脱炭素、プラスチック削減、食品ロスの低減――。様々な社会問題に対して、小売業はどう向き合っていくのか。社会貢献の責任者であるイオンの三宅香 環境・社会貢献担当(写真左)と、セブン&アイ・ホールディングスの釣流まゆみ 執行役員経営推進本部サステナビリティ推進部シニアオフィサーの二人に、現状の課題認識や取り組み、さらに両社や業界をあげた連携の可能性について語ってもらった。

――気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の最新報告書では、温暖化の原因が人間の活動にあると断定されました。これをどう受け止めましたか。

 三宅 今までも、もしかしたら人間の活動によるものかもしれないという指摘がありましたよね。ですのでそれ自体に驚きがあったわけではありません。ただ今回のレポートでは温暖化のスピードに対する危機感が強調されていました。企業としてもそれに対して答えを出していかなければならないと、ひしひしと感じています。

 釣流 私達この7月にようやくの思いで中期経営計画を発表させていただいたのですが、まさにそのタイミングでIPCCの報告がありまして、いま事業会社と中計でどれだけのことができるかを詰めているところです。私達は環境宣言「グリーンチャレンジ2050」で2050年までに達成する具体的な目標を掲げているんですが、50年では温暖化の速度に間に合わないということで、どれだけ前倒しできるかを話し合っています。

 ――近年は水害が毎年発生するなど、かつてない変化が起きています。事業に影響は出ているのでしょうか。

 釣流 本当にこれが日本なのかと思うような大雨が降るようになりまして、東北のヨークベニマルでは店舗が浸水することもありました。セブンイレブンの店舗はオーナーさんにとって生活拠点でもありますので、これも維持できるかどうか心配です。一方で、オーナーさんはご近所の方々が被災されたら放っておけないでしょうし、私達も地域の方々が困っている時にはお助けに動きます。そうしたライフラインとしての役目も責任もございますので、これから何をするべきなのか、真剣に考えていかなくてはなりません。

 三宅 気候変動への対策には、これ以上悪くならないようにする「緩和」と、目の前の災害に対処する「対応」の二つの側面があると言われているんですね。気温が産業革命前の状態に戻ることはないと考えられていますので、この先も災害と向き合っていかなくてはいけない。2年前に大きな台風がいくつか直撃しました。お店は水浸しであのときは本当に大変だったのですが、昨年もものすごい大雨や台風が来ました。何度も痛い目に遭いながら、災害の被害をより最小化する取り組みを続けているのですが、地域の生活を守るためにはどうしたら良いのか、それを改めて考えさせられる数年間だったと思います。

 ――今のお話の「緩和」という視点では、両社とも脱炭素の長期目標を掲げています。

 釣流 私達は2050年までにCO2排出量を実質ゼロにする目標を掲げています。これを省エネ、創エネ、再エネ調達の3本柱で進めていくのですが、まずは省エネですね。もう1度原点に戻ってやるべきと思っていまして、昨年11月にオープンした東京都青梅市のセブンイレブンでは、13年度比で4割減の省エネを実現しました。例えば入り口の開閉による店内の温度変化を防ぐ正圧化という技術を取り入れたり、冷凍冷蔵ケースの埃を自動で掃除してくれる機能を取り付けたり。しっかりお掃除することで、冷凍冷蔵の効率が下がらないようにしているんです。他にも様々な取り組みの積み重ねで実現したんですが、従来の建設コストに見合うものにできそうですので、今後出す新店では省エネ効果の高い店作りを進めていきます。

 ――創エネはどのような政策に取り組んでいるのですか。

 釣流 これはイオンさんも取り組んでおられますが、太陽光パネルを設置していきます。現在セブンイレブン8000店に載せさせていただいているんですが、この数をもっと増やしていきます。同時に発電容量をより大きなものに変えることで、再エネによる店舗の運営時間を延ばしていきたいと考えています。

 三宅 私達も太陽光パネルは設置していくのですが、大型商業施設ですので消費電力が多く、とてもそれだけではまかないきれません。ですので軸足はクリーンな再生可能エネルギーの調達に置いています。目標は2025年までにイオンモールが運営する大型商業施設で再エネ100%化、30年までにはイオンリテールなどを含む中型の商業施設で再エネ100%化を掲げています。そうすることによって、当初は50年までにとしていたカーボンニュートラル化を10年前倒ししていきたい。これはものすごくハードルが高い話なんですが、急がないといけないという危機感のもと、社内では動いています。

イオン環境・社会貢献担当の三宅香氏

 ――再エネを拡大するに当たっての課題はなんでしょうか。

 三宅 一番はコストが高いことですね。世界を見渡しても日本は圧倒的に高いんです。

 釣流 脱炭素はアメリカでも進めているのですが、再エネの調達価格は日本と比べて圧倒的に安いです。

 三宅 ですよね。それと日本では再エネが買いたくても買えないのが現状です。要は足りないんですね。それは生み出していただくしかありませんので、セブンさんがオフサイトPPAを始められましたけど、電力の需要家側である私達から動いていかないと達成できないんだろうなというふうには思っています。

