物流の一本化で「1円でも安く」の仕組みを構築

「日本型ハードディスカウントストア(HDS)の実現」。イオン子会社で首都圏に展開するビッグ・エーが創業から40年以上変わらずに掲げる理念だ。同社は今年3月、同じ志を共有するイオン系DSのアコレと経営統合を果たす。ビッグ・エーを存続会社とし、統合後の店舗数は約350店、売り上げ規模は1000億円超になると見られる。スケールメリットの最大化、サプライチェーンの合理化で高まる節約志向への対応を図る。

「コロナ禍の今こそ統合にふさわしいタイミングと判断した。親会社主導でなく、我々から提案した」。そう明かすのはビッグ・エー、アコレ両社の社長を兼任する三浦弘氏だ。三浦社長の判断の背景には、今後の競争激化への対応がある。現状、消費減退に強いとされるDSは食品スーパー(SM)を上回る勢いで売り上げを伸ばしている。ビッグ・エー、アコレの2社も例外ではなく、2020年3−12月の既存店売上高はそれぞれ前年比16%増、20%増で推移した。しかし、「この優位性は時間経過とともに低下する」と三浦社長は憂慮する。SM各社が価格対応を強め、価格差が縮まれば、ビッグ・エー、アコレのような100坪規模の小型店は品揃えを絞り込んでいる分不利になるからだ。これに備えるべく、両社は統合で量をまとめ、DSとしての強みを最大限発揮できる仕入れ・物流体制の構築に着手。今より1円でも安くお客に商品を提供するための仕組みづくりに乗り出したのだ。

 それに向けまず始めたのが物流の統合だ。外部に委託していたアコレの物流を、ビッグ・エーの自社物流に一本化、昨年9月には先行して要冷品(生鮮、日配)の物流を統合した。これまでアコレの要冷品は午前の営業時間中に店に届いており、お客の買い物の邪魔にならないよう品出しをするのは効率が悪く、従業員の負担も大きかった。そこで物流自前化に伴いダイヤグラム(運行計画)を再構築。開店前に商品が届くようにした結果、品出しのスピード、生産性ともに向上したのだ。

 今年6月にはドライ・グロッサリーの物流も一本化を予定している。これに向け、ビッグ・エーの常温センターを約2倍に増床して対応する構えだ。「ビッグ・エーは24時間営業なので深夜に商品が届くが、アコレは概ね24時には閉まるので、常温品はその一時間ほど前に届くのがベスト。配送も店内作業も1番効率良く回るダイヤグラムを構築したい」と三浦社長は展望を語る。

 商品調達では、昨年11月に取引先への説明会を開催。既にNBの定番品から調達先の集約が始まるなど、安さの根拠を作るためのサプライチェーン改革は着々と進行している。

 ただ一方で、三浦社長は「統合までに何もかもを一緒にしたり、無理に片寄せすることはしない」考え。その最たる例が店舗名が持つブランド力。ビッグ・エー、アコレの二つの看板を当面そのまま残すのもそのためだ。「看板替えにコストをかけても商品は1円も安くならない。フォーマットや店内設備も無理に統一すれば余計なコストが発生してしまう。改装を機に段階的に変えていけばいい」(三浦社長)。

 システムも既存のものを残したまま、現状は両社の間にバイパスを通すことで対応している。統合に合わせて無駄なコストをかけることなく、状況を見ながら最適な仕組みを模索していく方針だ。

 組織体制も同様で、例えば商品部などは統合後も一つの部署の中にビッグ・エー担当、アコレ担当を配置する。調達先の集約に合わせて将来的には商談の窓口も一本化していくが、その際も安易な片寄せはしない。「両社のバイヤーから片方だけ残す、といったやり方はしたくない。例えばこれまで飲料全般を担当するバイヤーが両社に1人ずついたとしたら、これをソフトドリンク担当とアルコール担当に振り分ける。取引量が増える分、1人当たりの守備範囲を狭めることで、専門性を引き上げていく組織編成を考えたい」と三浦社長は柔軟な姿勢を示す。

 目指すところは、両社の強みをかけ合わせた本当の意味での合理化。今後の店づくりや運営方法には、両社の良いところを積極的に取り入れていく。例えばビッグ・エーでは近年、生鮮品の品揃えを強化。特に産地開発に力を入れる青果は産直比率が約6割にまで拡大、売り上げに占める構成比も年々高まっている。こうしたノウハウをアコレにも注入することで売り場の魅力向上を図る。一方、アコレは優れた教育システムやマネジメントツールを持っていることから、これらは逆にビッグ・エーにも取り入れていく考えだ。「統合において最も大切なのは人心の融合。お互いの文化や思想を認め、吸収し合ってこそ、初めて同じゴールを目指せる。自分たちのやり方が1番と思っているうちは革新なんて起こらない」は三浦社長の信念だ。

改装店で効率運営の新実験がスタート

 統合でボリュームディスカウントを図る傍ら、ビッグ・エーは日々の店舗運営においても徹底したローコストオペレーションを追求している。価格攻勢を強めるSM各社に対抗するには、「その価格からさらに2割安がDSとしての最低ライン」(三浦社長)と見ているからだ。これに向けた値下げの原資を捻出すべく、ビッグ・エーは矢継ぎ早に新たな実験を打ち出している。

 最新のチャレンジの舞台が、昨年11月にリニューアルしたビッグ・エー葛飾西亀有店(東京都葛飾区)だ。同店はビッグ・エーが効率運営のモデルと位置付ける「フューチャーストア」の2号店。19年リニューアルの1号店、足立扇店(同足立区)での取り組みを進化させ、新たな機能も付加した。

