世界中をほぼ同じように襲ったコロナ禍――それぞれの国のリーダー、専門家や市民社会がどんなふうに対応をしてきたのかを比べてみるのは面白い。トランプ前大統領(米)、メルケル首相(独)、マクロン大統領(仏)、ジョンソン首相(英)のことは日本のメディアでも時々伝えられるが、スウェーデン、ニュージーランド、ベルギーなどの小国のリーダーたちの声は届き難い。それを継続的に深掘りしたのが本書で、自国の行方に思いをはせる相棒になる。

「消毒薬を注射してそれが肺に届けば瞬時にウイルスを殺せる」とアンチサイエンスを振りかざしたタレント前大統領トランプ氏は、弾劾の瀬戸際にある。当初は「ハッピーバースデーの歌を2回歌いながらせっけんとお湯で手を洗えば防御できる!」とおどけてみせた政界の道化師ジョンソン氏や、「われわれは戦闘に入った!」と勇ましい命令口調だった司令官マクロン氏も、事態の深刻化や自身の感染を機に、謙虚と共感の政治へと変容を見せた。これに対し、貫禄の賢母メルケル首相は、民主主義と科学の盟主として不動の指導力を示した。「開かれた民主主義のもとでは、政治において下される決定の透明性を確保し、説明を尽くすことが必要です」と聞いて、耳の痛い大国のリーダーは少なくないはずだ。

 一方、小国のリーダーも印象的な言葉を残している。集団免疫を目指すと注目されたスウェーデン。だが、貫いたのは専門家・市民ファーストの姿勢だった。ステファン・ロベーン首相は「私たちが目指すのは、数カ月にわたって続けることができるような、持続可能な対策。コロナはすぐに消え去りはしないから」と語った。

 カリスマとは無縁で、9月末まで臨時女性首相を務めたベルギーのソフィー・ウィルメス氏は、誠実さと丁寧な言葉を尽くすことで等身大の共感と連帯を引き出した。慰問先の病院で医療従事者から背中を向けられると、「私たちは彼らの声を十分に聴いてこなかった。私たち政治家は、すべきことをしてこなかった。だから、今、私たちは腕まくりをして本気で取り組むべきなのです」と医療現場の改善にまい進した。

 ニュージーランドの若い女性首相、ジャシンダ・アーダーン氏は、コミュニケーション力が光る。「今、子どもを寝かしつけたところ」と自撮りのビデオメッセージで、市民に語り掛けた。「覚えていてください。自宅にとどまれば感染の連鎖を断ち切ることができ、ほかの人の命を救うことができることを」という彼女の言葉は、国民の意識と行動を変えた。

 どうやら、世界には、誰かに用意された原稿を棒読みするだけの政治家や歯切れの悪い専門家ばかりではない。この事実に読者は、はっとするかもしれない。政治と市民の信頼とは、指導力あるリーダーとは……。コロナ禍は、リーダーや市民社会の本質をあぶり出すリトマス試験紙なのかもしれない。

 本著は、『国際商業』『激流』に執筆する栗田路子さん、田口理穂さん、プラド夏樹さん、冨久岡ナヲさん、片瀬ケイさんなど、各国に長く居住するライター・ジャーナリスト7人が執筆したものだ。臨場感たっぷりに、コロナ禍の実態に迫っていく。

コロナ対策各国リーダーたちの通信簿                  〈著者〉栗田 路子 、プラド 夏樹、田口 理穂、冨久岡 ナヲ、片瀬 ケイ、クローディアー 真理 、田中 ティナ                      〈発行所〉光文社新書(税込 1140円)