 釣流 オフサイトPPAはNTTさんとご一緒させていただきまして、NTTさんが設置した太陽光パネルで生み出される再生エネルギーを私達が買い取ることで、セブンイレブン40店を再エネ100%に切り替えたんですね。

 三宅 あの大規模な太陽光パネルはすごくインパクトのあるニュースでした。私達もああいったことをしていきたいですし、加えて消費者の皆さんをもっと巻き込むことも必要だと考えています。私達は中部電力さんと一緒になって、お客様がご自宅で発電された余剰電力を買い取らせていただいているんですけど、今後はお客様と私達が地域の電力を融通し合うという絵が描けないかと思っていまして。例えば災害で停電になった際には私達の電気をその地域で使っていただくような。お客様との接点の中で、そういったことができるのは私達しかいないと思っているんです。

 釣流 電気はまさに一企業だけの話ではないですよね。お客様もこれから再エネコストを負担いただくことになるんだと思います。であれば、日本全体で使用電力量を下げたり、再エネでまかなえるようになったりすると良いですし、なにより小売業にそれが求められているんだと思います。ですのでどこまで取り組めるか。2030年はあっという間に来てしまいますので。

 三宅 50年もあっという間ですよね。

社会全体でコストを少しずつ引き下げたい

 ――プラスチックの使用量をいかに抑えていくかもこの先の大きなテーマです。

 三宅 電気と同じですが、取り組みの一丁目一番地は減らすということです。日本はシングルユースと言って、石油由来のプラスチックの一人当たりの使い捨て量が世界で見ても多い国の一つなんですね。ですので過剰包装の見直しは随時行っていかないといけないと思います。ただ、それでも使用量をゼロにはできません。食品衛生上の問題などで、使わなきゃいけないものもあるんですね。それらはリサイクルするか、バイオ原料にするか、いずれにしてもCO2という観点でどう代替できるか。イオンではPBの一つひとつを見直してどこまで減らせるか目標を立てていまして、30年までにプラスチック使用を半分くらいにしようと号令をかけているところです。それと資源循環ですね。サーキュラーエコノミーと言われているんですが、資源を再利用して循環させようというものです。その意味でもメーカーさんとお客様をつなぐ小売業の役割は極めて大きいように感じます。

 釣流 いまセブンイレブンの店頭などでペットボトル回収機の設置を増やしているんですが、きれいな状態ですと完全循環が可能なんです。これはお客様にキャップを外してラベルを剥がしていただいて初めて成り立つことではあるんですけど、本当にきれいに戻していただけている。日本はプラスチックをたくさん使っているわけですが、ゴミの分別は海外の方が見ても本当にびっくりするほどきれいだと思うので、こういうことはもっと世界に発信してもいいのではないでしょうか。

 ――セブン&アイはリサイクラーへも出資をされています。この狙いは。

 釣流 マスコミの皆さんからどんなビジネスをするのかと聞かれるのですが、ビジネスをするつもりは全くございません。私達はリサイクラーが足りないと思っているんですね。それで私達セブン&アイグループのところで買っていただいたものかどうかはわかりませんが、年間3億本は回収を行っておりまして、それを再生繊維などにして循環させていきたい。そのためのリサイクラーへの出資なのです。

セブン&アイ・ホールディングス 執行役員 経営推進本部 サステナビリティ推進部 シニアオフィサーの釣流まゆみ氏

 ――一方でイオンはLoopとの取り組みもスタートさせました。

 三宅 これは考え方がリサイクルではなくリユースなんです。お客様にデポジット込みで商品を買っていただいて、使い終わったら容器をお戻しいただきデポジットをお返しする。その容器をLoopさんが回収、洗浄してメーカーさんにお戻しして、メーカーさんが容器に充填して、その商品がまた店頭で販売されるというモデルなんです。日本人は牛乳瓶のビジネスモデルになじんでいますので全然新しいことではないんですけど、改めて考えてみようよと、一石を投じる意味で取り組んでいます。

 ――お客の反応はどうですか。

 三宅 実は当初思っていた以上に売れすぎてしまって、販売店舗を拡大したかったのですが計画に追いついていない状況です。首都圏の一部の店舗でしか販売していないんですが、北海道のお客様からお問い合わせをいただくこともありました。まだ5月に始めたばかりですのでこれから課題を検証していくんですけど、やってみて感じたことは、捨てる容器と捨てない容器、それぞれについて消費者の皆さんも私達もメーカーさんも考えるきっかけになったのではないかなということです。リサイクルして新しいペットボトルに再生するのがいいこともあるでしょうし、洗ってまた詰め直して販売するほうがいいものもあるでしょうし。それをみんなで考えていければいいなと。

