個別最適化された物流をつなぐ役割を提供

 「オープンシェアリング」の推進で、物流の効率化を進め、人手不足解消、環境負荷軽減に貢献する――。

 物流用パレットのレンタル事業で業界トップを誇る日本パレットレンタル(JPR)は、昨年12月1日の創業50周年を機にオンラインセミナーを開催。「企業・業界を超えた標準化・共同化で実現するDX」と題したテーマで新たな取り組みを打ち出した。

 同社が提唱する「オープンシェアリング」とは、これまでレンタルパレットの事業で構築した物流インフラをユーザーであるメーカーや卸、小売り、さらには同業者にも公開、共同利用を推進しようというものだ。

 JPRでは、全国60カ所にデポと呼ばれるパレット倉庫を設置、100社以上の運送パートナーからなる空パレットの回収機能によって、年間4800万枚のパレットの保管から整備・メンテナンス・貸し出し・回収までを行う仕組みを構築してきた。「オープンシェアリング」は、この仕組みを構成する機能を外部に開き、より広い範囲で物流の最適化を図るのが狙いだ。

 同社がこうした取り組みを進める背景には、物流を巡る問題がある。物流業界では、人手不足が常態化しているうえ、ドライバーの高齢化、さらに2024年4月にはドライバーの時間外労働の上限や割増金が適用されることもあり、担い手不足の深刻化は確実視されている。加えて、世界的に環境負荷軽減が求められ、トラックの排ガスをはじめとするCO₂排出削減も待ったなしの課題だ。JPRの新井健文執行役員・事業開発部管掌は、「人手不足や環境負荷の軽減といった課題の解決には、多企業間の協業によって全体最適化を図ることが有効だ」と指摘。全体最適に貢献する仕組みとして「オープンシェアリング」を提案している。

パレットの保管・整備機能や回収のための運送機能を提供する

 新井執行役員によれば、「課題解決のためには、メーカー、卸、小売りという垂直方向はもちろん、同業のメーカー同士、卸同士というように水平方向で、パレットや運送などのリソースをシェアすることがカギになる」という。理由は、いずれの企業も多数の取引先との物流を有しているからだ。しかし、多企業間で使用するパレットやそれを運用する仕組みを一から構築することは容易ではない。そこで、JPRは、パレット事業を通して構築したロジスティクス機能やIT機能を外部に開く「オープンシェアリング」を推進しようというのだ。

 この事業は、すでに一部の同業者と回収の共同化という形で試行している。パレットユーザーにも好評で、「これまで、パレットのサプライヤーごとに異なる回収日に合わせて返却作業が発生していたが、1社がまとめて回収することで返却作業の手間が大きく減ったという喜びの声が寄せられている」と、新井執行役員は手応えを語る。今後は、パレットの管理を自社の倉庫管理のシステムと連携させたいというニーズも多いため、パレットを基盤にしたソフトやネットワークを活用して他社のシステムとも連携していく考えだ。

 このほか、物流全体の最適化の方策として、「TranOpt(トランオプト)」という共同輸送のマッチングサービスも提供している。同社では、もともと業種、地域ともに多様なパレットの利用者を有していたことから、荷主同士を引き合わせ、共同輸送につながる機会が増えていたという。そこで、マッチングサービスの構築を企画。群馬大学との産学共同研究で、AIが経路、想定運賃や荷量の需給・季節変動などを考慮したマッチングシステムを開発した。往路・復路の組み合わせに加え、三つの経路を結ぶマッチングや同一経路で混載の相手を探すマッチングなどの機能を実装し、21年にサービスを開始。今では従来の取引業界を越え、14業種、100社が利用しており、システムがマッチングする実車率は93%を達成。環境面の効果も期待されている。

パレットの共同利用は自社パレットの利用に比べCO2排出量を76%削減する
効果があるとの研究結果もある

会社設立の哲学とノウハウで物流の課題解決に挑む

 新井執行役員は、「もともと当社は、パレットの標準化・共同利用による物流の効率化を目指して設立されたことから、物流全体の最適化はフィロソフィーとして社内に根付いている。また、パレットのレンタル事業を通じ、加工食品・日用品業界を中心に企業・業界の枠を超えたパートナーと信頼関係を構築してきたことから、現場の状況に即した解決策も提案できる」と自信を示す。ただ一方で、「まだ、当社がパレットのレンタル専業だという認識も少なくない」と指摘。設立50年を機に改めて「オープンシェアリング」という名称で、パレットや運送機能、さらにそれらの運営・管理の仕組みも含めた物流全体の最適化を進める会社であることを打ち出したのだ。新井執行役員は、「今や人手不足対策、環境対策は待ったなしの課題。我々をこうした課題を解決するパートナーとして認識していただき、同業他社や取引先同士のつなぎ役として活用していただきたい」と、大きな期待を寄せている。

新井健文執行役員・事業開発部管掌