2025年稼働予定の新センターで「食」のプラットフォームを構築

 3PL事業者の丸和運輸機関を傘下に持つAZ-COM丸和ホールディングス(HD)が製配販の新たな流通モデルの構築に乗り出した。この中核を担うのが2025年4月に稼働予定の食品物流センター「AZ-COM Matsubushi」(仮称、松伏センター)だ。敷地面積約3万5000坪という広大な松伏センターは、埼玉県松伏町に立地し、A棟とB棟の2棟で構成。この中のA棟が25年4月から先行して稼働する。

 松伏センターが担う新たな流通モデルは製配販の垂直統合と水平連携両方の提供。垂直統合では、メーカー、卸、小売りそれぞれに個別最適化されている物流の全体最適化を図る。現在、小売り各社の物流センターは各地に点在、距離も離れているため、メーカー、卸の物流はセンター間の横持ちが多い。これを松伏センターで複数メーカーの在庫を一括管理し、メーカー、卸物流の配送の稼働率向上と物流コストの低減を進める。

 食品スーパー(SM)は単品ごとに小ロットで発注しているため、受注する卸やメーカーは各SMのセンターへの輸送や受発注業務に無駄が生じている。メーカー、卸の受発注業務の負荷軽減を図るため、水平連携では松伏センターにメーカー数社、SM数社のセンターを誘致する計画だ。それによって松伏センターでSMのシェアリング在庫の管理と需要予測を行い、メーカー、卸に対して適正な在庫補充の量とタイミングの情報を提供していくことになる。丸和運輸機関の谷津恭輔ソリューション営業部部長は、「松伏センターの一つの建物内に複数メーカーと卸の在庫、複数SMの物流を集約することで食のプラットフォームを構築したい」と意欲を示す。

国内外に拡大する産直支援のネットワーク

 25年の松伏センター稼働に向けて、青果産地とSMをつなぐAZ-COM丸和グループ独自の産直支援サービスである「鮮度直」も強化を図る。現在、提携産地を拡大中だ。その一環が今年4月、AZ-COM丸和HDの丸和運輸機関と熊本の青果市場を運営する熊本大同青果の業務提携の締結だ。この提携で、熊本大同青果は物流の人手不足が深刻化する24年問題への対応と、関東、関西への生鮮食品供給と販路を拡大。丸和運輸機関は熊本大同青果と共同で関東・関西エリアへの商品提案を行うことで、産直支援の強化が図れる。

丸和運輸機関の和佐見勝社長(右)と熊本大同青果の月田求仁敬会長

 また丸和運輸機関が鮮度直を通じて各地の産地と構築したネットワーク「産直プラットフォーム」に熊本大同青果が加わるほか、従来から関係がある青果市場との提携も強化する。北海道産農産物では昨年、トウモロコシ8万本を取引先のSM8社に供給。朝収穫したトウモロコシを21年に業務提携を締結したANAグループの貨物事業会社「ANA Cargo(ANAカーゴ)」が空輸し、当日夕方にSMの売り場に展開。昼までに収穫したものであれば翌朝には売り場に並べるようにした。これを「25年には20社に25万本、500店舗相当まで拡大させたい」(谷津部長)考え。

ANAカーゴと提携した北海道産農産物の空輸はトウモロコシのほか、アスパラガスなどにも広げている

 丸和運輸機関では空輸に加え、同じグループ会社の丸和通運が保有するクールコンテナにより、鮮度を保った輸送が可能だ。丸和通運を通じて提携するJR貨物の鉄道輸送もさらに拡大し、25年までに全国47都道府県すべての産地との連携を目指す方針だ。

 また、輸入青果物の取り扱いを得意とする港湾物流の上組(神戸市)と昨年9月に業務資本提携を締結。日本に輸入されるバナナの大半を取り扱う上組は、全国の主要な港に冷凍・冷蔵倉庫を多く配置し、海外産地からのコールドチェーンを確立している。上組、丸和運輸機関との連携で、海外から果物を仕入れているSMの商品調達の幅も広がる。また国内の産地とは、上組を通じて農産物の輸出も視野に入れている。AZ-COM丸和グループは松伏センター竣工による物流機能強化、国内外への産直支援の拡大を推進し、産直プラットフォームをより強化なものにする構えだ。

昨年9月に業務資本提携を締結した上組は、海外産地からのコールドチェーンを確立している

DXも積極的に推進、充実した労働環境を整備

 現在建設中の松伏センターは、地上5階建てのA棟の1階が冷蔵、2階が冷蔵と冷凍、3~5階がドライ商品のセンターとなる。周辺には、埼玉県八潮市と春日部市を結び、東北自動車道と常磐自動車道にもつながる東埼玉道路が開通予定。東京都心から25km圏内にあることから、首都圏のSMには松伏センターから約1時間程度で商品を届けることができるようになり、東京都内への共同配送拠点、並びに全国からの中継地点としての役割が期待される。

 例えば、東北地方の農産物は東京・大田市場を経由してから群馬や栃木、茨城の北関東地域に届けられているが、松伏センターを経由することで往復物流がなくなり、コスト面での優位性とともに鮮度がより良い状態で届けられる。東北や関東から関西、九州などの消費地、またその反対の流れについても、コールドチェーンが確立した松伏センターで結ぶ予定だ。

 さらに、物流でのDXもサポートする。青果物流の現場では情報のやり取りはアナログ的な手法で行われており、手続きが煩雑で効率化が求められている。AZ-COM丸和グループは経済産業省や農林水産省が主導する「生鮮物流の共同配送事業のサプライチェーン強靱化計画」「生鮮食料品などサプライチェーン緊急強化対策」などに参画するほか、フィジカルインターネット構想やホワイト物流にも取り組んでおり、松伏センターでは青果の新たな仕分けシステムの導入を計画している。庫内作業については、最新鋭のマテハン設備の導入や、作業状況の管理システムで作業時間などをデータで可視化し、効率化による作業者負荷の軽減と安全性向上で、充実した労働環境を整備する方針だ。

 DXの推進はドライバー不足への対応にもつなげる。配車や要員計画は、現在経験やノウハウを持った担当者が作成するが、その精度は、担当者の経験によりばらつきが出てしまう。これをAIによる作業量予測に基づき、属人化による弊害の解消を図る。谷津部長は「蓄積された過去データに、天気や道路の渋滞といった変動要因を組み合わせた配車を目指すほか、バース管理システムの導入も検討する」として、ドライバーのバース待ちの解消も目指す考えだ。

 松伏センターの機能は物流に関するものだけではない。免震構造の建物を活用し、災害対策として、A棟の5階にBCP対応倉庫を併設。災害対策協定を締結している周辺自治体の避難所へ食品などの供給も可能となるほか、太陽光パネルや大型自家発電機を設置していることもあり、災害時の電力供給など万全を期している。人材面では、外国人労働者の確保、育成にも注力する。センターの敷地に1000人が入居できる社員寮も建設し、多様な外国人を幅広く受け入れ、アジア圏でのコールドチェーンづくりも視野に入れている。

 松伏センターは垂直統合・水平連携による効率化、DXの推進・導入、BCP対応による社会貢献など持続可能な新しい物流センターとして、国家プロジェクトである「SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)」の一つ、「スマート物流サービス」実装モデル第1号を目指していく。

(左から)丸和運輸機関のソリューション営業部の村上和智主任、谷津恭輔部長、小田桐鈴氏、友永翔哉係長

(冒頭写真 2025年4月に稼働予定の食品物流センター「AZ-COM Matsubushi」)