 ――ペットボトルをリサイクルすればその分コストがかかるわけですが、これは商品価格に上乗せするのでしょうか。

 釣流 本来は乗せなければならないと思います。特にEUでは環境にいいものは当然高いという認識で、それでもそういった商品が選ばれるわけです。日本は残念ながらそうではないので、それをご理解いただくことも大切なことだと思います。とは言えペットボトルについては私達はやり抜くということです。井阪(隆一社長)からは回収機の2万店設置という宿題をもらっていますので。回収機もただではありません。それを吸収しながらでも、やらなければいけない販売者責任が私達にはあると考えています。

 三宅 再エネにも通じますけど、資源物のコスト要因も様々で、例えば規制がコストに若干跳ね返っている部分があります。これは国や行政が規制を改善することで下がっていくでしょうし、需要と供給のバランスもあるわけです。諸々そういうことを全部一緒にやっていくことで、コストを少しずつ下げていかないといけないのではないかと思うんですね。

 釣流 一時的にコストを負担することはやむを得ないと思ってやっていきますが、今後何十年と続けていくためには、社会全体でコストの引き下げをどうやって実現していくか。まさにこの10年にかかっているという気はしています。

1社より2社で声を上げるほうがインパクトは大きい

 ――消費者の関心が高い社会課題としては食品廃棄の問題もあります。品切れがないことを優先してきた結果、店頭での廃棄が増えた点に対してはどうしていきますか。

 釣流 私が入社した頃は、棚を空にしちゃいけないと教えられてきたわけです。ただこれもお客様に気づかせていただいたのですが、私がお店にいた10年くらい前のことですけど、閉店間際に商品が棚にいっぱいあるけれどこれは捨ててしまうのか、というお声を頂戴していました。ですので今は、当然遅い時間になればお客様も少なくなりますので、棚の少なさは目をつぶっていただくこともお許しいただいているというのが実態です。個人的には、棚に商品が入っていたほうがお客様はうれしいだろうという思いはあります。ただ、私達の一瞬の思いだけで製造に関わる皆さんが丁寧につくってくださったものを廃棄するのは罪悪だと思いますので、お客様にも我慢いただきながら、私達も常識と思っていたことを切り替えていかなければいけないと考えています。

 ――一方で、食品廃棄はサプライチェーンや家庭でも生じています。

 釣流 おっしゃるとおりです。食品廃棄全体でいきますと、店頭に並ぶ前の段階で、例えば農地で捨てられている不揃いの野菜などが少なからずあるわけです。そういうものをいかに製品化してお客様にお届けするかとか。まだまだやりきれてはおりませんが、川上から店頭までのところでどう廃棄を減らしていくかについても、知恵を絞っているところです。

 三宅 釣流さんがおっしゃるとおり、私達も食品ロスを出していることは事実です。ですのでそれをサプライチェーン全体も含めた中で、もっと効率化して減らしていくというのが一つあります。それともう一つは、お客様のところで捨てられているものが日本の食品ロスの半分を占めるんですね。これをなくすために私達に何ができるか。例えば商品の消費期限を延ばす。先日、PBの鶏肉で導入したんですけど、最新の包装技術でパックの中に酸化を抑える気体を入れることで、消費期限を2倍に延ばすことが可能になったんですね。そうするとお客様も安心して買うことができる。そもそもお客様も捨ててもいいやと思って買ってらっしゃる方はいないわけで。それを解決するのも我々小売業の使命だと思っています。

 ――今後、小売業が社会課題に対して果たしていくべき役割や連携をどう考えますか。

 釣流 私達の会社ではいま、協調と競争という言葉をよく使います。物流の世界はまさに協調で、コンビニ3社の共同物流に去年ようやく踏み込むことができました。今後は配送センターをどう運営していくかとか、課題は出てくるでしょうけど、やはりCO2を排出するトラックの台数をいかに減らしていくかの挑戦が始まっています。それと、先程の資源循環という点では皆様と協力できるかなというふうに思います。まだイオンさんとご一緒させていただいてはいないのですが、プラスチックやトレーは各社で回収したものが、リサイクラーさんのところで一緒になっていると思うんですね。それぞれが同じコストをかけるなら一緒に取り組んでコストを下げる。それができてくると良いなと思います。

 三宅 海外を見ていると、異業種交流の壁が本当になくなってきているなと感じています。日本でもセブンさんや私達、それとメーカーさんなどが参加している官民連携のCLOMA(クリーン・オーシャン・マテリアル・アライアンス)というプラットフォームはあるんですが、全くの異業種同士で一緒にできることもあると思っています。特にプラスチックの世界は課題が多いので、皆さんと研究を一緒にやらないといけないと感じています。それと、これまでは既存の規制やルールに対して、「それがあるからできません」で終わっていたものも、「このルールはおかしくないですか」と声を上げていく。それもイオン1社で言うよりセブンさんと2社で声を上げるほうがインパクトは大きいですよね。そういったことを今後ぜひやっていかなければいけないと思います。