、手書き離れが一段と進みかねない。その悪循環を食い止めるためにも、Z世代のコンプレックスに寄り添い、手書きの良さを伝えるアプローチが今こそ必要だったのだ。
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