 まず大きく変わったのがレジだ。効率化の仕組みとしてセミセルフレジを導入、商品スキャン2台、精算機3台で運用している。これだけでも精算スピードの向上が見込めるが、加えてスキャン時の値引き処理を自動化する新技術も搭載した。従業員は商品に値引きシールを貼る際、バーコードに丸印のシールを貼る。精算時はこれを読み取るだけ。従業員が「○%引き」といった操作を手元で行う必要がないため、値引き処理が素早くなり、間違いも防げるのだ。そのほかこれまで手作業で行っていたレジ内の現金計算を自動化する機械も導入。これらを総合して、レジ周りの業務時間が1日当たり約50分削減されたという。

 葛飾西亀有店の効率化の取り組みはこれだけではない。同店では従業員にレジと連動したスマートウォッチを支給している。釣り銭切れなどのアラートが自動で通知されるほか、従業員同士の応援の呼び出しなどもこれで行える仕様だ。さらには自動清掃ロボットの実験も同店からスタート。これはプログラムに沿って自走し店内の床面を清掃するというもので、深夜などであれば20分ほどで店内全域の床清掃が完了するという。

 最新のデジタル技術がこれでもかと詰め込まれた印象だが、意外にも設備投資にかかったコストは通常店とそれほど変わらないと三浦社長は明かす。理由は、「デジタル化それ自体が目的ではないので、むしろ仕組みとしてはシンプルなものが多く、必ず作業改善とセットで取り入れている。今ある作業を見直し、そこにかかっている労力・時間をどうやったら減らせるか、と考える方法論が先にある」からだ。

 そうした考え方・工夫は什器にも表れている。今回、チルドの多段式ケースにはスライド棚を使用した。これまで牛乳など1リットルパックが並ぶ棚は重さに耐えられず導入を見送っていたが、耐荷重量を強化することでスライドを可能にし、品出しの手間・時間を減らした。そのほか事務室をレジカウンターの背後に移設して移動距離を短くするなど、作業のあり方を見直して無駄を省く手法は細かなところまで行き届いている。

 こうした取り組みの結果、葛飾西亀有店の売り場面積は150坪と同社の平均よりも1.5倍広いにもかかわらず、従業員数は通常店と同じ2−3人(ベーカリー担当除く)で運営できているという。今後は少なくとも3カ月の期間を設けた上で、成果・課題を検証。セミセルフレジなど効果の見え始めているものから他店にも拡大し、店舗運営の効率化・標準化を一段と突き詰める考えだ。

葛飾西亀有店ではセルフレジ導入に合わせて値引き処理やレジ上げ時の現金計算を自動化する仕組みを入れた(上)、無人ロボットの実験も始めている(下)

お客のニーズに対応した商品構成を模索

 生産性向上の観点では、商品数も極力絞り込むのがDSのセオリーだ。現在、ビッグ・エーのSKU数は約2400、アコレは約2000程度に抑えられている。しかしそうした中でも両社は商品構成を絶えず見直すことでお客のニーズに対応。ローコストを守りつつ、競合と差別化するための商品政策にも積極的に取り組んでいる。

 中でもビッグ・エーにおいて差別化の武器となっているのがPB。三浦社長が掲げる今後の開発のポイントは、1人・2人世帯の増加に対応した小容量、そして選んで組み合わせができる単品展開だ。「最近非常に面白いと思ったのが100円ローソンさんの取り組み。『100円おでん』と銘打ち、おでん種を小分けでずらっと並べている。年末はおせちの具材を取り揃えていた。あの量目・展開はSMがまだできていない領域。小型DSとしてはぜひ見習って強化していきたい」。またカテゴリーでは、巣ごもりでますます需要の高まる冷凍食品の開発にも引き続き力を入れていく。

 従来、同社のPBは「ビッグ・エー」のロゴ入りでストアブランドとして打ち出していた。が、現在はアコレとの共通化に向けて徐々にロゴをなくしていっている最中だという。商品によってはアコレの店でトップバリュと一緒に並ぶことも想定されるが、「(ビッグ・エーのPBは)お客様にはNBと同じ感覚で手に取ってもらえるはず」と三浦社長は見込んでいる。

 もう一つ、商品政策でビッグ・エーが強めているのがラインロビングだ。ローコストで温かい即食を提供できないかということで始めたインストアベーカリーの「デリベイク」は現在24店にまで拡大。冷凍生地を焼成する方法で89円均1という低価格を実現。種類も豊富に展開し、お客の支持は年々高まっている。

ラインロビングでニーズ対応を強化。インストアベーカリーの「デリベイク」は24店に拡大

 直近では非食品の強化を掲げ、キッチン用品などの雑貨を格安でワゴン陳列する「トレジャーアイランド」も28店で導入している。前述の葛飾西亀有店では中央の通路で大規模な売り場を展開。コロナ禍で注目の集まったアウトドア用品や筋トレ・健康器具などを並べ、売れ行きは好調という。今後は100坪規模の標準店における見せ方を研究し、ニーズを捉えた商品構成を模索し続ける考えだ。

 統合後の新規出店については、既にアコレとして出すことが決まっている案件以外は原則ビッグ・エーとして進める方針。これまで通り、年当たり既存店の店舗数の1割を目安に積み増しを図る。20年度はコロナ禍で交渉・工事が停滞し、この目標値には届かなかったが、21年度はビッグ・エー、アコレの合算で350店規模になることから「最低でも30店は出したい」と三浦社長は意気込む。これに向け、撤退した外食やアパレル、レンタルビデオショップなどへの居抜き出店の仕込みも進める構えだ。

 アコレとの統合を機に、ローコストオペレーションと商品競争力に一段と磨きをかけるビッグ・エー。両社の強みの融和により、引き続き日本型HDSの確立に邁進していく。

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